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ふたりで紡ぐ物語  作者: にしのかなで
第二章
38/55

「幸い」は巡る

カリンの懐妊が発覚してから、ルディはますます精力的に、しかし愛妻に心配をかけない程度に働いた。


「はぁ、出来た・・・。」


目の前の作業台の上には儀式の際、そしてこれから即位後もアルベリヒが身に付け彼をを護る守護の魔具が並んでいる。その隣には小さな魔具がアレクサンデル王子用に仕上げられ、更にファンテーヌ王太子妃と他の二人の子どもの分までが全て仕上がった。


アルベリヒとファンテーヌには対の形をした銀細工の指輪に意味のある魔法石が埋め込まれ、それぞれが持つ紋章を繊細な模様で飾っている。アレクサンデル王子にはやはり小さな指輪が同じく彼の紋章を型取り魔法石を散りばめて光を放っている。そしてもう一人の王子と王女の為に小さな腕輪が用意されていた。後はこれを魔法省の首脳陣に監査してもらい了承が出れば魔具作りは終わりを迎える。即位の儀まであと一ヶ月を切っていた。


「出来たの?」


「ああ、カリン起きても大丈夫かい?」


最近軽い悪阻が始まったカリンが少し青い顔で出てきた。


「うん。今日は少しいいみたい、これから監査?」


「そう、だから少し留守にするけれど大丈夫かな?」


「ん、平気。やっと終わるのね、お疲れ様でした。私、もう少し休んでるね。」


「うん、あったかくして待ってて。」


身重になった妻を研究室に残し首脳陣の待つ会議室に向かう。これが監査に通れば後は儀式の手順の確認とリハーサルになる。研究室に籠る日々は終わるのだが、一つ気にかかるのは部屋に残してきたカリンの事だ。魔具製作が終わればあの部屋に留まる理由はない。しかしオルボアの家に一人残して術式の発動の調整や式典のリハーサルに家を何日か留守にするのは心許ない。カリンのことだ、少しだけと動いてそれが万が一に繋がると、と考えると不安が残る。


「城の近くに部屋を借りようかな・・・」


ルディのその考えは後に杞憂に終わった。魔具の監査も無事通り、王太子夫妻にその報告に行った際の出来事だ。


「うむ、ルディご苦労であった。儀式が済めば何人か魔法師を増やすし、アレクサンデルらにもそれぞれ専属魔法師を付ける様いま人選をしているところだ。しかし、あれだな。さすがにカリンがいるお陰かやはり仕事が早く精密な割りに無理なくこなしていたと聞いているぞ。一段落ついたから、これでオルボアに帰れるだろう。」


「ありがとうございます。私事ですが一つ報告がございます。」


「ん?なんだ。」


「カリンが懐妊しました。予定では春頃だということですが、なにせ魔法師の子ども故普通の妊婦より注意が必要でオルボア帰しても良いのですが式典の確認で度々留守にすることを考えると即位の儀が終わるまでは近くに部屋を借りようかと思っております。」


「カリンが⁉︎それは本当かっ!」


「まぁ!おめでたいわ、良かったですねガウス魔法師殿。ねぇ、殿下?近くに部屋を借りるくらいならばこの城内に一室お与えになったらいかがかしら?」


「ああ!そうだな、その方が安心していられるだろうし具合が悪くなれば医者もすぐ居るし。しかし、気を使わずにゆっくりできるとなると・・・。」


「ヴィルヘルミナ様達がお過ごしになっていた離れが今空いていますから、あそこはどうでしょう?」


「成る程、どうだ?ルディ。考えてみてくれ、これはカリンへの今までの礼の一つだ。お前らのことだから遠慮するだろうが使用人は最低限の人数にして、カリンがなるだけ気兼ねなく過ごせる様に気をつける。」


「えぇっ⁉︎ちょっと待って下さい。いや、でも確かに助かります・・・カリンと相談してからお返事させていただきます。・・・私共にありがたいご提案感謝いたします。」


「ふふ、遠慮しない様に言っといて下さいね。あの子にはこれまでこの人が沢山迷惑をかけているのだもの、私達にどうか恩返しさせて?」


「はい、カリ・・・妻と話し合ってみます。」


退室しようとしたルディにアルベリヒが声をかける。


「待て、ルディ私から渡すものがある。」


何事かと側に寄ると掌を差し出すよう言われる、そしてその掌の上に今外したばかりのかつてルディがカリンにと買い与えた魔法石のペンダントが乗せられた。


「見覚えあるな?私はこれに随分と支えられ、無事に三人の子の父となり妻もこの通り息災だ。私は十分「幸い」を貰った、いつかこの日が来たらお前に渡そうと思っていた受け取ってくれるか?ハプトマンの愛し子の祝福を受けた代物だ、間違いなくカリンは元気な子を産み良き母になるだろう。」


ルディはジッとそれを見つめる。昔、次期王となるこの男が初めての子どもを授かる際に妻と子を愛するあまりに自身の経験からどちらかを失うかもしれない恐怖に苦悩していた、その彼を勇気づけたのがこのペンダントだ。この立場ある人物はあれからずっと、露店で仕入れたこの品に助けられてきたというのか。


「覚えています。大事にしてくださっていたんですね・・・あの時の殿下のお気持ちが、今は痛い程よく解ります。これはありがたく受け取らせていただきます、ありがとうございます。」


「即位の儀の際に行う審判は本当にカリンでいいの?誰か神官や巫女に交代は出来ないの?」


「はい、神官部が言うにはあちらの神殿から審判の変更を指定してこない限りこちらで変更はできないそうです。」


「そう・・・でも、それは儀式を行ってもあの子は大丈夫という事よね。ああ、でもくれぐれも無理はしない様伝えて。あの子はいつも笑って無理をするから・・・」


「はい、そう伝えます。では、式典の打ち合わせが午後にありますのでこれで失礼致します。」


扉が黒髪の魔法師を吸い込み静かに閉じるまで近い未来の国王夫妻は彼の姿を見送った。

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