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第28話 フェアさん暴走防止協議会(前半)

 第28話 フェアさん暴走防止協議会(前半)


 朝ごはんを食べ終えたあと、僕と小恋路とは、いったんそれぞれの家に戻ってシャワーや朝の歯磨き、洗濯などの身支度を済ませることにした。


 僕が起きてきた時には家にいなかった父さんは、尾行対象者に張り付く仕事で朝早くから外出していた。


 母さんは、探偵家業の依頼人との約束があると言い残し、我が家を後にして、車に乗って出かけて行った。


 優斗兄さんは勉強を教えてと美穂にせがまれ、ダイニングキッチンでそのまま家庭教師に早変わり。


 そのまま解散、という選択肢も頭をよぎったけれど。

 昨日の魔物進軍掃討戦ダンジョンパレードウォーと、その後の政府とのやり取り。

 フェアが勝手にやらかした「御経塚ダンジョン支配」と「DP借金」の一件。

 どれもこれも、放っておいたら絶対にろくなことにならない案件ばかりだ。


 特に、ざっくり言って“八兆7千5百臆DP”という、もはや笑えないマイナスDP残高。もし石碑システムの中に強制取り立てなんて集金機能があったら、僕の探索者人生はマジで終了。まさにお先真っ暗だ。


 ちなみに、新人探索者Fランクで掛かる初心者装備一式は、十万DPもあればお釣りがくる。

 石碑アイテム購買システムでやり取りするゴブリン魔石の買取価格は一個千DP。

 探索者ギルド受付での買取価格は、ゴブリン魔石一個五百円。

 単純計算で、僕のマイナス残高は、ゴブリン魔石、約八千七百五十万個ぶん。現金換算したら、桁を数えるのも嫌になるレベルである。


 このDPマイナス残高が、どれだけ異常な金額か、ご理解頂けたら幸いです。


 その元凶の張本人様は、鼻をつまんでいる。


(やっぱり地上は臭いです~。結界を張った翔太様の部屋に先に戻ってますね)


 魔力パスがあるから普通に見えるけど、そんなフェアは透明化したまま、お先に僕の部屋へと戻っていく。


 僕もダイニングキッチンからシャワーを浴びに行こうと、椅子から立ち上がったとき。


「フェアのやらかしたDP案件、あれ、どうすればいいのかな……」


 頭の中でぐるぐるしていた不安が、そのまま言葉になって、テーブルの上に零れ落ちた。


「ん? 何それ、翔兄」


 真正面の席から、美穂がきょとんとした表情でこちらを見る。


「な、なんでもない。ただの独り言」


 慌てて取り繕ってごまかすと、今度は長椅子側から、じろりとした視線が飛んできた。


「フェアの“やらかした案件”って時点で、なんでもなくはないだろ」


 教科書を閉じかけた優斗兄さんは、それ以上は何も言わず、代わりにため息だけをひとつ落とした。


「……その話も、詳しく聞く必要がありそうだな。とりあえず今はシャワー行ってこい」


「う、うん」


 背中に二人分の視線を感じながら、僕はそそくさとダイニングを後にした。


 シャワーを浴びている最中も、頭の中に浮かぶのはそのことばかりで、人間お金に困ると、思考の幅がせまくなるのを、我が身をもって体験しているかもしれない。


 シャワーを浴びて身体はすっきりしたけれど、依然として、僕の心は曇り模様だ。


 僕は、ドライヤーでさっと頭を乾かしたあと、ダイニングキッチンに戻って、優斗兄さんに声を掛けた。


「ごめん、優斗兄さん。僕一人じゃ、対応できそうもないからさ、相談に乗ってほしいんだけど。向こうの部屋でいいかな?」


 ダイニングキッチンでいちゃいちゃしている二人の仲に割り込みをかけるかたちにはなったけど、マンションの隣、ご両親が不在の八神家で相談に乗ってもらうように頼み込んだ。


 美穂は露骨に嫌そうな表情で僕を見上げるけど、僕と優斗兄さんへの対応度の違いがはっきりしすぎて、やっぱり涙が出そうだ。


「わかった。じゃあ、向こうに行くか。美穂はそのまま夏休みの課題をしてなさい。あとでまた見てやるから」


「はーい、優兄、早く帰ってきてね。わたし、真面目に勉強して待ってるから、あとでしっかり褒めてよね」


「わかった。わかった。美穂はほんと甘えん坊さんだな」


「えへへ」


 二人だけの世界に入るのはやめてほしいところだけど、まあ、いまはそれどころじゃないから、軽くスルーしておこうか。


◆◇◆◇◆◇


 場所は変わって、ここは八神家のダイニング。


 八神家のリビングから一段上がったところにあるダイニングキッチンは、相変わらずモデルルームみたいに片付いていた。大きな窓から差し込む昼前の光が、白いテーブルクロスと観葉植物の葉っぱをやわらかく照らしている。


 テーブルの真ん中には、出がらしの麦茶ポットと、この前の遠征土産らしい高級クッキーの缶が置かれていた。そこに張り合うように、僕が持ち込んだ大深皿にこんもり山積みになったフェア特製・絶品半熟煮卵が並ぶ。それぞれの前には、小さな小皿とお箸がきちんとスタンバイされている。


 見た目だけなら、ただのおやつタイムか、ちょっと豪華なブランチの準備にしか見えない。冷たい氷入りのジュースグラスに差し入れたストローをクルクルと回しながら、如何にも胡散臭そうな目付きで僕を見つめる小恋路さん。


「どうぞ、温かいうちに召し上がれ」

「翔太、モノで釣ろうって企み、成功した試しあった?」 


 小恋路が、呆れきった顔でストローをくわえ直す。


「でも、美味しいもの食べながらだったら、ちょっとキツイ話もできるでしょ」

「……キツイ話なんだ」

「そう、とってもキツイ話。御経塚ダンジョンを誰一人かけることなく無事に生還できたけど、それに対する“お値段”の話というかさ……」


 笑い話にしてしまうには、さすがに桁がえぐすぎる。

 けれど、これから始まるのは「フェアさん暴走防止協議会」という名の、胃に悪い作戦会議である。


 そのテーブルを挟んで座っているのは三人。

 僕と、小恋路と、優斗兄さん。


 そして、僕の右肩の上には、いつの間にか戻ってきていたフェアが、足をぶらぶらさせて腰掛けている。


 しばらく時間をとって、絶品卵の味を噛みしめる。そして食べれば食べるほど元気が注入されていく。


「ねえ、これ、もしかして探索者ギルドに売るつもり」

「うん。黒田さんと商談するとき、これは絶対に欠かせないものになると思う」

「いいなー。ダンジョンに潜らなくても、もう翔太、大金持ち確定だよね。さすがはわたしが選んだ彼氏よね」

「……そ、そうだね」


(これからいう衝撃の発言をきいて、小恋路、見捨てないでね。頼むよ。マジで。信じてるから)


「……それじゃあ」


 麦茶を一口飲んで、喉の渇きをごまかしてから、僕は意を決して口を開いた。


「改めまして。ここ八神家ダイニングにて――第一回『フェアさん暴走防止協議会』を開催します。はい、みんな拍手!!」


 自分で言っておいてなんだけど、タイトルからして不穏だ。


 拍手に応じたのはフェアただ一人。


「ぱちぱちぱち~。はい、容疑者のフェアは、誰にも屈せずに正々堂々と戦いまーす」


 高く右手を掲げたフェアは笑顔で宣言した。


「いや戦うな。おとなしく反省して?」

「はーい」


 僕が即座にツッコむと、フェアは反省してる振りをする。

 向かいの席の小恋路も、ストローをくわえたまま肩をすくめた。


「ていうか、容疑者って自分で言っちゃうあたり、もう反省する気ゼロだよね、フェアちゃん」


「えへへ~。フェアはいつでも無実でーす。ちょっとだけ人類文明に優しく手を加えてるだけです~」


(うわ、ついに少し本音を漏らしたか)


 ただ、何度かフェアに憑依された僕には解る。具体的にはことは話してくれないし、思考も肝心なものは全てブロックされてるから分からないけど、フェアがまだ色々と企んでいることはわかる。


 そして、土壇場ギリギリになってやっと、面白おかしく計画を打ち明けると……そんな未来が確実に来ると、もう確信してる。


だから――。


「その“ちょっとだけ”が一番怖いんだけど……」


 僕が頭を抱えかけたところで、コン、コン、とテーブルを指で叩く音がした。


「……よし、その辺の茶番は一旦終了だ」


 低い声とともに、優斗兄さんが、じろりと僕たちを見回す。


「さっき朝倉家で、“フェアのやらかしたDP案件がどうこう”って漏らしてただろうが。何があった。というか、フェアは何をやらかした」


「う……」


 さっきの独り言は、しっかり聞かれていたもんな。

 ここで誤魔化そうとしても、優斗兄さんの勘の前ではどうせバレる。


「フェアの“やらかした案件”って聞くと、まず真っ先に俺のダンジョンカートが頭をよぎるんだが……。

 所有者の許可なく勝手に空飛ぶ仕様にされる気持ち、分かるか?」


「ごめん、それは本当にごめん」


 あれも、フェアが並行思考で“ついでに”やってのけた、前科の一つだ。


「えーと、その……」


 視線が、思わず肩の上の元凶へと泳いだ。


「翔太様? そこはぜひ、包み隠さず正直に“フェアが悪いんです”って言ってもらって大丈夫ですよ~」


「開き直るな、容疑者」と、三人分のツッコミが同時に飛んだ。


「ひどいです~。フェアはみんなの豊かなダンジョンライフのために、日夜がんばっているだけなのに~」


「がんばった結果が“やらかし案件”なんだよなあ……」


 僕は深いため息をつきながら、湯のみを手の中でくるくる回した。


 ここまで話が振られてしまった以上、もう逃げられない。

 覚悟を決めて、僕は口を開いた。


「はー、もう、覚悟して聞いてね。その……さっき朝倉家で言ってた“フェアのやらかしたDP案件”なんだけどさ。なんかさ、いろいろあって、御経塚ダンジョンの魔物進軍掃討戦を鎮静化するのにかかったコストがね。額にして、ざっくり言うと八兆DPかかったんだ。これ、どう思う?」


(細かく言うと、八兆七千五百億DP。ざっくりで七千五百億DPを削るって、僕の探索者人生のスタート地点、どこまでぶっ飛んでるんだ)


 言い終わった瞬間、ダイニングがしんと静まり返った。


(フェアは悪くないですよ~。だって、向こうの世界じゃジョブスロット一個十兆DPしますから~。こっちの世界じゃ一個一兆ですよ? すっごいお買い得だったんですから~。ちょっとまとめ買いしただけですよ~)


 僕の頭の中に、魔力パスを通じてフェアの言い訳が直接届く。

 お買い得の桁が“兆”なのに、どこがお買い得なのか。あまりの感性の違いに、頭が痛くなった。


 時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえる。

 真っ先に悲鳴を上げたのは、小恋路だった。


「はー、いったいどんな数字よ! 億じゃなくて、兆! 嘘でしょ! どうもこうもないわよ!? 新人が背負っていい桁じゃないでしょ、それ! フェアちゃん、なんてことしてくれたの?」


 椅子からずいっと身を乗り出し、テーブル越しにフェアをにらみつける小恋路。

 マグカップを握る手にも力が入りすぎて、カタカタと小さく震えている。


 対して、視線のど真ん中にさらされている当の本人は――。


「え~、別に普通ですけど~」


 きょとん、と首をかしげているだけだった。

 人の人生が八兆七千五百億単位という金額を支えきれずに、崖から転がり落ちているというのに、表情ひとつ動かさない、まさにサイコ妖精の本領を発揮してる。


 フェアは、どうやら、頭のネジが百本は外れているようだった。


「冗談だろ。桁がおかしいにもほどがあるだろ……“新人研修で聞いた石碑の仕組み”と、今の話をどうやって同じ世界観に収めればいいんだ……」


 優斗兄さんも、額を押さえてうめく。


「冗談だったらどんなに良かったことか。でも現実は無常だった。で、僕たちって小さい頃からいつも助け合ってきたよね。今回も助けてくれるよね?」


 必死の情に訴える作戦に出てみたものの――。


「はい出た、幼なじみ補正を都合よく振りかざすやつ」


 小恋路が、じと目でこちらを見る。


「言っとくけどね、翔太。わたし、“困ったときはお互いさま”まではいけるけど、“八兆DPの連帯保証人”までは面倒見きれないからね?」


「そこをなんとか! 神様! 仏様! 小恋路様!」


「無理!」


 小恋路は、ぴしゃりと言い切った。


「フェアちゃんの高スペック補助の影で、そんな落とし穴があったとはね。翔太、あなたの犠牲は無駄にはしないわ」


 小恋路と優斗兄さんが、なぜか同時に胸の前で手を合わせた。

 まるで、どこか遠い世界へ旅立った戦友を悼むみたいに、しんみりと目を閉じている。


「あのー、二人して両手を合わせて合掌するのやめて貰っていいですか? ていうかさ、今、完全に“戦友に別れを告げるシーン”になってるんだけど!?」


 きっぱりとした即答に、心がぽきっと音を立てた気がした。


 止めに入ったつもりの声も、二人の中ではもう遺言扱いらしい。


「合掌くらいさせなさいよ。せめてもの供養なんだから」


「そうだぞ。八兆DPの重みを前に、手を合わせる以外にどんなリアクションがある。安心しろ。美穂は俺がしっかり面倒をみてやるから、しっかり成仏しろ」


(なに、この人達……一緒に暮らしてきた心を許せる仲なのに)


(冗談にしては、全然笑えない。寧ろ、泣き喚きたい気分なんですけど)


(ていうか、もうオワタ……金の切れ目が縁の切れ目、でも探索者だと、DPの切れ目が縁の切れ目になるのか……さよなら、人生、また来世)


「こうなったら、最後の手段、悪魔の妖精に魂を売るしかないのか」


「悪魔の妖精は酷いです~」


 肩の上から、タイミングばっちりの抗議が飛んできた。


「フェアは、翔太様にとって祝福の妖精ですからね~。

 それとですね、その“人生オワタ案件”なんですけど~、もうとっくに片付いてますよ~」


「……は?」


「翔太様、昨日は精神的にお疲れで、ステータス確認せずにダンジョンを出たじゃないですか~。

 なのでフェアが、ちゃんとステータス更新も済ませておきました~。

 マイナスだったDPは、報奨DP十兆が入ったんで、ぜーんぶ耳を揃えて返済完了。今はプラス一・三兆スタートですよ~」


 まるで「ゴミ出ししときましたよ」くらいのノリで、とんでもない爆弾を投げてきた。


 さらっと口にされた数字の桁が、頭の中でうまく並ばない。

 ジェットコースター並みの感情の揺れ幅で、思考が一瞬ショートしたみたいに、くらりと眩暈がする。辛うじて、口から短い言葉がこぼれた。


「本当に?」


「本当です~」


 何とか口から出た言葉に対するフェアの反応は、‟いまさら何を言ってるの? ご主人様に不利益を与える訳ないじゃない”という笑顔あふれる短い解答だった。


「報奨DP十兆って、額デカすぎ、無理、頭が追い付かないんだけど」


「俺もだ。翔太の気苦労が一瞬で体験できた気分だ……」


「フェアさん、じゃあ、どうやってか教えて」


 そう、立て続けにまくし立てるように質問する僕たち三人。


「翔太様が御経塚ダンジョンを支配下におさめたので、報奨DPが十兆入りました~」


 フェアは、誇らしげに胸を張った。


「また幻聴かしら。それとも聞き間違いかしら。今、さらなる爆弾投下がされた気がしたんだけど」


 小恋路は、額に手を当てて天井を仰ぐ。

 現実逃避とツッコミが、半々くらいに混ざった声だった。


「ははは、わからん。全く話についていけないんだが。嘘かホントかも、地上では確かめようがないしな。そもそも、そんな支配権があるなんて、学校の教材のどこにも書かれていないから、判断のしようがない」


 優斗兄さんは深く窪みのできたこめかみを指で揉み上げ、思考に意識を振り向けるような仕草を見せる。


「そうですよね~。嘘かホントか信じられないと思うので、ステータスを確かめられるようにしてあるのです~。ちゃっちゃと確認しちゃってくださいね~」


 そこで、さらにフェアさんが叩き込むように言葉の爆弾を連続投下してくる。

 

「フェアさんや。爆弾の絨毯爆撃投下、そろそろやめて貰っていいですか? こっちはもうHPとMPがゼロなんだけど」


(新人研修で、“地上は魔素が薄すぎて、ろくにステータスウインドウは開けない”って習ったんですが……。そんな迷宮法則すら力技でねじ曲げるフェアさん、さすがに半端なさすぎ。ちょっとは世界のルールに従ってくださいよ)


 しかし、そこでやめないのがサイコ妖精クオリティーだ。何やら、僕たちのダイニングテーブルの真ん中に、ゆっくりと何かが浮かび上がってくる。


 ――空気が、震えた。そして、耳に奇怪な歌声が届く。


 ……ぶっちゅぶっちゅ、ちゅっちゅちゅ、らんらんらん……

 ……ぶっちゅぶっちゅ、ちゅっちゅちゅ、らんらんらん……


(なにこれ。この訳が分からん奇怪な歌声は、もしかしてテーマソング?)


 薄っすらとしたそれは、やがて、黒い卵を模っていく。

 しかし、ただの卵じゃないのは、一瞬でわかった。

 見た目の大きさは拳二つ分。色は漆黒の闇を思わせる。

 そしてその卵には、目が一つと口が一つ付いていた。


「翔太様~、爆弾投下はひとまずこれで終わりにしますね。ご紹介しまーす。この子の名前は、玉ちゃん二号です。はい、玉ちゃん、ご挨拶しましょうね~」


「翔太ちゃまのスキル、『迷宮卵』の玉ちゃん二号でちゅ。宜しくお願いでちゅ」


(玉子の頭文字をとった安直な名前だけど……あれ?……二号、あ、もしかして、そういうことか?)


 見た目はキモカワ系のゆるキャラ、でも中身はどう考えても新手の爆弾だった。


(そういや、ステータスウインドウのスキル関連、全部フェアにまかせっきりだったから、スキル説明ほとんど読んでなかったけど、これの感じだと、一号さんは御経塚ダンジョンの迷宮核と同化してるやつやん)


「ははははは、もう笑うしかないよね。この状況はさ。卵が喋るって、価値観の壁が崩壊していく……」


 小恋路の口からは、乾いた笑い声と、自分の内心がそのまま言葉になった台詞だけがこぼれ落ちていた。


「……………」


 優斗兄さんは、言葉を忘れたみたいに、ゆっくり首を横に振り続けていた。


(あー、うん。二人とも頭がショートしたな。うん、分かるよ。その気持ち。僕もさっき同じところを通ってきたから)


 そこに、魔力パスを通じて、『看破 Lv.MAX』をもつチート妖精のフェアから僕のスキル――『迷宮卵』の詳細データが僕の頭の中に浮かび上がる。


(ここで、即席のお勉強会を差し込むのが、いかにも迷宮術師の眷属らしいけど……いま、それやる?)


 そうした僕のささやかな疑問は、瞬く内に解消された。


(なんだ。これ? え、チートじゃん)


 その性能は、凄まじいという言葉では全然足りないくらいだった。

 迷宮時代そのものを揺るがしかねないチート機能が、これでもかと詰め込まれている。


 そういうことか。理解した。


 なぜ、フェアが地上だと空気が『臭い』といってたのに、平気だったのか。

 なぜ、『迷宮卵』として生を受けた玉ちゃん二号が、『一号』じゃないのか。

 なぜ、フェアが僕のステ振りを弄り、『迷宮卵 Lv.41』まで上げたのか。

 なぜ、御経塚ダンジョンを、ああも簡単に支配下にすることができたのか。

 なぜ、迷宮でもないダイニングで、平然とステータス更新ができるのか。


 その答えが、今しがた頭の中で一本の線としてつながった。


 全部、目の前の『迷宮卵』があるからこそ成り立っていたことだったんだ。


 つまり、『迷宮卵』は、迷宮術師の腕であり、手であり、足であり、頭であり――。

 そのすべてを兼ね備えた、迷宮術師専用のチート端末と言っても過言じゃない存在だというわけだ。


(その通りです。翔太様、あとはその判明した迷宮卵の本質を小恋路ちゃんと優斗ちゃんに伝えるかどうかは、翔太様にお任せしますね~)


 結果としては、仕組みそのものは非常に単純だった――けど、使い方次第では危険極まりない存在だ。


 普通の迷宮核に生まれ変われる特異体。

 地上の景観そのものをダンジョン化できる特異体。

 卵の色に応じた属性の迷宮核に生まれ変われる特異体。

 プライベートダンジョンの迷宮核に生まれ変われる特異体。

 すでに存在する迷宮核と接触・結合して、システム支配権を奪える特異体。

 すべての特異体がリンク機能をもち、離れた場所から思念だけで操作可能な特異体。

 この世界のダンジョンには存在しない、石碑に代わる構造物を生み出す特異体。

 ダンジョン内では、迷宮核に間接的に干渉して、さまざまなシステム変更を行える特異体。


 これら、全ての特異現象を、今目の前にある黒いキモかわ卵が、その全部をまとめて担っている。


(そりゃあ、政府管理下の預言者がわざわざ介入してくるわけだよ。納得した。これは、迷宮時代の根底を本気で揺るがしかねない力だ)


 内心に深く潜りすぎていたようだ。現実感がひどく遠く感じる。

 あ、優斗兄さんの声が聞こえた。


「……おい……おい、翔太、しっかりしろ。お前のスキルだろ。なに放心してるんだ。しっかり現実を受け止めろ」


 叱りつけるような口調なのに、その声には、とても頼りがいのある温かさが満ちていた。

 その言葉に突き動かされ、ぼんやりしていた意識が、徐々に現実へと引き戻されていく。


「怖いのは分かる。でも、もうお前ひとりの問題じゃない。そこから先は、ここにいるメンバー全員で考えればいいだけだ。そうだろ、小恋路」


 不意に話を振られた小恋路は、一瞬だけ目を丸くしたあとで、ふっと肩の力を抜いて笑った。


「そうね。もうここまで常識の壁が壊れたら、一人で立ち向かうのが無理なのは当然よ。わたしも力になるから、みんなで支え合って立ち向かいましょ」


 面と向かってそんなふうに言われると、こそばゆくて、でも胸の奥がじんわりと熱くなる。さっきまで足もとから崩れ落ちそうだった世界が、少しだけ色を取り戻していく気がした。


「ありがとう、小恋路、ありがとう、優斗兄さん、そして、フェア――……」


 僕はニヤリと笑ってフェアを見た。


「……今の言葉、しっかり録音できた?」


 魔力パスでつながった僕とフェアだからこそ可能な念話手法だ。

 しっかりフェアに僕の思念が届いていたようだ。


「もちのろんです、翔太様~、しっかり生活魔術で録音ばっちりでーす!」


 その場の空気が、一拍おいてから一気に冷めた。


「ちょっと、翔太、今の演技だったの、騙されたわ」

「翔太、お前、いい加減にしろよ。精神錯乱したのかと、本気で心配したんだからな」


 二人から突き刺さる視線がやけに痛かった。

 応援よろしくお願いします!


「面白かった!」


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「この後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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