第45話 雷装・再(前)
準決勝の朝、大演習場は開場前から人で埋まった。
二席対十六席。春の公開決闘の再戦が、国王臨席の白砂で組まれたのだ。書き売りは前日から特別刷りを出し、賭けの相場は「僅かにレナード有利」で張り付いていた。春の結果を知る学院と、家格で読む王都の、ちょうど中間の数字だった。
控えの通路で、ミナが籠手の銀線——三代目、これまでで一番太い編み——の締めを終え、いつもの一言を置いた。「壊れたら、拾う」。拾われる予定は、今日も未定にしておいた。
通路の出口で、王女の一行とすれ違った。公用の無関心のまま、唇だけが動いた。
(勝ちなさい。退屈な決勝は、嫌いよ)
(善処します)
決勝の相手を選ぶ試合を、当の一席はそういう注文で送り出した。
白線の向こうで、レナードは静かだった。
春のような口上はない。挑発もない。剣帯の位置を直す、あの癖だけがひとつ。それで十分だった。
「始め!」
開幕と同時に、雷が来た。
「雷刃よ、纏え——瞬脚よ、疾れ!」
二重の起動句。見慣れた白い光。見慣れない——速さ。
一合目を籠手で受けて、セオは違和感の正体を探した。二合目で当たりがつき、三合目で確信に変わった。
雷刃の光が、薄れない。
春のレナードは、数合ごとに纏いを濃くし直した。魔力食いの雷を要所だけ濃く使う、燃費の管理。その薄れの瞬きが「継ぎ目」であり、セオの勝ち筋だった。
いまの雷装に、瞬きがない。光は一定で、濃淡の波がなく、纏い直しの句も来ない。
——継ぎ目が、消えている。
「探しているのか」
打ち合いの中で、レナードが初めて口を開いた。
「僕の継ぎ目を。……もう、ないぞ」
二枚の紋章を交互に立てるのをやめた、と彼は言った。雷刃と瞬脚、両方を薄く、常に、同時に灯し続ける。切り替えないから、継ぎ目がない。そのぶん総量の燃費は倍近く悪い——半年、燃費の側を鍛え続けたのだという。
春の敗因を、この男は小手先で塞がなかった。体を作り替えて、根から潰してきた。
ただし、読める目には、作り替えの請求書も見えた。二枚常時の雷装は、光の総量が春より一割細い。燃費を体で払っている——長期戦になれば、先に燃え尽きるのは向こうだ。だからレナードは、短期の決着だけを積みに来る。一撃ごとの重さが、春の比ではないのはそのせいだった。
分かっていて、受け続けるしかない。長期戦に持ち込む脚が、こちらにもないからだ。
* * *
中盤は、一方的だった。
継ぎ目を読む型が無効なら、読みの残りは癖の側だ。だが癖も、半年ぶん更新されていた。払いの後の半歩、打ち込み前の肩——帳面に書いてある春のレナードが、目の前の男と一致しない。
観客席のどこかで、ユーグの声が解説をしているのが切れ切れに聞こえた。
「——ギルフォードは、あの敗北から全部作り直したんだ。彼もだよ。この試合は、半年前の二人の再戦じゃない……」
そのとおりだった。そして作り直しの幅で言えば、今のところ向こうが上手だ。
四撃目を受けた籠手の銀線が、焦げた音を立てた。肩口、太腿、脇——被弾が春と同じ場所に積んでいく。腕環の窓は、まだ明るい。写しは温存している。単写しの雷刃で追いつける相手ではないことが、もう分かっているからだ。
白線際まで押し込まれた。
場内の熱が、決着の形に傾き始める。
セオは、腕環の窓を見た。残量ではない。窓の奥の、小さな光を。
——二枚とも、体で知っている字だ。
雷刃は、この男から二度の決闘で骨に刻んだ。瞬脚も、同じ十五合で。二枚同時の待機が向こうの答えなら、こちらの答えは、最初から決めてある。
セオは半歩退いて、間合いを切った。
レナードが追撃を止め、眉をひそめる。逃げの半歩ではないことを、この男は正しく読んだ。
「……何か、来るな」
「レナード」
セオは右の袖を、肘までまくった。
「——お前にだけは、先に見せる」




