第2話「Eclipse Drive, GO! 変身ベルトで大変身!」 Aパート①
「うえ苦!」
味覚は地球人と大体一緒。
そう言っていたからコーヒーを出したものの、いきなりの拒絶。
このハムスターは熱い泥水とでも解釈したのか、地球の事務応対に文句を言う。
「仕事のお客さんって言ったらコーヒーなんだけどね」
草之根ヨシノが渡したのが缶コーヒー、云々の問題ではないのだろう。
それに、彼女はこの宇宙生物・ゲッシーに働かされる身分だ。
家に招いたのは私とはいえ、もてなしてもらうのは、
こっちの方じゃないの?とヨシノは視線で語る。
それに対して、ゲッシーは隙間に挟まるハムスターのように背を向ける。
異文化交流は初っ端から最悪である。私は被害者。それに大体、
スタッフの癖に大人げなさすぎないか?とヨシノは問うものの、
そりゃそうだと応えるゲッシー。
「子供!?」
自分は「ヨシノより年下」だと言うのだ。
これはハムスターの寿命と言う意味ではなく、
人間で言うなら小学生やそこら、と言った意味らしい。
宇宙の主要な惑星による法律では、地球のような遠い星で、
テレビ番組を作るには特別な免許が必要。ゲッシーは、
そのための学科を飛び級で卒業した、天才スタッフ兼子役なのだと言う。
「じゃあ、ゲッシーは本名ではない?」
ヨシノがそう聞くと即答。
芸名は答えないと釘刺したが、なんと、ゲッシーは「役名」だそうだ。
「芸名は」ということは、本名は余計言う気が無いのだろうか。
そんな事を考えるなか、ヨシノは一つの疑問にたどり着く。
そんなに頭がいいなら勉強を教えてもらえるのでは?と。
「数学教えてよ」
シャープペンシルを握るゲッシー。
そこから数分。それっきりである。
もしかして、分からないの?そうヨシノは尋ねるものの、
地球の学問なんて分かるわけないだろう、
勉強していないんだからと弁解する。
「と、解けないのか…」
天才はなんでも出来るわけではないのだなと、
ヨシノは強がるゲッシーに対して申し訳なさを覚える。
それはそうと、と話題をぶった切り、
「作戦会議だ!」とゲッシーは誤魔化す。
真面目な話題と訂正しつつも、ヨシノに差し出したのは、
ふざけてるとしか思えない、メカニカルな物々しいベルト。
ゲッシーはこれを「ルミナタキオンの変身アイテムだ」と堂々と主張する。
「ちょっと待ってよ。私がこの前変身したのって手首に巻く腕時計みたいな奴だったよね」
矛盾への疑問としては極めて妥当。そんなヨシノの疑問に対しての、
ゲッシーの答えはただ一つ。「都合」だ。
「番組を作るのってさ、スポンサーからお金をもらわなきゃダメなんだよ…」
魔法素粒子ルミナキャスト。
この番組は、免許が必要な程度には比較的珍しい制作体系を取っているのは確かなこと。
だが「番組」という枠組みに関して言えば特別なものでは決してなく、
宇宙単位ではこの地球のテレビ番組、或いは配信動画と同様。
無数に存在するし、免許程度で優遇もされない。失敗する番組もあれば、
視聴率や再生数・評価的には成功しつつも、玩具展開などが、
スムーズに行かないものなどが存在するのだ。
「要するに、二年位前の在庫を処分したいんだよね」
そう語るゲッシー曰く、このベルトはヨシノの感覚で言えば、
ルミナキャストと時間帯が隣り合わせの番組のアイテムと言うわけだ。
こんなものを腰に巻いて本当に女の子は喜ぶのか?
と、ヨシノはさすがに疑問に思うが、
試しに子供のころ見たヒロインが、それをぶん投げる様を想像する。
彼女たちはイヤイヤやるにしても、投げて終わることは無かったんじゃないか?と。
彼女たちは私と同じ無茶ぶりに対しても、
「ベルトを着けてそのまま変身する」という結論に至ったに違いない。
練習開始。腕を交差、すかさず左へ。
ワンテンポでも遅れたら変身プロセスは作動しない。
ヨシノは意味も分からず指定された動きを行う。
前屈をした途端屈伸。体を捻る。
この全く頭に入らない動作をどうスタイリッシュに決めればいい?
そんな疑問すら抱く間もないまま、
宇宙式ラジオ体操を体に叩き込む。ところでゲッシー…
「ポーズが複雑すぎて売れなかったんだ」
なんでこんな動きをオモチャに取り入れた!
ヨシノはそう突っ込む他なかった。
子供の真似しやすいポーズにするか、
せめて誰でも変身出来るようにしろ。
宇宙レベルの技術力だと子供の玩具にも、
膂力の伴わない、ごっこ遊びレベルではあるものの、
番組同様に"変身"に至る機構がある。
それ故にこんな機能を付与したようだ。
「宇宙の子でも軽々こなせるわけじゃないんだね…」
何せ売れ残ったのだ。
身体能力は技術ほどには伴わないらしい。
宇宙は広いが人の殻は案外狭い。
「よくやるね、ヨシノ」
「お前がやらせとるんだろうがい!」
呆れるような、感嘆するような、そんなゲッシーのリアクション。
思わずヨシノも怒り出す。もっとも、あくまで怒るだけ。
練習の手を休む選択肢は、今の彼女には存在しない。
何をそんなに頑張るんだと、ゲッシーも少し不思議に思ったところ、
ヨシノは一言、こう答える。
「やっぱりさ…最後まで見たいもんだよ。観る方は」
ヨシノが思い出しているのは、数日前に打ち切られた動画企画。
よっぽどのことが無い限りは、やり遂げた方がみんな喜ぶはず。
私の好きだったヒロイン達は、最後まで戦っていたものね。
そんな心持ち。ヨシノの信念を以てして、夜通し無骨な演舞が行われる。




