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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第二章 婚約者編

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117.生き証人



鎧の音がした。応援が来たのだろう。

ステラは防音結界を解除した。


「この者の標的は第一王子殿下ではなく私だ。

私が尋問にかけるゆえ、魔術師を呼べ。」


応援に来た第一王子殿下付きの近衛騎士に告げると、騎士は驚きの表情を浮かべる。


ステラも国王陛下にお認めいただいた王族だ。

第一王子殿下付きの近衛騎士は第一王子殿下の命令に従うのが使命とはいえ、王族であるステラの命令に逆らうこともできない。


「…承知しました。暫しお待ちください。」


騎士の一人がまた邸宅の方に走っていき、他の騎士が罪人を取り囲んだ。




そのとき、イグニスが震える声でステラに話しかけた。


「もしや、あなた様はまだ第二王子殿下を…」


イグニスはステラの左手の薬指の指輪を見ながら、体を激しく震わせている。

顔が恐怖に染まり、体の震えのせいで鋼の刃が食い込んで血が滴り落ちている。


ステラは第一王子殿下付きの近衛騎士の手前、質問には答えなかったが静かに微笑みを返した。


イグニスはがっくりと項垂れ、出血が多いためかそのまま気絶して崩れ落ちた。





第一王子殿下の警備のために派遣されていた王国魔術師にイグニスの身柄を引き渡すと、ステラは会場に戻った。


第一王子殿下を近衛騎士が取り囲んでいて、当然だが夜会どころではなくなっている。



ステラは第一王子殿下に駆け寄って跪く。

今まで以上に第一王子殿下を許せない気持ちだったが、狙われたのが自分だったとはいえその体を危険に晒してしまった罪を謝る。


「敵は捕らえました。標的は第一王子殿下ではなく私だったので王国魔術師団に身柄を引き渡しました。

私のせいでその尊きお体を危険に晒してしまい、申し訳ございませんでした。」


頭を深く下げるステラに、第一王子殿下は優しさを感じる声で言った。


「そうだったのか。顔を上げてくれ、ステラ。」


ステラが感情を殺して顔を上げると、第一王子殿下はステラの頬を撫でて微笑んだ。


「君が無事でよかった。」


鳥肌が立ちそうになってまた感情を押し殺す。


「寛大なお心に心より感謝いたします、第一王子殿下。」


また深く頭を下げると、再び肩を抱かれてフォード伯爵家の別邸を後にした。




◇◇◇




襲撃の翌日、ステラは第一王子殿下の許可を得て王国魔術師団の天文台に向かっていた。



捕らえた罪人の尋問をするためだ。

今回は父の許可による尋問ではなくステラ自身が王族として尋問することにした。

ステラが天文台に入るということで、いつもの騎士達に加えて父と警備部隊長も監視のために一緒に来ることになった。


今回の罪人は大した魔力は持たないが、王国騎士団の管理下になってほしくなかったので天文台に収容してもらっていた。

ある考えがあったのだ。



天文台の前に着くと、父と警備部隊長がステラのことを待っていた。

父は無表情で軽く頭を下げただけだったが、警備部隊長は深く頭を下げて臣下の礼をとっている。


「面を上げよ。」


慣れない言葉遣いに内心はどぎまぎしたが、妃教育を思い出して見た目だけは王族として振る舞う。


「罪人の元へ案内せよ。」

「承知しました。」


頷く父に正面から堂々と天文台の結界を解除してもらう。

階段を上って観測部屋にたどり着くと、どうしてもヴァレン様が幽閉されている部屋の扉が目に入ってしまう。


ここに侵入してヴァレン様とお会いした夜から二週間以上が経っている。

今すぐその扉を開いて駆け寄りたい衝動を必死に押し殺して、その部屋とは反対側にある尋問部屋に向かう。



警備部隊長が尋問部屋の扉を開くと、元々はヴァレン様付きの近衛騎士だった、イグニス・マルクスが全身傷だらけで鎖に繋がれながらも姿勢良く跪いて頭を深く下げていた。


かつてヴァレン様も腰かけられた椅子にステラもゆったりと腰かける。


「面を上げよ。」


イグニスに声をかけると、そっと顔を上げて目は伏せる。

その様子にステラは少し安心したが、表情には出さないまま問う。


「罪を自覚したか。」

「…はい。あなた様への償い切れない罪を、死んでお詫びいたします。」


イグニスは昨日の別れ際にも自我を取り戻したような素振りがあった。

第一王子殿下の洗脳が不完全だったのではないかと疑って、自分で聞いてみようと思ったのだ。



後ろに立っていた警備部隊長と騎士に目を向けて言う。


「そなたらは部屋の外で控えよ。」

「承知いたしました。」


ステラがヴァレン様に近づかないための監視ならばこの部屋から出ないようにすればいいだろう。

騎士達は顔を見合わせたが、警備部隊長は命令に素直に頷いて部屋を出た。



父が騎士達を睨み付けて言う。


「お前達は王族のご命令に逆らうのか。」

「…ご無礼を申し訳ございません。失礼いたします。」


軍のトップである父の一睨みで騎士達も出て行ってくれてほっとした。




「…防音結界をお願いできますか。」

「承知した。」


さすがに父に命令するわけにはいかないのでいつもの口調で頼むと、父もわかっていたようでさっと防音結界をかけてくれた。



イグニスはステラの行動を不思議そうに見つめていたが、ステラがイグニスに視線を戻すとまた目を伏せた。




ステラはイグニスに改めて問う。


「自分を取り戻したのか。」

「はい。しかし言い訳をするつもりはございません。死んでお詫びさせていただきたく存じます。」


イグニスの言葉にステラが微笑むと、それが伝わったのか驚いたように体をビクッと震わせた。


「勝手に死ぬのは許さぬと言った。」

「しかし…」

「そなたには生きて罪を償ってもらいたい。」


ステラの言葉にイグニスはまた体を震わせる。

そしてまた深く頭を下げた。


「…私は尊き王族を侮辱し、虐げようとした大罪人でございます。どうか命をもって償わせていただきたく存じます。」


ステラは立ち上がって、跪いているイグニスと目線を合わせるように膝をつく。

そんなステラにイグニスはこれ以上ないくらい深く頭を下げたが、気にせず続けた。



「そなたに頼みがあるのだ。

そなたが経験したことを、国王陛下の御前で証言してはくれぬか。」



ステラの言葉に、イグニスはついに顔を上げてステラの瞳を呆然と見つめて呟いた。


「な、何を…」

「私が何をしようとしているかはそなたの知るところではない。

ただ、そなたの身に起きたことをそのまま証言してくれればよい。

不敬には問わぬから安心せよ。」


イグニスは理解が追い付かないようでまだ目を見開いて固まっている。




「私は今もこれからも第二王子殿下の近衛魔術師です。

第二王子殿下にお仕えする仲間として、協力してほしいのです。」


ステラが微笑むと、イグニスはぶるぶると震えながら床に頭をつけてひれ伏した。


「…身に余るお言葉をいただき恐悦至極にございます。

あなた様の仰せのままに従います。

このご恩を、お返しさせていただく機会をどうかお与え下さいませ。」


「よろしくお願いします。

…この話は誰にも言うでない。」

「承知いたしました。ステラ様。」


父はステラが何をしたいのかわかっているのだろう。


防音結界を解除すると、表情を変えず、口を開くこともないままステラと一緒に尋問部屋を後にした。



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