第4話「迫り来る影と、揺れる覚悟」
翌朝、ガルドナ領の陽光は優しく、街は静かに目を覚ましていた。
ハルトはまだ客間にいた。窓辺に腰かけ、湯気を立てる紅茶に口をつけながら、昨日のリューシアとの会話を思い出していた。
「保護下に入ることで、守れる命がある……でも、失う自由もある……」
それは、彼がこの異世界で最も大切にしてきた「のんびりとした生活」と「自分の手で築く牧場」を、少しずつ手放すことを意味していた。
その時、扉の外から小さなノック音。
「ハルト、入るよ」
シエルがふわりと飛びながら部屋へ入ってくる。
「そろそろ出発しようって。リューシアの使いが馬車を用意してくれてる」
「……あぁ、わかった。ありがとう」
ハルトは立ち上がり、残った紅茶を飲み干した。心の中の迷いはまだ完全には晴れていなかったが、それでも進まなければならない。
帰路の馬車の中、キールは珍しく無口だった。いつも冷静な彼も、今回の件に関しては何か思うところがあるらしい。
「キール……どう思う? ガルドナ領の“保護”って」
「利害の一致だ。領主側にも思惑がある以上、完全に信用はできない。ただ——敵がこのまま黙っているとも思えない」
「……だよな」
牧場へ戻ったハルトたちを迎えたのは、少しだけ荒れた庭と、心配そうに待つ村の仲間たちだった。
「よかった、無事だったんですね!」
「また何かあったらと思って……」
ハルトは苦笑しながら頭を下げた。
「心配かけてごめん。でも、みんながいてくれて、本当に良かった」
その日の夕方。
ハルトは納屋の前で、村人たちを集めて話をした。
「みんなに隠していたことがある。最近、牧場に“脅迫状”が届いたんだ」
驚きと不安が広がる中、ハルトは続けた。
「俺は……この牧場を絶対に手放さない。そのために、ガルドナ領と手を組むかもしれない。でも、それは俺一人で決めていいことじゃない。ここは、みんなで作ってきた場所だから」
しばし沈黙のあと、一人の老人が前へ出た。
「わしらは、あんたに牧場を預けた。そんで、あんたが守ろうとしてる姿を見てきた。だから、どんな決断をしても……ついていくよ」
次々と頷く村人たち。
「ありがとうございます……!」
ハルトの目が熱く潤んだ。
その夜。
「決めたよ、シエル」
焚き火のそばで、彼はぽつりと呟いた。
「俺は、ガルドナ領と手を組む。けど、絶対に“自分の牧場”は譲らない。魂ごと、守ってみせる」
空を見上げると、満天の星が静かに瞬いていた。




