街に出た始祖エルフ2
ジャン:バウム……とか言ったか、お前はクノスの知り合いか?
バウム:知り合いもなにも、俺はあいつの父親だ。
ジャン:戯言を。あいつの父は、俺が幼い頃に死んだ。俺は葬儀にも参加したし、遺体を焼くところも、土に埋められるところも目の当たりにした。
バウム:そうか、人の命は短いからな。
ジャン:それでもなお、お前がクノスの父親を語るというのなら……
バウム:そんなことよりも戦おう! ここはそういう場所なのだろう?
0:両手を広げて挑発するバウムに、ジャンは遠慮なく回し蹴りを放つ。
0:バウムはその蹴りを躱すことも防ぐこともしなかった。
0:ビシッという、空気が弾けるような音がして、ジャンの蹴りはバウムの耳の手前で止められて、一瞬のうちに引き戻された。
ジャン:次は当てるぞ。
バウム:せっかくチャンスをやったのに、当てなかったことを後悔するぞ?
ジャン:ふざけるな。わかった、次は殺す気でやる。
バウム:なるほど、俺が手を抜いたら本気を出せないタイプか……仕方ない。少しだけ、やる気を出すとするか。
0:バウムは、コキコキと首を鳴らして半身を下げて、両腕を胸の高さにまであげる。
ジャン:古式武術……の、中でもかなり古い型?
バウム:時代遅れと笑いたいのか?
ジャン:それは、やってみればわかることっ!
0:ジャンが勢いよく地を蹴って加速して突き出された拳を、バウムは寸分の狂いもなく広げた手のひらで受け止めた。
0:火薬が弾けるような激しい音が、拳と手のひらの間で響く。
0:続けて繰り出される蹴りと殴りの嵐を、バウムは真剣そうな表情で楽々と受け止め続ける。
ジャン:なんだ……この感触は! まるで大木を相手に殴り続けているかのような……
バウム:どうした、この程度か? まだまだいけるだろ?
ジャン:この相手になら、この技を試せる! おら、喰らえ!
バウム:少しはましに……だが、まだできるだろ? おいまさか、この程度で終わりではなかろう?
ジャン:この技が通用しない? ならば未完成のこの技を試すしか……
バウム:お? 次は、溜めが必要な技か。仕方がない、待ってやろう。
ジャン:スゥ……ハァ〜……ハッ!
0:会場を揺らすほどの爆音を伴ったジャンの蹴り上げを、バウムは動くこともなく受け止めていた。
0:実況も解説も黙り込み、集まった観客たちは畏怖に近い視線をバウムに向けていた。
バウム:今のはなかなか、良い蹴りだった。だが、ここまでのようでは、修行が足りん。
ジャン:ック……
バウム:ではよし。ここは一つ、手本を見せてやろう。身をもって受け止めるが良い!
0:バウムは、ジャンの足をつかんで軽く放り投げ、少し距離をとってジャンが落ち着くのを待つ。
0:必死の守りを固めたジャンに対して、バウムは緩やかに歩いてゆっくりと拳を突き出した。
バウム:良いか? ただ拳を突き出すんじゃあない。こうやって『力』を込めて殴るんだ……
ジャン:遅い……?
バウム:おい馬鹿、気を抜くな! ……まあ、いっか。
0:バウムの拳が、クロスに組まれた両腕に触れた瞬間に、ジャンの身体は宙を舞った。
0:空をぐるぐると待ったジャンの身体は無残にも、会場の外、柔らかい芝の上に叩きつけられた。
実況:決ッ着ッ! なんと、なんと! 圧倒的な実力を見せて勝ったのは! 新参者の、バウム選手だ!
解説:いやあ……信じられないことが起こりました! 何が起こったのでしょうか。
実況:それを解説するのがマイクさん、あなたの仕事のはずですが!
解説:私にもわからないことがある。それぐらい、すごい試合でしたねぇ……




