後日談7 ハンバーグと星型ニンジン
晴夏が帰宅すると、家は温かく良い匂いに満ちていた。手洗いうがいと着替えを済ませてからリビングに向かうと、湊と子ども達がキッチンにいた。
「ママだー!おかえりー!!」
「ママー!!」
「お疲れ様、晴夏。ハンバーグとコンソメスープ温め直すから、座って待っててくれ」
「……ただいま!」
(久しぶりの旦那様ごはん…。じゃなくて、湊ごはんだ!)
晴夏が座ると、子ども達が側に寄ってきた。
「ママ、あのねー。今日はぼくも海斗もお手伝いしたんだよー!」
「そうなの!?すごいねー!」
2人の頭を撫で撫ですると、海斗は照れて走り回った。悠翔は晴夏をぎゅっと抱きしめながらニコニコしている。
「キャベツ、ビリビリー!」
「海斗といっしょに、パンとキャベツ、ちぎったんだー!玉ねぎの皮もむいたよ!」
「え!?すごーい!」
湊の方を見ると、苦笑した顔で口を開いた。
「食パンを食べるのは良いんだが、海斗が玉ねぎにかぶりつこうとした時は、焦ったよ」
ハンバーグは牛肉100%で、つなぎはパン粉ではなく食パンにするのが、彼の今日のこだわりだった。コンソメスープの具は、キャベツと玉ねぎとニンジンが入っていた。子ども達のニンジンは、星型になっていた。ニンジンの切れ端は、湊用のハンバーグに全部混ぜ込んでいた。
「疲れただろう。ごはんは大盛りにするか?」
「いつも通りで大丈夫ですよっ」
「悠翔、海斗。大人の熱いの運ぶから、気をつけろよ。ぶつからないでくれよ」
「「はーい!」」
湊が大きなお盆に載せて、夕飯を運んできた。
「2人のは火傷しないように別で取り分けてるから、安心してくれ。晴夏」
「ありがとうございます」
「ケチャップとデミグラスソース、どっちが良い?」
「え?ソースって買ってましたっけ?」
「さっき作った」
全員のごはんが揃ってから、いただきますをして食べ始めた。湊は自分が食べる前に海斗のハンバーグを一口サイズに切り分けている。子ども達のハンバーグには子ども用の無添加ケチャップ、大人のハンバーグにはデミグラスソースがかかっている。
「パパ、おいしー!」
「ハンバーグうぅ!」
「2人が頑張ってちぎってくれたからだな。…海斗、自分で食べても良いんだぞ?」
「パパやるー!」
「はいはい」
机をたしたし叩く海斗の口にハンバーグを運んでいる湊を見ると、晴夏の口は自然と綻んでいた。
「いいなぁー」
「ゆうちゃんも、ママに甘えちゃう?」
「甘えちゃう!」
晴夏も悠翔の口にコンソメスープを運んだ。
「ぼく、お星さま食べちゃったー!」
「おいしいね。ゆっくり噛んで食べようね」
「うん」
今度はハンバーグを悠翔の口に運ぶと、悠翔はもぐもぐしながら晴夏をじっと見つめていた。
「ゆうちゃん?」
ハンバーグを飲み込むと彼女に指差ししながら、よく通る声で言った。
「ママ、かわいいー!にこにこしてるー!」
「え?」
湊は自分そっくりな長男から褒められて照れ笑いを浮かべる晴夏を見て、少しもやもやした気持ちになった。
(悠翔……。こう言えばママが喜ぶって、分かってやってるな?)
この夫婦は新婚当初から口へのキスゼロが続いていて、晴夏へ可愛いと言った事も、まだ無かった…。
「まぁーま、ママしゅきー!」
(海斗。お前もか……)
ここから、時々ハグや額へのキスで晴夏の不安を溶かしつつ初めての頬へのキスをするまで、半年かかるのであった……。




