第2話「魔導都市アゼレアへの旅」
牧場を出発したのは、快晴の朝だった。
ハルト、シエル、そしてリュカの三人(?)は、荷馬車を借りてアゼレア都市を目指すことになった。目的は、牧場の生産物を都市の市場に届けるための視察と、取引先との初顔合わせだ。
「ふーん、都市かぁ。シエル、行ったことある?」
「昔ちょっとだけ。あそこは便利だけど、うるさいのが難点ね」
「騒がしいのは、苦手だな……」
ハルトはそう呟きつつ、道中の森を抜ける風の音に耳を傾けた。
都市に向かう道は、整備されているとはいえ山道も多く、途中には魔物が出る可能性もある。しかし今回は商会から護衛が派遣されていた。
「ハルト=カミシロさんですね。私たちが同行します」
現れたのは、黒い制服に身を包んだ二人の男女。どちらも背が高く、洗練された身のこなしをしていた。
「私はリーフ、こちらは相棒のカイ。魔導商会〈セラフィム商団〉の護衛担当です」
「よろしく。市場の視察、無事に終わるといいね」
そう言って、カイはにこやかに笑ったが——ハルトはふと、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(……なにかが、引っかかる)
それでも、彼は頷いた。
荷馬車がゆっくりと動き出す。リュカが籠の中で丸まり、シエルはハルトの肩の上で揺れている。
旅の途中、彼らはいくつかの村を通り過ぎた。道端で遊ぶ子供たち、家畜の鳴き声、屋台で並ぶ野菜や果物。
そのすべてが、ハルトには懐かしくも新しい風景だった。
「やっぱり……人の営みって、すごいな」
「ね。田舎の静けさもいいけど、にぎやかさにはにぎやかさの良さがある」
「でも、僕にはどこか落ち着かないかも」
そんなやりとりをしているうちに、日が傾き始めた。
道の先、霞んだ丘の向こうに、巨大なドーム状の建物が見えてきた。
「……あれが、アゼレア?」
「うん。大陸でも三本の指に入る大都市。魔導文明と流通の中心地よ」
都市の外郭は厚い魔力結界で覆われており、巨大な魔法障壁が常に天に向かってゆらめいていた。
「すごい……」
やがて、都市の門が見えてきた。
「通行証を提示してください」
商団の護衛が手続きを済ませると、門が静かに開かれた。
中に入ると、そこは別世界だった。
石畳の道、空中に浮かぶ案内板、魔導水路を走る輸送船。そして、魔法で動く自動調理屋台。
「うわあ……」
ハルトは言葉を失った。
「これが、魔導都市。ハルト、覚悟してね。ここからが本番よ」
彼の牧場がこの都市とつながることで、何が変わるのか。
その答えは、まだ誰にもわからない。
彼らは、宿へと向かった。
宿屋〈ルミナリエ〉は商会と提携している高級旅館だった。受付の女性が丁寧に出迎え、彼らを案内する。
「わぁ、広いお風呂がある! ハルト、あとで一緒に——」
「やめてくれ……せめて別で入ろう」
「ふふっ、冗談よ♪」
部屋に荷物を置いた後、ハルトは街の市場を軽く視察した。香辛料、魔導食材、素材、工具……
どれも牧場では見られない品ばかりで、圧倒されるばかりだった。
そして夜、部屋の窓辺に腰かけたハルトは、遠くに輝く市場のネオンを眺めながら、静かにつぶやいた。
「……この街で、俺は何を得るんだろう」
その問いの答えは、翌日明らかになる。




