笑顔の行方
「失礼いたします。只今、アルベリヒ王太子ご夫妻並びにオーランド第二王子殿下がご到着なさいました。」
ざわめいていた部屋に会場の使用人から声がかかると、一瞬でシン・・・となった。皆が立ち上がり入り口に向け礼を取る。楽隊の音で扉が開かれ三人の王族が壇上に上がった。
「すまないな、久しぶりの同窓会だろうに邪魔をして。私達のことはあまり気にせず寛いでくれたまえ、私達も日頃世話になっている魔法魔術技師学校卒業生を労いにそしてできれば共に楽しみに来たのだ。今日は堅苦しいこと抜きで楽しんでくれたまえ。」
「はは、兄上はこう言ってるけど緊張するよね。僕は君達と同じ歳だから成年の儀なんかで会ってるし、仕事上の繋がりも兄上よりは皆に近いと思う。そこで重ねて言うけど楽しんで。」
兄弟の挨拶の後、演奏が始まりダンスの輪ができた。オーランドが近くに来てカリンを借りたいと言うのでどうぞと頼んだ。そういえば、あの二人が踊るのは初めてだな・・・とかぼんやり考えながら二人の様子を見る。カリンが声をかけられて一瞬驚いていたが、相手がオーランドとわかると和かに微笑みかえす。
ーふーん、あの笑顔をあまり振りまいて欲しくないな・・・ん?ああ僕に許可を求めてるのか。ー
こちらを向いて様子を見ているカリンにヒラヒラと手を振り了解してるの合図を出すとオーランドへの笑顔より更に可愛らしく笑って手を振りダンスの輪に加わって行った。
ーうん、あの笑顔は僕だけのものだ・・・あれ・・・僕ってかなり嫉妬深い・・・?ー
「今晩は、ニーム・ロドリゲス・ガウス王太子付き魔法魔術師殿。」
一人で悶々と考えていたら背後から声をかけられ驚いて振り返ると、金麦色の髪を豊かに結い上げ派手過ぎず地味でなく嫌味の少ない化粧を施した、かのエリカ・ペインだった。魔法師の同窓会は正装がやはり魔法師らしい衣装になるので会場内の女性魔法師達はみな黒装束だ、そこに彩りを添えるためいつの頃からか男性魔法師はパートナーを同伴する様になったが、エリカは会場が例え魔法師だらけでもやはり華を添えただろう。僕でもわかる魅力的な顔立ちだ、残念ながら昔も今も興味を引かないが・・・。
「やぁ、エリカ・ペイン男爵婦人。久しぶり案内状をわざわざありがとう。」
「いいえ。少し遅れたし王太子ご夫妻にご挨拶していたから貴方のとこに来るのが遅くなっちゃったわ。で?貴方の奥様はどちらにいらっしゃるのかしら、もちろん紹介して下さるわよね。」
なんだろう、遠目に見るにはいいんだけど近くだとこの香水の香りや悪気わないだろうけどこの話し方が昔から苦手なんだよな・・・と、内心思いながら返事をする。
「ああ、紹介するよ。でも今オーランド殿下のお相手をさせていただいてるんだ、ちょっと待ってもらえるかい?」
オーランドの名が出た一瞬、彼女の周りの空気が冷えた気がしたがすぐにこやかに微笑んで「もちろん。」と、言った。気付くと周りの友人が消えている、奴らこういうとこは素早いもんな〜仕方ない一人で相手をするしかないのかと、ダンスの輪を見ればさっき迄オーランドが相手だったのに何故かアルベリヒと踊っている。
「はは、焦って見ているぞルディが。」
「殿下のせいでしょう、怒られるのは私ですよ。でも、来ましたね本命エリカ様が。」
「ああ。このあと解放するが気を付けろよ。」
「ルディ様が知らないのが気にかかるんてすが・・・」
「あいつに言ったらお前を連れてこないだろう⁉︎」
ふうっとカリンが溜息をつく・・・まさかこんな裏情報があると知っていたら私だってあのまま避暑地でゆっくりとしたかったわと、チラリとルディを見ると多分カリンにしか解らない不機嫌な顔でエリカと話していた。