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第十九章・異星人さんちの台所事情

 イルシアがキレたメルの相手をしている間に、優秀な副官たちはなんだか身も心もお花畑になってしまったような老人たちをとりあえず落ち着かせ、それぞれ別室に隔離し終わった。ちなみにロヴはなぜか副官ズから指示を飛ばされながら地味にパシらされていた。

「カレドラセル卿のお手を煩わせてしまいましたね」

 三つの老人部屋の内外に各二名ずつの護衛を配置し終え、ロキスタは改まってイルシアの副官に頭を下げる。

「いえ、こちらの業務の範疇内でもありますからどうぞお気になさらず」

 対するカレドラセルもまた穏やかな微笑みを浮かべて会釈する。

 ともに、手のかかる主を持つ副官同士、互いの苦労はわが身をかんがみれば容易に理解できる。自然、親近感もわこうというもの。

「わたしは主が戻るまでに少しは古老から情報を引き出しておこうかと思うのですが…」

「卿、わたしも同感です。あのハッピー気分で本音ダダ漏れ状態が続いているうちに可能な限りの情報を引き出すのが得策かと」

「そうですね、セオリーでしたら情報のバイアスを減じるためにも複数人での聴取が望ましいところではありますが、今回は多少の粗に目をつぶってでも手分けしての同時攻略がいいでしょうね」

「では、お三方にそれぞれ、わたくし、カレドラセル卿、あとひとり、信がおけぬのは承知であれを使ってみるのも一興かと」

 ふたりの副官が赴いた小部屋では、前政権の王位継承権一位がのんびりとシフォンケーキなどつついているところだった。しかも高位の王族で、儀礼的な作法に通じているはず…なのだが、片頬にチョコレート味、片方にバナナ味のケーキを詰め込んでもぐもぐしている。

「むんぐぇおいひいれす」

 王族の威厳は彼方に。

「…というわけだ、食った分の働きはしてもらおう」

 ロキスタがざっくり概要をまとめてリスのような生物に話しかける。

「あいあい、へーひのたぶぇならなんれもひまふー」

 傭兵、そうこれはケーキで雇った傭兵とでも思うことにしよう…。遠い目をしながらカレドラセルは素敵に堕落した元王位継承者をみて自分にそう言い聞かせる。


 そんな流れでサリダ翁の聴取を任されたロヴだったが、「ほら…君ら聞いてたらこのシャイなおじいちゃんうまく話せないから…」と、室内で待機していた護衛を言いくるめて外に出す。

 出された護衛はとりあえずロキスタとカレドラセルに報告したが、ふたりともあっさりと「問題ない」と言ったので、あれ?王族同士の密談てオッケーなん?という疑問を抱いたままもんもんと待機することとなった。

 室内ではサリダ翁が疑わしげな目つきでロヴを見やる。

「やだなあ、そりゃケーキにつられたことは認めるけど、もう例のうつほ船に御饌が満ちた以上、こっちの人間になに知られたって別にかまわないじゃない?ねえ?サリ爺」

 ロヴの王太子時代と変わらぬ軽口に、サリダ翁もようよう愁眉を開いた。

「ふはは、わが君が下等種族の走狗となったかと、いやはや我も老いましたかな」

「ある程度の走狗にはなってるつもりだよ。そっちのがやりやすそうだったからね。結果的にこうして爺とふたりで話せるんだから、猫かぶってて正解だったねー」

「どのみち古代遺跡やわれらの素性やらは明かしたところで問題のうございますしな」

「そだね、けど…」

 そこでロヴは一旦言葉を切って、少し声のトーンを落とす。

「技師たちのトップ、整備長は不慮の事故でご愁傷様です的な状況になってる」

 ロヴの脳裏に蘇るカンピオ将軍の「わしゃ、折った…」「わしゃ、折った…」エコーのようにデクレシェンドし、繰り返す。

「なんと…かような未曽有のめでたき折に、一足早く眠りにつくとはのう。目覚めた折にはからこうてやろうかの」

 サリダ翁は全く意に介さない。

「いやいや、クローンとはいえ仲間じゃん。も少ししんみりしようよ!」

「どのみちオリジナルはあらかじめ星船に保存してある。そして御饌満つれば船は出る。これまで千年以上も待ち続けてきたのじゃ、今世紀中に船の自動システムメンテナンスが終了すれば恩の字ぞ。次に目覚めるはわれらが母星じゃ」

「あーうん、一応そうなる予定ではあるよね」

「まあ…星船の活性化と起動までの間に時間がかかるのは仕方あるまいよ。我らがどれだけの長きをもって御饌をためた?この痩せた星の力を御饌に変え、すこしずつ、さようほんの少しずつ…長き時を経て貯めた御饌じゃもの。喰らう星船も一度には行き渡らせられまいて」

「うーん、まあ…だよねえ」

 ロヴにしては珍しく、相槌のキレが悪い。

「若、どうしたのじゃな?よもやとは思うが、この辺境惑星に愛着でもわいたのか?それとも、好いたおなごができおったか?」

「どっちもないけど…」

 ロヴはメルが禁書庫から持ち出した書籍のタイトルが気になりつつ、しかしながらそれは残念なことに古語で書かれた書籍であったがため、そのタイトルの意味を正しく理解できたのかどうか自信が持てずにいた。

 ロヴのかわいそうな知識でかろうじて読み取れた部分は「星船」そして「失敗」の文字。

「なあなあサリ爺、うつほ船ってこれまでも何回か生まれてたんだろ?だけど対となる、まほなる芦原はまてどもまてども確認できなくって、だから期待と絶望を繰り返すことに倦んだ」

「さよう、まほなる芦原を確認して初めて、うつほ船に御饌満ちたるを知るのじゃよ」

 サリダ翁は肩をすくめ、なに当たり前のことを聞くのだという不審げな面持でロヴを見る。

「よ、よもや、古き伝えすら忘却の彼方となるほど若の記憶メモリに重大なる損傷が!?」

「ないない、残念なのは仕様だし」

 ロヴも笑って否定し、この話の続きはあきらめた。

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