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第1章 婚約破棄されたら普通は泣きますよ!

セラフィーノ公爵の誇るお城の大宴会場はまばゆいばかりのシャンデリアの煌びやかな光と軽快な音楽に包まれていた。

夜会に招待された周囲の大貴族の面々がテーブルに置かれた豪華な料理を前に集まり、ワイングラスを手に談笑している。

しかし、その和やかな空気は、壇上に立ったセラフィーノ家当主、フェルディナントの締まりのない怒声によって一瞬で消し飛んだ。


「アデレード・ヴェルゼ侯爵令嬢。前に出よ!」


楽団の音楽が、止まった。

数百人の視線が一人の少女に集まった。

「ヒェッ」と声が出そうな状況だ。


「どうかなされましたか、フェルディナント様」


そう言って、アデレードはフェルディナントの前に進み出た。

その足は震えているのが誰の目にもわかる。


「アデレード、貴様との婚約は今日のこの場をもって破棄とするぅ!」


「な、なぜでございますか、フェルディナント様」


「知れたことを、お前は私の婚約者である立場を笠に着て、このセレナを陥れようとしたな。お前のような嫉妬深い女はこのセラフィーノ公爵家に相応しくない」

 フェルディナントの脇には怯えた様子ですがりつく男爵令嬢の姿が……。


「わ——私そんなことしていません——」


アデレードの声は消え入りそうになっていた。

彼女は転生者でもなければサバサバ令嬢でもない。

普通の女の子なのだ。


「それに、ちょっと犬臭いですわ!」

セレナが付け加えると、どっと笑いが湧き上がった。


「さっさと荷物をまとめて里に帰る準備をすることだ!」


フェルディナントはさらに勝ち誇ったように言い放った。

おぉっ!という歓声とも溜息ともつかぬ声が周囲から広がった。


誰かが手を叩き始めると、それは次第に万雷の拍手となって宴会場を満たしていった。

アデレードは目に涙を溜めて頭上のシャンデリアを見つめた。



翌朝、お城の片隅。

前夜から降り続いた雨は上がり、空には綺麗な青空が広がっていた。

アデレードは鎖で繋がれた白い超大型犬に話しかけた。


「ごめんね、モフ助。もうお前のお世話はできないの。私、クビになっちゃった……」


彼女は最後のブラッシングをしていた。

丁寧に、愛情のこもった手つきだった。


 クゥン……


モフ助の尻尾が力なく振られた。

「三年間、ありがとうね」


そこに、パカパカと蹄の音を鳴らし、馬の一団が近づいてきた。

狐狩りに行くフェルディナント達一行の馬列だ。

後ろにはキャンキャン吠える猟犬が続く。

すると馬上から、傲慢不遜な声がアデレードに投げつけられた。


「まだいたのか。犬同士仲がいいな」


アデレードは立ち上がり、目を伏せて答えた。


「フェルディナント様……この子に最後のお別れをと思いまして」


「フン、であれば丁度良い。その駄犬はお前にくれてやる」


フェルディナントは王都から取り寄せた赤いチェックの狩猟服を翻した。

そして懐から鍵を取り出すと泥の水溜まりの中に放り投げる。

アデレードは馬上のフェルディナントを見上げた。


「お前が餌をやり続けたせいで薄らデカくなってしまったのだ。無駄な餌代や注射代もなくなるし願ったり叶ったりだ。家に戻って二匹仲良く暮らすが良い」

ハハハハハ!!!!

取り巻きたちの嘲笑が響いた。

アデレードは泥の中に手を入れ、鍵を取り出した。

その瞬間。


グルルルルルルルルッ!


モフ助は地面に横たわったまま目を開くと、フェルディナントを睨みつけた。


「ヒエッ!」


フェルディナントは馬上でバランスを崩し、あわや落馬というところで取り巻きの一人にしがみついた。

「あ、相変わらず躾のなっていない駄犬だな!」

「そうですよフェルディナント様、あのような惨めな女、相手にする価値もありません。放っておきましょう」

「お早く! 狐がフェルディナント様を待っていますよ!」

「コンコーン!」

「あ、ぶつかる!」

「ごめんごめん!」

「ギャハハハハ!」

一団はけたたましい笑い声を残し、泥を跳ね飛ばしながら去っていった。




アデレードは城を出て歩いた。

王都の実家までは遥か遠い。

とりあえずは街まで行くしかない。

「あの子、どこにいってしまったのかな。初めて鎖を外されて嬉しかったんだろうけど……」

モフ助は城を出ると風のようにどこかに去ってしまった。

雨上がりの道は泥だらけである。


すると、進む先、街の方から騎士の一団とその後を続く馬車が見えてきた。

アデレードを認めると、その一団は速度を増し最後は全力となった。

「え?」

アデレードの手前で止まった馬列から二人の騎士が降り立った。

残りの騎士達は馬を止めその場で整列する。

後ろの馬車から、正装に帯剣した一人の若者が飛び出した。

若者は、二人の騎士を従え、アデレードの前に走り寄った。


「アデレード・ヴェルゼ様でございますか?」

「は、はい」

それは聞き覚えのある声だった。


若者は躊躇なく泥の中に左膝をつき、アデレードを見上げ、叫んだ。


「マルクス・プロクシマ侯の息子マクシムス以下十騎、ここに見参!」


背後の二名の騎士は一糸乱れず流れるような手つきで抜剣し、切っ先を天に向け剣礼を捧げた。


「アデレード様が王都に帰還されると聞きおよび、参上いたしました! どうか我らに道中の警護をお命じください!」


アデレードの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

若者はじっと泥の中に膝をつき、アデレードを見つめた。


しばらくして泣き止んだ彼女は目の前の若者に声をかけた。


「マックス?なんでそんな他人行儀なの?服が汚れちゃう。立って」


「あぁ——」

マックスと呼ばれた若者は笑顔で立ち上がった。


二人は幼馴染であった。


「三年ぶりかな?」

アデレードの強張っていた顔が、数日ぶりに解けた。

「それくらいか。あぁ、アデル。君がとんでもないことになっていると昨夜聞いて、馬車を飛ばしてきたんだ。本当はもっと早く着きたかったが、すまない」

「まあ」

「王都の君の実家のお屋敷まで案内したい。ただ王都までは遠い。まずはこの近くのうちの別荘で一休みしないか?」

「ヘレナおばさまのところ?」

「そうだ、彼女も待っている。自慢のシナモンパイを焼いてね」

「あれ、おいしかった!マックスあの時食べすぎて……」

アデレードは笑い出した。

「あぁ、部下達の前でその話はやめてくれ!」

後ろの騎士二人がわずかに相好を崩したのを感じ、マクシムスは天を見上げ笑った。


その時だった。


「抜剣!」

「戦闘準備!」


背後の騎士達から号令が上がった。

剣を抜いた甲冑姿の騎士達は白刃を煌めかせ二人をすり抜け、前に出た。


「防御陣!」

騎士達の盾がガチガチと森に向かって音を立てて並べられた。

その間からは真っ直ぐに剣が突き立てられている。


そして、その剣の先が指し示すのは森の中——


それは現れた。

「コンコーンじゃねぇ(怒)」「出待ちかよw!」「いったい何助があらわれるんだー!(棒)」と思っていただけた方は、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆(星)】と【ブックマーク】をぽちっと押してやってください。


バカ王子が狩りの途中で狐のう⚪︎こを踏む確率が爆上がりします(執筆の原動力)!

(感想も「バカ王子はう⚪︎こ踏め!」でお願いします!)

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