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『ハプニングバーで人生が狂って、やっと普通になれた』  作者: こうた
第一章 「何者でもない日々」

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15/32

第15話「夜が終わるのが、少し嫌になった」

日高 恒一は、終電の時間を覚え始めていた。



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以前は気にしたこともない。



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仕事が終われば帰るだけ。



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だが最近は違う。



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“いつまでいられるか”を考えている。



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会社。



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朝。



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眠い。



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でも不思議と嫌ではない。



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田辺が欠伸をしながら言う。



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「昨日ちょっと長くいたな」



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平岡は笑う。



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「気づいたら時間飛びますよね」



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岡本は缶コーヒーを開ける。



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「居心地いいからな」



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その言葉に、



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誰も否定しない。



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日高も。



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昼休み。



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スマホを見る。



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何気なく、店の営業時間を確認している自分に気づく。



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(何やってるんだろ)



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少しだけ笑う。



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でも手は止まらない。



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夜。



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エレベーター。



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もう迷いはない。



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数字が上がるたび、



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少しだけ気持ちが軽くなる。



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扉が開く。



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音。


光。


人。



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その空間に入った瞬間、



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日高は自然に息を吐く。



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(ああ)



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落ち着く。



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その感覚が危険だと分かっている。



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でも否定できない。



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真白が近づく。



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「こんばんは」



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「こんばんは」



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もうこの挨拶だけで空気が変わる。



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真白は少しだけ笑う。



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「最近、来るの早いね」



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「そうですか?」



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「うん。前より“帰ってくる感じ”ある」



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その言葉に、少しだけ胸がざわつく。



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“帰ってくる”。



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その表現が、



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最近しっくり来てしまう。



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奥では美玲が煙草を吸っている。



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こちらを見て、静かに言う。



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「もう夜の方が本体じゃん」



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日高は苦笑する。



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「そんなことないです」



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だが声に自信がない。



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美玲は続ける。



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「最初はみんな、“遊び”って言うんだよね」



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「でも気づいたら、“必要”になってる」



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その言葉が妙に重い。



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必要。



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本当にそうなのか。



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でも最近。



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ここに来ない夜を想像すると、



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少しだけ落ち着かない。



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その時点で、



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答えは出ている気もした。



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席。



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会話。


笑い。



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時間が流れる。



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以前なら、



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「そろそろ帰るか」と思っていた。



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でも最近は違う。



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(もうこんな時間か)



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“終わる”のが早く感じる。



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終電のアナウンスが、



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少しだけ嫌だった。



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帰り道。



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夜風。



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ネオン。



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田辺が笑う。



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「日高、お前ほんと変わったな」



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「そうですかね」



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「前より人間っぽい」



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その言葉に少しだけ驚く。



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人間っぽい。



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以前の自分は何だったんだろう。



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電車。



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窓に映る顔。



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少しだけ表情が柔らかい。



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でも同時に。



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何かを失い始めている顔にも見えた。



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(これ、いい変化なのかな)



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問いは浮かぶ。



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だが。



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その答えを考える前に、



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また次の夜が来る。



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第15話 終

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