第3章 お返しするのは構いませんがモフ助は帰りたくないようです!
アデレードとモフ助をゴミのように追い出したセラフィーノ領。
もちろん爆速で崩壊していた。
守護神獣(モフ助)の加護がなくなった畑はあっという間に砂まみれ。
作物どころか草も生えなくなる。
モリモリと出現するモンスター達が「ちーっす!」とばかりに村々を襲う。
領民はこぞって逃げ出した。
フェルディナントの兵士たちは今までのモフ助の加護のおかげで戦いに慣れていない。
そしてフェルディナントは戦いより狐狩りが好きだった。
「よし! 今日も三頭仕留めたぞ!」
「流石です! フェルディナント様!」
「フェルディナント様! 素敵!」
フェルディナントとセレナは自慢の白馬にまたがり調子よく狐を追っていた。
その時!
ズルッ!
馬の足が滑った!
ズシャァーー!
ぎゃー!きゃー!
ドスッ!ドスッ!
放り出されたフェルディナントとセレナは、運良く?柔らかな土の上に着地した。
「ご無事ですかフェルディナント様! セレナ様!」
「大丈夫だ! 危うく地面に叩きつけられるところだった」
「う、臭っ! フェ、フェルディナント様、それは狐のうんこの山です!」
フェルディナントとセレナは顔についた泥をお揃いの赤いチェックの狩猟服の袖で拭った。
「グフゥ!」
「きゃー!臭い、臭すぎる!何よ犬臭くなったじゃない!」
「なぜでしょう、最近のご領地は狐のうんこまみれなのです」
「何かの呪いでしょうか……」
「よくわからんが、そろそろ戻らねばな。重臣達との会議の時間だ」
「えー面倒ですわ」
「あっ!お二人とも近寄らないでください!」
「うぐっ!」
みんなで騒ぎながら時間に追われて城に戻ると——
「フェルディナント様ぁぁぁ!!!!守護神獣をどうされたのですかアァァ!!!!」
セラフィーノ家一番の重臣、アルベルト(86)がフェルディナントの胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄った。
「は? 神獣? あぁあのバカ犬か、あれはアデレードにくれてやった」
「バカ犬ではありません、あれは我がセラフィーノ家に伝わる守護神獣フェンリルなのです!」
「……いやだってみんな放ったらかしだったじゃないか! 餌やってたのあの女だけだぞ」
「いいから取り戻してきなさいッ!!」
重臣達は全員ブチギレていた。
「ぐぐぅ……」
フェルディナントとその一行は着替えもそこそこに強制的に叩き出された。
アデレードのいるマクシムス領に——
◇◇
マクシムスとアデレードは、彼のお城の一室で日曜午後のひととき、ゆったりと香り高い紅茶とお菓子を楽しんでいた。
ソファーの足元には丸くなってウトウトするモフ助が尻尾をゆっくりと振っている。
コンコン
「マクシムス様、フェルディナント・セラフィーノ公爵様がお見えです」
「ご苦労。しかし用はない、お引き取り願え」
マクシムスは紅茶に口をつけ、秒で即答する。
「お待ちください! お待ちくださいお客様!」
「ええぃ! ここにいるのだろう! アデレードッ!」
バーン!
メイドの制止も聞かず、フェルディナントと取り巻きの一行が部屋に押し入ってきた。
「おぉ、ここにいたのかアデレード! 探したぞ!」
「なんの用だ?セラフィーノ公」
ビクッ!
フェルディナントはマクシムスの氷山のような視線に一瞬身を縮めたが、気を取り直して続けた。
「ま、まてマクシムス! 私はアデレードに話があるのだ!……アデレード、私は真実の愛に目覚めたのだ。セレナはとんだ女狐だったのだ。やはりお前こそが公爵夫人に相応しい。我が領に戻ることを許してやるぞ!」
「フェルディナント、彼女はすでに私と婚約済みだ。それはプロクシマ家への宣戦布告と受け取るが、良いか?」
マクシムスは指を鳴らした。
パチン!
ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら重装騎兵の一団がなだれ込み、一瞬でフェルディナント一行を取り囲む。
「ヒエッ!」
「ひぃぃ!」
フェルディナントの取り巻きたちは漏らさんばかりの勢いでガタガタと震え出す。しかしフェルディナントは胸を張りながら涙目でアデレードに叫んだ。
「わ、わかった! しかしフェンリルは返してもらう。あれは代々セラフィーノ家のものだ。お前にくれてやったと言う証拠があるなら出してみろ! お前は盗んだのだ!」
たしかに、証拠はなかった。
アデレードはたっぷり三分考え込んで、悲しそうに下を向いた。
「——仕方ありませんね。おっしゃるとおり、もともとあのお城にいた子。モフ助、おかえり」
「おおっ! 話がわかるではないか! おいっ駄犬! じゃなかった神獣様、帰るぞ! よし、急いで繋ぐのだ!」
そうフェルディナントが取り巻きに促し、彼らが鎖を持ってモフ助に近づくと。
グルルルルルルルルッ…………!!!!!
地獄の底から響くような唸り声が部屋を震わせた。
モフ助はゆっくりと上体を起こした。
真紅の瞳は炎のように揺れ、全身の毛が世界を覆わんばかりに逆立った。
それは神々を滅ぼす最終戦争の始まりを告げるかのようだった。
モフ助はフェルディナント一行を睨みつけた。
ヒエエェェェエエェエエエェ!!!!!!!!!!!!
ガッ!ドスッ!!ドサッ!!!!
フェルディナント一行はその眼力で部屋の壁に無様に叩きつけられた。
おぉっ!
見守る騎士団が驚愕の声を上げた。
「アデレードが許可したのであればお返しする。が……無理に連れ帰ったらそちらの領土は一木一草生えぬほど滅亡するのではないか?」
マクシムスは哀れみの目で見下ろしながら言い放った。
「イエェェェ! ゴメンナサイィィ!!!」
「待ってくださいフェルディナント様ぁぁぁ!」
「お助けぇ……!」
フェルディナントは涙と鼻水を流しながら一目散に部屋の外にダッシュした。
取り巻きも転がるようにして後を追った。
「……少し、匂いませんか?」
一行が去った後、筆頭騎士ガイウスが兜の面当てを上げ、壁の下の染みを見た。
「窓、開けますね」
アデレードが慌てて駆け寄った。
「これ、何の匂いだ? だれか消臭マジックアイテムを持ってきてくれ! 臭くてかなわぬ」
◇◇
大聖堂の、重厚な扉が開いた。
天を揺るがすような大歓声が響き渡った。
純白のドレスに身を包んだアデレードの手を、マクシムスはそっと握った。
レッドカーペットの両脇に並んだ重装騎士団が叫ぶ。
「プロクシマ侯爵家、アデレード様、マクシムス様に栄光あれっ!」
陽光を浴び、煌めく剣が一斉に抜かれ、アーチを作った。
「ばんざーい!」
「アデレード様、ばんざい!」
「マクシムス様、ばんざい!」
「モフ助様ー!」
聖堂前を埋め尽くす領民たちの怒涛のような歓声が轟く中、マクシムスとアデレード、そしてモフ助はそのソードアーチの下をくぐり、新たな一歩を踏み出したのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
アデルとマックス、そしてモフ助の未来に幸あれ!
「アデル末長くお幸せに!」「帰りたくないってレベルじゃねぇw!」「更地どうなった?」と思っていただけた方は、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆(星)】と【ブックマーク】をぽちっと押してやってください。
バカ王子一行の匂いが落ちなくなる呪いが強化されます(次回作執筆の原動力)!
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