114.決意の告白
ヴァレン様と再会してから十日が経った。
胸を巣食う虚しさは消えないけど、ヴァレン様と生きて再び会えた喜びはステラの生きる気力になっていた。
父は第一王妃陛下と連絡をとってくれたのだろうかと不安になるが、社交シーズンが始まって第一王子殿下の予定も詰まっていたので一旦忘れて任務に取り組んでいた。
今日は外出の予定がなかったので、ステラが執務室でぼーっと第一王子殿下の公務を眺めていると声をかけられた。
「ステラは、第一王妃陛下と親交があるのか。」
執務机で何かの書類を眺めていた第一王子殿下が突然ステラに質問したので、驚いて顔を上げる。
「第一王妃陛下も王国魔術師であられたご縁で、恐れ多くもお目にかけていただいております。」
ステラはそう答えてまた顔を下げる。
「そうか。第一王妃陛下が君を茶会に招きたいとのことだ。」
第一王子殿下の言葉についに来たと思うが、表情には出さずに答える。
「任務が最優先でございますので、第一王子殿下のご判断に従います。」
口ではそう言ったが、王太子ではない王子よりも第一王妃陛下の方が地位が上だ。断れるはずもないだろう。
第一王子殿下はステラを冷たい表情で見て言った。
「せっかくのご招待だ。行ってくるがよい。但し、私の近衛をつける。」
「寛大なお心に感謝いたします、第一王子殿下。」
頭を下げながら、ステラは緊張と期待で胸がいっぱいになっていた。
第一王妃陛下はきっとステラのことを信じてくださるだろう。
でも、どこまで協力してくださるかはわからない。
ヴァレン様や父が言っていた通り、下手に動けばステラだけでなく第一王妃陛下も大逆罪を疑われることになるだろう。
いつも通り感情を殺して表情には出さないようにしながら、ヴァレン様を救うための一歩になりますようにと願った。
◇◇◇
第一王妃陛下との茶会の日、約束の時間まではいつも通り王国魔術師のローブで第一王子殿下の護衛をして過ごした。
「今日もその格好で行くのか。」
「無理にドレスを着なくてもよいとご許可をいただいておりますゆえ、時間までは任務に集中させていただきます。」
「君は本当に面白いな。ドレスを好まぬ令嬢がいるとは。」
「お目汚しを申し訳ございません。」
いつかヴァレン様にも言われた言葉に切なくなって俯いて頭を下げた。
茶会の時間が来て、第一王妃陛下付きの侍女がステラを迎えに来てくれたので、第一王子殿下に杖と剣を渡して執務室を出た。
侍女の後ろにステラと、第一王子殿下付きの近衛騎士が二名ついていく。
「ステラ・アルカニス様をお連れしました。」
「入りなさい。」
第一王妃陛下の声に、ステラに続いて第一王子殿下付きの近衛騎士も入室しようとする。
「控えよ。そなたらの入室を許可した覚えはない。」
第一王妃陛下から発されたとは思えない厳しい言葉にステラは驚いて顔を上げる。
普段は優しい青い瞳が細められて、騎士達を睨み付けていた。
「恐れながら、第一王子殿下の命でこの御方の警護についております。
入室をお許しください、第一王妃陛下。」
騎士の一人が第一王妃陛下に頭を下げるが、第一王妃陛下は態度を変えなかった。
「そなたらはこの国の王妃に逆らうのか。」
二人の騎士は顔を見合わせる。
「…ご無礼を失礼いたしました。外で控えさせていただきます。」
「そのようにせよ。」
ステラのためにここまでして下さることに胸が熱くなって、危うく涙が出そうになって堪える。
近衛騎士が退出して扉が閉まったのを確認して、第一王妃陛下は机に置いてあった杖で防音結界を張ってくださった。
「恐れ入ります。有り難きお心遣い、感謝の念に堪えません。第一王妃陛下。」
ステラはひれ伏したい気持ちを抑えて臣下の礼をとって頭を下げる。
「女官長に言いつけようかしら。」
その言葉にはっとして、胸に当てていた手を下ろして気をつけの姿勢になると、第一王妃陛下にクスクスと笑われた。
「冗談よ。ステラさん、よく来てくれたわね。」
「お母様…。お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。」
名目上は茶会なので、机の上にはお茶の用意がしてある。
「さあ、座って。私もステラさんとお話ししたかったの。」
「恐れ入ります、お母様。失礼いたします。」
忘れかけていた王族のマナーを意識してゆったりと腰かけるとまたにこやかに微笑まれた。
侍女が第一王妃陛下とステラにそれぞれお茶を注ぐと、侍女も退出して第一王妃陛下と二人きりになった。
「…アルカニス魔法伯からあなたが私に会いたがっていると聞いて、嬉しかったわ。
私を頼ってくれてありがとう。」
「夜会でお声かけいただいて、お母様にお話ししたいと思ったんです。
こちらこそお気遣いをいただき、ありがとうございます。」
どう切り出そうか迷っていたら、第一王妃陛下が先に話し出してくれてほっとする。
横目に見た第一王妃陛下の防音結界は、美しく隙なく張られていた。
「それで、私に会いたかった理由を教えてくださるかしら。」
第一王妃陛下の言葉にステラの心臓は飛び出そうなくらい高鳴る。
「第一王妃陛下に、お話したいことがございます。」
ステラがその澄んだ青い瞳を見つめると、第一王妃陛下は続けていいというように優しく微笑んだ。
「ヴァレン殿下をお救いする方法が、一つだけあるのです。
そのためのお力添えをお願いしたく、参りました。」
ステラの言葉に第一王妃陛下は僅かに目を見開いたが、また微笑んで言った。
「…ヴァレンのことを想ってくれてありがとう。私に出来ることなら協力するわ。」
「ありがとうございます、第一王妃陛下。」
ステラは立ち上がって頭を下げると、その場に跪いた。
「恐れながら、私は第一王妃陛下に隠し事をしておりました。」
跪いたステラを静かに見る目は優しかった。
「それを教えてくれるのかしら。」
「…はい。」
ステラは早鐘のように打ち付ける心臓を感じながら、呼吸を整えて、右手の中指の指輪を外す。
ステラの髪が輝く白銀に染まると、第一王妃陛下が息を飲むのがわかった。
「私は、神より力を授かった『王家の巫女』でございます。」
一息に言って第一王妃陛下を見上げると、目を見開いたまま動きを止めていた。
しばらくしてはっとしたように表情を取り戻されると静かに口を開いた。




