第20話 酒場
杖の性能を体感的に検証し、魔法回復している間にあれこれ今後の戦闘の組み合わせ方を考えることを交互に行っていたら、昼飯も食べずにあっという間に夕方になってしまった。
日が沈みかけたら急に腹が減っていることに気づいた。
1Fの食堂の夕食にはまだ早いし、手持ちの携帯していたホーンラビットの干し肉はもう無い。
どうしようか考えていたところ、歓楽街に行って何か食べようと思い、宿を出た。
テクテク、夕方の街並みを観察しながらゆっくり歩いていると、あかーい夕焼け空がうすくなり、かわりに夜の帳が徐々に下りてきて暗くなる。
「なんか幻想的だなぁ」
西洋的な街並みを見ながら空が変化していく様子が、なぜか非常にせつなく、また美しく感じた。
そのまま、歩いていくと一際明るい区画に入っていく。
これまで昼間に通ったときは静かなところだなと思っていたが、夜になると一転していた。
ちょっとエッチな格好をしたお姉さん達が、「おいで、おいで」と手招きしてくる。
「いかんいかん。昨日あんな大金とパッとつかったんだ。とりあえず当分はいろんな誘惑はがまんがまん。」
俺はあっちによろよろ、こっちによろよろとエッチなお姉さん達の下に吸い寄せられそうな気分に活を入れて、魔の誘惑の領域を切り抜け、やっとの思いで飲食店が立ち並ぶ通りにたどり着いた。
「ここがいいな。」
ひらひら短いスカートを棚引かせた、かわいいウエイトレスさん数人が、あっちのテーブルこっちのテーブルとクルクル忙しそうに給仕のお仕事をしていた。
「う~ん、かわいい!!」
ウエイトレスさん達はみな一様にかわいいが、なぜかみんなキャラ被りしておらず、それぞれ際立った容姿をしている。
「ここのオーナーは見る目が肥えてる。」
俺は心のなかでひとり、うんうんと大きく頷いて、ウエイトレスさんの一人に手を引かれながら進められるままにカウンター席に座った。
「何になさいますか?」
黒髪でストレートのロングヘア、細身で美少女という言葉がしっくり来る女の子が、満面の笑顔で聞いてきた。
おれはそれを見て「グッジョブ」と心でガッツポーズをして、
「えーっと、このお店はじめてなんだけど、何が人気なの?」
正直宿屋の食事しかしたことが無いのにちょっとえらそうな感じで話し、「わたし何もわかりませーん。おしえてちょ」って言うニュアンスを付け足して聞いた。
「えっとぉ、飲み物はエール酒が一番出ています。食べ物は白身魚の酒蒸しとレモンをかけた鳥のから揚げが大人気です。」
腹が減って背中とお腹がくっつきそうだったので、
「じゃぁとりあえず、エール酒と魚の酒蒸しとから揚げのみ3人前でお願い!」
「わっかりましたー。ご注文ありがとうございます。」
ウエイトレスさんは、大きな声と目一杯の笑顔で注文を受けて厨房のほうに走っていった。
その後すぐにエール酒と豆の入った小皿を持ってきて、他の料理は出来次第すぐに持ってきますといって別のテーブルの注文を聞きに小走りで行ってしまった。
俺は塩茹でされた豆を一粒ずつ摘みながら酒を飲み、クルクル動き回るウエイトレスさんを眺めて心の疲れを癒すのだった。
その後、エール酒を飲み干し、つまみの豆がなくなったころに、大量のから揚げと魚料理が運ばれてきたのでもう一杯エール酒を注文した。
正直、料理の味は良くもなく悪くもない感じで、宿屋の食事に比べれば2段階くらい落ちる。
まあ、店のコンセプトが違うのだろう。
どう考えてもこの店の力の入れどころは、目で見てわかる。
ちなみに客は一人の野郎が圧倒的に多い。
俺もその一人だが。
俺はその後、白身魚を平らげ、から揚げをパクパクつまみウエイトレスさんを眺めて幸せな時間をすごした。
いつもはあまり好んで酒は飲まないのだが、かわいいウェイトレスさんを見ていると、なぜか俺に「飲んで飲んで」と語りかけているような感じがして、計5杯のエールを飲み干した。
ほろよい気分になって残りのから揚げを一気に食べ、いい時間になったので宿に帰ろうと思いお会計を済ますために席を立ったとき、店の外で怒鳴りあう大きな声が聞こえた。
 




