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第4話「ヨシノの休日!ストレージに眠る叡智」 Aパート①

「うう…あと5分」


 こんなベタな寝言を言う子いるんだ!

たまたま教室を訪れた凪(なぎ)は、

机に突っ伏したヨシノの発言に驚愕。

その横にいる賢界(のりか)は、彼女も疲れているから、

ちょっと休ませてあげてと和やかに頼み込む。


「もっと第12胸椎あたりを…」

「整体!?」


 女子中学生である彼女がこんな事を言い出すなんて、

一体何を抱え込んでいるのか。

ひとまず凪は彼女の疲れを汲み取り、放課後改めて

次の休みの相談をするつもりだ。夢の中で、ヨシノは

リラクゼーションの延長料金を払う。


「ヨシノ…老けたんじゃね?」


 勿論、こう呟いたのも寝言を聞いた凪の冗談でしかない。

だが、廊下を歩きながら考えつつも、ヨシノの疲れの理由に答えは出ない。

もっとも、凪にはヨシノが、宇宙規模のヒロインショー、

ルミナキャストの撮影に巻き込まれているなど知る由もない。

ヨシノの人生経験はある意味数倍、もとい倍速だ。



「行くよ!ムジカントム!」


 ルミナタキオンは叫ぶ。そして、いつもの嘲笑うような笑い声。

タキオンの闘志に応じる幻影紳士・ムジカントムは、

早速バッターボックスに立つ。赤いヘルメットに、

白い仮面のコントラスト。バットを小刻みに揺らしながら、

堂に入ったバッティングフォームでタキオンの投球に備える。

そんな最中、投手・ルミナタキオンのグローブから、

抜け出すように硬球が滑り落ち、地面に着地しようとする。


「ゴールに放つは速度の流星!タキオンストライク!!」


 その刹那、タキオンは叫ぶ。思い切り後方に振り被った右脚を、

カタパルトのように前方に叩き込む。

ムジカントムの頭部に向かって放たれた、

硬球による必殺シュート。


「フフフ…俺にそんな球が通じると思ったか?甘いな!」


 しかし、幻影紳士はこれを真正面で受けるほど無力ではない。

ボールの軌道に沿って首を回し、紙一重で正面衝突を防ぎ、受け流す。

ボクシングで言うスリッピング・アウェイ。超高速の硬球はそのまま球場を貫通。

ムジカントムの一瞬の反応に息を呑むのも束の間。ぐえっ!

そんなタキオンの情けない声をかき消すような、

激しい衝突音。地球を一周し、ルミナタキオンの背後に帰ってきた、

硬球から受けたダメージ。衝撃と共に、タキオンは思い切り吹き飛ぶ。


「夢か…」


 後頭部に受けた衝撃で、机から転げ落ちたことに気づく。

野球でシュートなんかするわけないよね…。

ヨシノは自身の夢の行動に苦笑いする。

そんな荒唐無稽な夢を見るほど疲れているのも無理はない。

ゲッシーとの邂逅。エクリプスベルトの戦い。ルミナテレパス。

そこから現在。ほんの一、二週間のわずかな間にも

ルミナタキオンは戦いに身を投じていた。


「やっぱり着ぐるみショーが一番きつかったかな…」


 意識を着ぐるみと同期させ

宇宙の某惑星のアトラクションに出た時の話である。

地理的な、言い換えれば「宇宙理」的な事情から、

簡単に地球の外に飛び出せないルミナキャストの撮影チーム。

そこで、遠隔操作が活用されたのだが、

インターネット回線の遅延のごとく肉体と着ぐるみのシンクロが遅れ、

一方的に痛めつけられるトラブルに見舞われたことを思い出す。


「あれで疲れがピークに達したのかも」


 本体のヨシノは傷つかないが、痛覚だけは据え置き。

生々しい絶叫を披露しつつも辛勝したが、こうしたイベントの他にも

ホログラムでの撮影会、些細な悩みから生まれたワルターの露払い。

記すまでもない事象も含めた、大小問わぬフル稼働を強いられていた。


「ヨシノさん、凪さんが言ってたんだけど」


 目覚めたヨシノに対して、賢界の伝言。

日曜日は暇だし、遊びに行かないか?

そんな取り留めのない約束。


「本当は私も行きたいけど、その日は用事があるから」


 残念がるも、自分の代わりに楽しんできてねと送り出す賢界《のりか》。

凪さんも、トークアプリにその内容を入れておいたって言うから、

しっかり確認して欲しい。特に、

古本コーナーなんかは要チェックねと、寝起きのヨシノに伝える。



「ゲッシー。いきなり飛び出たりしないでね」


 日曜日。レンタルショップの駐車場にヨシノはいた。

彼女の手元、ファスナーを閉めた手提げ袋が蠢く。

そう、中にゲッシーが入っている。

ぬいぐるみって事で不問にしてくれないかな。

外に出たいゲッシーが、周囲に聞こえないように懇願する。


「バレたらどうするのさ…行きたいってワガママにこっちは応えてるんだよ」


 勿論、ゲッシーが見つかった時のリスクは計り知れない。

誰から見ても、ただのハイテクグッズやペットでは、

到底説明できないような未確認生物。

警察や研究機関が黙ってはいないはず。


「研究機関ってどこなんだろうね…大学かな?」


 そのような懸念を説明するヨシノだが、

具体例は思いつかない。将来の第一志望である、

地元の国立大学を連想する中、

ヨシノにとってなじみのある声が響く。


「あっヨシノ!よっす」


 凪とその弟、順(じゅん)である。

週末、順が参加するカードゲームの大会がある。

そのついでに同じショップに寄っていこう。

そのような約束をヨシノと凪で取り決めていた。


「ホントによかったの?もっといい店あったんじゃね」

 

 凪は、たまに家族のプレイヤーを拝借したり、

順のゲームに付き合ったりするなど、

ゲームも扱うこの店への適性は相応に高い。

一方のヨシノは配信派。

テレビ番組を視聴しても、DVDはさっぱり。

ゲームも動画配信を眺める、といった有様である。


「凪って部活で忙しいでしょ?一緒に遊べるなら別にいいよ」


 間違いなく、ヨシノにとっての本音である。

しかし、傍らにいるのはゲッシー。

今の彼女は、脚本都合と言う名の打算を無理やり付与されている。

以下は、数日前のやり取りである。


「この街には古文書が何冊かあるんだよね」

「古文書?」


 ヨシノの部屋での二人の会話。

その昔、魔法素粒子界で製本された書物。

ルミナキャストの必殺技の解明や、

ルミナストーンの在りかを指し示す、錬金術の秘伝の書。

それが地球・日本。ヨシノの住む地に眠っているという。


「今更そんな話をされてもね…」


 もっとも、種明かしをされた後。こうした世界観もまた、

あくまでゲッシーら番組スタッフが仕込んだ「ネタ」に過ぎない。

街を改造される身にもなってよ。

市民として、どこか白けた反応をするヨシノ。

もっと真剣にやれ!乗り気ではなさそうなヨシノに対して、

ゲッシーはそう言いたげだが、最初にヨシノの没入を削ぐような、

大ポカをやらかしたのは当のゲッシーである。


「ところで、どういうところにその古文書があったりするの?」

「え、レンタルショップの古本コーナーとか」


 そんなの売り物にする!?仕込みにしても不自然極まりない。

万が一にも他人に先に購入されたらどうするんだ。

それに値段は?ヨシノの疑問は尽きない。

やる気になっただろ、と胸を張るゲッシーだが、

当のヨシノが抱いているのは好奇心ではない。困惑である。


「あ、100円」

「机の裏に落ちてたよ」


 このやり取りの中、唐突に目に入る勉強机の上の硬貨。

ゲッシー、どうやって拾ったの?と問いかけるヨシノに対して、

説明がわりに、狭い隙間に吸い込まれるように器用に潜り込む。

そこからポンと飛び出すゲッシーの異様さに、思わず閉口。

さすが宇宙のハムスター、只者ではないと彼女が感じた矢先。


「これで古文書を買うお金の足しにしてよ」

「そんなんで買えんの!?」


 どう考えても、100円で買えるような安い本ではないだろう。

古文書と言う厳かなイメージに相反する金銭感覚。

今度は口を大きく開くヨシノであった。

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