分かち合う痛み
新緑の春の息吹の中、ガウス家に新しい生命が誕生しようとしていた。産気づいたカリンに気づいたフェンリルは、娘のセシリアにオブリー家まで走らせルディへの伝言を頼んだ。その足でセシリアはヴィグリー家、クラーク家にそれぞれカリンの様子を伝える。一方、ルディに使い魔で報せを送ったアナスタシアは馬車を出しハワーズ医師を迎えに行く様指示を出してくれた。セシリア姉弟はイェンナが預かり、ルリは自宅からタオルを幾つか持ち出し、アナスタシアはいつでも使える様産湯の準備をし部屋の中から聞こえる辛そうな声をガウス家の台所で聞いていた。そこへ、この家の若い主が帰ってきたが顔面蒼白で汗をかき呼吸も苦しそうである。
「どうしたのルディ⁉︎大丈夫?」
「ゆ・・・指輪が・・・」
カリンと同じ結婚指輪は当然の如く、対の魔具として作られている。その指輪を通じて彼はカリンの痛みを緩和されてはいるものの、同じ様に味わっているのだと言う。
「王宮にいる時に突然感じたことのない痛みを覚えまして、これはカリンが産気づいたんじゃないかなとは思ったんですけど・・・いやぁ・・・凄いですね女性は、これに耐えるんですから。」
そう言って寝室の扉の前に立つ、中からはカリンの苦しげな様子が伝わってくる。
「カリン、聞こえるかい?今帰ったから、ここにいるから頑張るんだよ。辛かったらいつでも呼んで!」
中からフェンリルが出てきた、出産までまだ時間がかかりそうだということと、ルディには側にいてほしいが痛みが伝わっているだろうから部屋からなるだけ離れて待っていてほしいとの伝言を伝えた。
「指輪を外さずに申し訳ないと言っていましたよ、今から外しましょうか?」
「それがダメなんです、あれは僕の魔法がかけてあるので僕にしか外せないんですよ。」
「あらまぁ、じゃあやはりカリンの言う通りなるだけ離れた場所でお待ちくださいな。どのみち男性に出来ることは待つ事しかありませんもの。産湯はアナスタシア様が沸かしてくださいますし、ルリさんはタオルの換えを貸し出してくださいました。うちの子はイェンナさんが預かってくださってます。だから、そうですねぇ本当にルディ様にはお待ちいただくしかないんですよ。初産ですから時間もかかりますし、とりあえずお茶でも飲んで落ち着いてくださいませ。」
「あの!カリンの様子は?」
「初めてにしては頑張っていますよ。母子ともにこれなら無事に産まれてくるだろうと、助産師さんと先生が仰っていました。」
「ありがとうございます。あの、カリンをよろしくお願いします。」
癖毛の黒髪の魔法師がこんなに頭を下げる相手はハヴェルン中を探してもフェンリルぐらいだろう。そのフェンリルは微笑んで「励ますくらいしかできませんけど。」と、言い残し部屋に入って行った。
「ルディ、ちょっとおいでなさい。」
アナスタシアに呼ばれ居間に入ると癒術をかけられた。
「ああん、やっばりあなたの術式は複雑だから難しいけどこれで少しは痛みを散らせると思うんだけど。」
「ありがとうございます。すみませんこんな時に役立たずで。」
アナスタシアとルリが顔を見合わせて笑う。
「エイナルもそうだったわよ。」
「私の妹の出産も男性陣はオロオロするばかりでしたよ、それに比べてルディさんはカリンさんの痛みを分かち合ってるじゃないですか。」
「そうよ、すごくいい体験をしてると思うわ。」
二人の女性に慰められ時間は過ぎて行き夕刻、空が茜色に染まる頃新しい生命の産声が響き渡った。
寝室の扉が開きアナスタシアがすぐに呼ばれる、駆けつけたルディにフェンリルが扉を締めながら伝えた。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ。」
ルリが安堵の溜息をつき、イェンナに報告してくると玄関を出るとルディはその場にへたり込んだ。そして、しばらくすると魔法省からの技師官が派遣されてくる。
「ガウス国家魔法魔術師どの、この度はおめでとうございます。私は魔法省から派遣されてきました魔法魔術技師官です、早速で申し訳ないのですがお子様の魔力の有無を測らせて頂きたい。」
「えぇっ⁉︎僕もまだ顔を見てないんですよ?」
「失礼致しました。では、お先にご対面ください。」
ちょうどそこへアナスタシアが出てきた。
「あら、魔法技師官殿?じゃあ、ルディ今のうちに入っちゃいなさいよ。赤ちゃんは産湯で綺麗になってカリンと寝ているから。」
「あ、いいんですか?」
「自分以外の男に先に顔を見られたくないでしょう?」
ルディはこくこくと頷くと部屋の扉をノックした、フェンリルからどうぞと言われ中に入る。
真っ黒な髪の小さな生命がそこにいた。
「おめでとう、ありがとうカリン。」
「男の子よ、あなたと同じ黒髪なの抱いてあげて?」
恐々と慣れぬ手つきでルディが赤ん坊を抱き上げる。
「いま、魔法省から技師官が来ている。視てもらうけど、覚悟はいい?」
「ええ、いいわ。その子は・・・魔力持ちよ、あなたにもわかっているんでしょう?私、感じるのあなたと同じ力をその子から。」
「・・・うん、魔力持ちだ・・・」
そこへ魔法技師官が入室を許され、赤ん坊に対面しすぐになりたての両親に向かいにっこりと微笑んだ。
「もう、ご存知のようですね。間違いなく魔力持ちのお子様です、おめでとうございます。学校に上がる年にはまた、お手紙を差し上げますので私はこれにて失礼致します。」
そう言うと彼はその場で移動魔法を使い魔法省へと消え去った。




