休暇の終わり
あの後目覚めたカリンの手を引き別荘に帰り着くとやはりソレは届いていた。
「はぁ〜、なんだってわざわざ休暇中にこんなことが起きるかな。」
やれやれとうんざりした表情で王家の蝋印の押された封筒を開く。カリンは川原での荷物の片付けをすませ、さあどうしようかと片手は腰に片手は顎に手を当て思案している。
「いつ迄に帰る様書かれてますか?」
「明日だよ・・・詳しくは参内してから説明するって。」
「今夜中に帰らなきゃダメですね。移動魔法で帰りますか?」
「ん〜、移動魔法でもいいけどさなんかこうそれじゃこれまでの休みが台無しになる気がするんだよね。だから馬車を早く走らせようと思う。」
「そんな・・・間に合いますか⁉︎準備もあるだろうし、私の事ならいいのよ。」
「いいや、僕が君とそうしたいんだ。」
「じゃあ、ボナパ亭で持ち帰り用に準備してもらって馬車で夕食にしましょうか。」
そういうとカリンは慣れた手つきで荷物をまとめ始める。ルディも馬車を魔法でサイズ調整と内装を往路より快適にすると、別荘内の掃除に入った。無人で動き回る箒に食器類、寝具なども全て来た時と同じく新品同様になっていく。最後に荷物を馬車に運び込み、近くで捕まえたトカゲに息を吹きかけ御者に化けさせる。
「大丈夫かな、トカゲさん。」
「日が暮れたら放すよ、流石に街中を走るのに御者なし馬車じゃまずいからね。」
今回二人は身元を明かさず滞在していたので地元でルディを魔法師だと知る人間はいない。カリンの銀の髪は珍しがられたが外国混じりだと話してある、王族所縁の地で下手に身分を明かすと騒ぎになりそうだったので、あえてそうしたおかげでボナパ亭でも気安くしてもらえた。名残惜しく別荘を見上げふたりは馬車に乗り込みボナパ亭に向かう。
「ええぇっ!今晩帰るなんていきなりだわねぇ、さみしくなるわー。」
シャイナが名残惜しみながらお勧め料理を包んでくれる。
「ありがとう、急にごめんなさいね。私もあなたがいて楽しく滞在できたわ、機会があればまた来るから。」
「うん、ありがとうカリンちゃん、あたしも毎日楽しかった。ふふ、なんだか泣けてきちゃう。」
「泣かないで、私帰ったらこの店の宣伝するわね。デアルスツ一の美人看板娘のいる美味しいお店だって。」
「やだ、もぉ!」
笑いあって名残惜しくもボナパ亭を後にする。
馬車の中ではルディが撃沈していた。これから始まる仕事の多忙さを考えると下手すれば軽く数週間、または数ヶ月の間カリンを放ったらかしになるのだ。カリンにも悪いが自分もそうなるとかなり辛い状況になるだろう。そんなルディにカリンは努めて明るく振る舞う。
「そんなにがっかりしないでルディ、明日の朝までは楽しく過ごしましょうよ。いつかはこの日が来るのは解っていたことだし、そりゃあ急だけれどもでもね?今の時期でちょうど良かったと思う。海の最中なら私もがっかりしたし、エリカ事件の後ならもっとへこんでたかも。でもこのデアルスツで伸び伸び過ごせたし、だからやっぱりこの時期で良かった。食事は三食ボナパ亭で毎日美味しかったし、掃除とかは魔法で綺麗にしてくれたし地元の子どもは素朴で可愛かったし、川遊びまでできたのよ?なんだかすごく解放的な気分でとてもいい休暇でした。ありがとう、ルディ。」
にっこり微笑みながらルディの手を取り話すカリンは確かに旅に出る前より肌色も表情も良く、彼女の言う通りなのだろう。
「そうだね、ごめん。もう考えないよ、それにこの休暇中に僕も君から貰ったものがあるし。」
「なんですか?」
「名前を敬称なしで呼んでくれる様になった。それから、まだ時々は敬語が混じるけど普通に話そうとしてくれている君の努力さ。」
カリンの顔が真っ赤に染まる、それがあまりに可愛らしくてルディはカリンを抱きしめた。
「ありがとう、君がいてくれて本当に良かった。しばらく寂しい思いをさせると思うけどごめんね。」
カリンがぎゅうっとルディを抱きしめ返す。
「うん、平気。心はいつも近くにあるから、だからもしね前みたいに研究室に篭りっきりで私に会いたくなったら呼んで。私、行くから、すぐに会いに行くから。無理して身体壊さないでね?約束よ。」
「うん、君も寂しい時は僕を呼んで。何があっても飛んで行くから。」
二人はしばらくの間抱き合ったまま、くすくすと笑い合った。
大丈夫、君がいるから。
大丈夫、あなたがいるから。




