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ふたりで紡ぐ物語  作者: にしのかなで
第三章
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麦の房 2

ウェスティン侯爵家の家紋が入った馬車の中では、ヨハンナ・ベルが言葉をなくしていた。


「突然の事で驚かれたでしょうが、ご理解頂けましたか?」


「そんな、でも・・・いくら主神のお言い付けでも殿下のお気持ちもありますし、私の様な花の盛りを過ぎたものよりまだお若いご令嬢が何人もいらっしゃるのに・・・。」


魔法師がそこで柔らかく微笑った。


「殿下も同じ様にあなたの気持ちを心配していらっしゃいました。それにこれは神の定めた運命です、あなた方のお気持ちは通じていると思いますが?」


「そんな、まさか・・・。」


そこまで話した時に馬車が急停車した。丁度オルボアから街へと抜ける木立の中である。


「厄介なのが来たかな。」


魔法師が外を覗き杖を出す。


「ああ申し遅れました、私本日貴女様の護衛を務めさせていただきますジャン・クロード・ベイカーと申します。では、ヨハンナ様何があってもこの馬車から降りぬ様に。」


そう言うと彼は金茶の髪にフードを被り素早く外に出て行った。


「何れの家の方々かは知らぬが、神に選ばれし花嫁に刃を向けるおつもりか。」


「選ばれていても殿下の前に出られなければ意味はなくなる!」


「本気か?神を敵に回すのだぞ、無用な殺生をする前に刀を収めて貰えんか。」


「たかが魔法師一人相手にそんなわけにはいかねぇ。俺達ゃたんまり報酬を貰ってるんだ、悪いがここで引くわけにはいかねぇな。」


「そうか、残念だ。なるべく手荒な真似はしたくないんだが・・・」


ベイカーがそう言うと同時に辺りが暗くなり強い風が吹き始めた。木々がざわめき、木の葉が舞う。その木の葉は野盗ら一人一人の周りを覆い始めた。


「なっ!痛てっ、痛てぇっ」


「お頭!前が見えねぇっ、ひっ!痛てぇっ」


「お前、もしかして風使いのベイカーか⁉︎」


「ああ、名乗っていませんでしたね。ジャン・クロード・ベイカー王室付き魔法魔術師です。今日の役目はウェスティン侯爵令嬢の護衛です。あなた方は憲兵が来るまでしばらくそのまま木の葉で戯れていて下さい。神の一撃よりは痛みもましでしょう。では、先を急ぐので失礼。」


馬車のドアが開き穏やかな表情でベイカーが入って来る。


「何事もありませんでしたか?」


「あ、はい。あの、あの者達は?」


「今日から貴女を付け狙う氷山の一角です。王弟殿下の花嫁の座はやはり価値がありますからね、暫くは身の回りの安全にご注意頂くことになります。そのために私がお迎えに上がりました。」


「・・・覚悟を決めなければならないのですね。」


「そうです。奴らは平気で貴女の命を狙いに来ます、貴女は神に選ばれた花嫁としてこの現実に向き合っていただきたい。」


「わかりました、道中よろしくお願いいたします。」


馬車は静かに走り出した、先に出しておいた使い魔の報せで途中現場に駆け付ける憲兵とすれ違う。穏やかな天候の下、戴冠式に賑わう街中を馬車は王宮へと走り続けた。


戴冠式は滞りなく終わった。これで今日からアルベリヒはハヴェルン国王となる。式典の後バルコニーに新国王家族が出揃い、特別に解放された王宮敷地内に集まった国民に向け二度挨拶をする。それが済めば後は夜会まで身体を休められる。実際体力のない子どもだけでなく、その両親も緊張から疲れ切っていた。しかし、彼らを影で支える使用人や魔法師らに休みはない。ルディは、戴冠式を終えた会場を後にしオブリーの元へと向かっていた。


「お疲れ様ですオブリーさん。不審者の動向はどうですか?」


「ああ、今憲兵から報せが入ってやはり侯爵令嬢の馬車が道中狙われた様です。が、そこは風使いの異名をもつベイカー魔法師が上手く切り抜けてあと少しでこちらに到着するでしょう。それより、ルディ様。何か私に話すことはないですか?」


「え?えーっと、あっ!すみません、報告が遅れて。カリンが妊娠しました、もう安定期に入りまして春には産まれる予定です。ずっと僕の研究室にいたのと、つわりが一時酷かったので取り敢えず戴冠式が終わってオルボアに帰ってから皆に話そうと思ってまして、すみません。」


「そうですか、いやそれは良かった。ただ神の審判の際に負担がなかったかどうか心配でしてね。それで、今日の儀式などは彼女の負担になってないですか?」


「はい。神殿に問い合わせたところあちらの神殿から変更の意思がないので大丈夫だということで、今回は審判に臨みました。実際、終わってからも元気でしたし大丈夫の様です。今は僕の執務室で休ませています。」


「はぁ〜、それなら良かった。本当におめでとうございます、私も嬉しい。あのカリンが母親になるんですね。」


「ありがとうございます。何事もなければ春には家族が一人増えます。それ迄はなるだけ無理をしないよう医師からも注意を受けているのですが、オルボアに帰ってからは昼間一人になりますし誰か身の回りの世話をしてくれる人を雇おうかと話しているんです。」


「フェンリルには声をかけないんですか?」


「カリンが遠慮して、自分なんかのためにお願いできないと。」


「どうですかねぇ、彼女頼んだら喜びますし声をかけなければ拗ねますよきっと。それに、新しい人を一から雇うよりも気心のしれた人を雇った方がまぁ最初は気兼ねするかもしれませんが結局は楽ですよ。」


「そうですねぇ。カリンとまた話し合ってみます。あ、ところでどうしますか例の不審者達は。」


「まだ野盗から誰に雇われたかを割り出せてませんからね、とにかく侯爵令嬢の警護を万全にするしかないでしょう。王宮に入れば人もまた増やせますし、無事到着するのを待つしかないですね。」


「そうですね・・・あ、そうだハーヴェイ様がお帰りになる際に麦の穂を残されていったそうなんです。今、カリンが預かってるんですが後でヨハンナ嬢に渡せるでしょうか?」


「麦の穂?それはいよいよ祝福の花嫁ですね、わかりました渡せるよう手配しておきます。」


二人はそこで一旦別れた。それからルディは養父母にもまだ正式に報告がすんでないことを思い出し慌てて二人の元に走る、二人の喜ぶ顔を想像しながら。


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