第2章「村とのつながりと、はじめての挑戦」 第1話「村への第一歩」
数日後、ロシュが再び牧場を訪れた。朝靄の残る中、彼の軽快な足取りが、まだ静かな牧場に心地よいリズムを刻む。口笛を吹きながら門の前に立ち、遠くからハルトの姿を見つけて手を振った。
「おおっ、ハルトさん!伝書、ちゃんと届きましたよ!」
荷物を背負ったロシュは嬉しそうに笑った。
「村の掲示板で見た人が『久しぶりに牧場に命が戻った』って感動してました!特に、あの鶏のコケ丸がアイドル扱いです!」
「そうか、それは……ちょっと恥ずかしいな」
ハルトは照れくさそうに頬をかいた。ここ最近、牧場の整備とコケ丸の世話に追われていたが、こうして外の人間から反応が返ってくると、不思議と胸の奥が温かくなる。
「今日は、何か持ってきたのか?」
「もちろん!今回は生活用品のほかに、村のご婦人方からのおすそ分けもありますよ。……それと、お願いが一つ」
ロシュが差し出したのは、木箱にぎっしりと詰まった野菜や焼き立てのパン。そして、一枚の紙切れ。
「村の朝市に、牧場の卵を出してほしいって。ほら、あの間見せてもらった卵、すっごく美味しかったから!」
「……数は少ないけど、それでも?」
「ええ、最初は数じゃないんです。復活した牧場からの出品ってだけで、注目度は抜群ですよ!」
シエルがふわりとハルトの肩に乗った。いつも毒舌な彼女が、今日は妙に優しい。
「やってみなよ、ハルト。最初から完璧じゃなくていい。まずは、やってみることに意味があるんだよ」
「……そうだな。挑戦してみよう」
決意したハルトは、さっそく準備に取りかかる。納屋の奥に眠っていた木箱を磨き直し、ラベルや説明札を丁寧に書いた。
『放牧育ち・自然卵(3個入り)』
ラベルに描いたのは、シンプルな鶏のイラストと、手書きのメッセージ。
『この卵は、のびのび育った鶏から生まれました。自然の味を、ぜひご賞味ください』
夜になっても作業は続いた。ペンの音、紙をめくる音、そして焚き火のぱちぱちという音だけが、静かな牧場に響いていた。
「……やれることは全部やったな」
眠るシエルを横目に、ハルトは空を見上げる。満天の星が夜空に散らばっていた。
「前世では、いつも何かに追われてた気がする。動物を救いたいって思ってたのに、自分の限界ばかり見てた。でも……ここなら、俺のやり方でやっていけるかもしれない」
夜風が木々を揺らし、焚き火の炎がふっと揺れた。
牧場に広がる静けさは、確かに彼の中にあった焦りを溶かしていた。
「ありがとう、ロシュ。ありがとう、シエル。そして……来てよかった、この世界に」
ハルトはそっと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。土の匂いと、風の匂い。動物の気配と、命のぬくもり。
ここから、彼の物語が少しずつ、確かに動き出していた。
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