第5話「魔導市の来訪者と牧場の未来」
夏を思わせる強い日差しが降り注ぐ午後、牧場の入口に見慣れぬ影が現れた。軽装の服に身を包み、腰に魔導測定器をぶら下げた人物が、案内板を眺めている。
「おや、ここが噂の“魔導牧場”か……なるほど、面白そうだ」
その男は“魔導市”から派遣された技術者だった。名をレオといい、魔道具の研究と流通を担う商業都市の代表的な技術士だ。
「こんにちは。あなたが、ハルトさんですね?」
「ええ、そうです。あなたは……?」
「私はレオ。魔導市から来ました。最近この牧場の噂が広がっていましてね。ぜひ視察をと思いまして」
彼は笑みを浮かべながら名刺のような魔導プレートを差し出した。ハルトは少し驚きながらも礼儀正しくそれを受け取り、牧場の簡単な案内を始めた。
「自動給水器に、温度調整装置、そしてこの自動収穫機が最近の成果です」
レオは興味深げに観察し、時折魔導測定器をかざして魔力の流れや素材の調和を確認していく。
「ふむ、魔力効率も悪くない。何より、実用性がある。これは……牧場に留めておくには惜しい発明ですね」
「惜しいって……?」
「この技術、魔導市で広めれば、多くの人々の生活が変わります。ハルトさん、あなたの開発した魔道具、私たちと一緒に正式に製品化しませんか?」
その提案に、ハルトは思わず固まった。
(製品化……? そんな、大それたことが俺に……)
すると、肩にとまっていたシエルがくすくすと笑った。
「いいじゃん、ハルト。あんたの“想い”が、もっとたくさんの人を助けるかもしれないんだよ」
「でも……俺は、ただここで、動物たちと、静かに暮らせれば……」
「それもいい。でも、道具が広がることで、同じように苦しんでる誰かが救われるかも。それって、昔のあんたが一番望んでたことじゃない?」
ハルトはしばらく黙って考えていた。
かつて、自分が救えなかった命たち。
自分ひとりではどうにもならなかった現実。
それでも、今なら。
「……考えさせてください。俺の中で、まだ答えが出てないんです」
レオは頷いた。
「もちろんです。焦ることはありません。ですが、期待していますよ。あなたの発明は、世界を少し優しくできる可能性を秘めている」
その日、ハルトは夜遅くまで納屋で魔道具の手入れをしていた。
シエルがそっと彼の傍に寄り添い、星空を一緒に見上げる。
「世界を変えるなんて、大げさだよな」
「でも、あんたならやれる。少しずつでいい。だって、あんたは、誰よりも“優しい”から」
ハルトは黙って頷き、小さな精霊の言葉を胸に刻んだ。
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