合唱
「デイジー?」
メイフェザーはアリスのつぶやきを怪訝そうに聞いた。
「デイジーが歌っていたの」
アリスはたどたどしく答えた。
メイフェザーは大きく舌打ちをした。
またはずれだ、だが今度こそ本物だろう。
「デイジーか、それはどこにいる」
メイフェザーは周囲を見回す。しかし彼の目はそれらしい存在をとらえることができない。
アリスは指を前方に突き出した。アリスの目にはそこにたたずむデイジーの姿が見えていたのだ。
そしてデイジーの後ろから湧き出す人影。それもアリスには見えているがメイフェザーには見えていなかった。
「デイジー?」
アリスは後ろに後ずさる。
「デイジーはこっちか」
メイフェザーがデイジーのいる方向に人の形の複数の影が見えるところに向かって突っ込んでいく。
アリスの耳は歌をとらえる。
聞こえてきたのはまるで通じない言葉で歌われた歌。
そしてデイジーの背後に複数の人影が見えてきた。
それらは全員見慣れない衣装をまとった男女たちだった。
はっきりとその容貌が見えてくると彼らがアリスの見慣れたこの村の住人とは違った人種であるように思えた。はっきりとは言えないが顔立ちの骨格が違う気がする。
着ているのはシュミーズのようにずるずるとした白い服に何故か見覚えのある色とりどりの刺繡がびっしりと施されている。
アリスはそれらを呆然として見ていた。
歌が聞こえる。デイジーの背後にいる大人たちが歌っている。
そして聞きなれた歌声、デイジーも彼らに唱和して歌っている。
その意味が一言たりとも聞き取れないその歌をデイジーも歌っていた。
アリスは耳を抑えてうずくまる。今までデイジーの歌を聞いていてこんな恐怖を覚えたことがなかったのだ。聞いてはいけない、何か取り返しのつかないことになる、そんな不吉な予感がした。
メイフェザーはアリスの様子に気づくことなくそれでもまっすぐに見えていないデイジーの方向に歩いて行った。
唐突にアリスの目の前からデイジーが消えた。
そして背後にいる男女もまた消える。アリスに残ったのは耳が痛くなるような沈黙。
完全な無音。アリスの呼吸する音だけが響くようだ。
何度もこの丘を訪ねたけれどアリスはこの丘がこんなにも静かだったことはどれほどさかのぼっても記憶にない。
そしてメイフェザーも消えた。アリスは一人でその場にたたずんでいた。




