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後日談5 少女のまま止まっていた人


 次の休みの日、湊は子ども達を実家に預けて正治の家に向かった。晴夏は出勤日でいない。


「やあ、久しぶりだね。湊くん。晴夏の昔のアルバムを見せてほしいと連絡があった時は、少し驚いたよ」

「お久しぶりです。お義父さん」


 正治はたんぽぽのように微笑んで、湊を迎え入れる。ソファーに案内されると、ローテーブルの上にはアルバムが積んであった。


「1番左上が赤ちゃんの頃からのだよ」

「ありがとうございます」


 湊はアルバムをパラパラとめくっていく。


(赤ちゃんの頃は自然と微笑んでいるな。そりゃあそうか……)


 3、4歳頃までは違和感なく見ることが出来たが…。


(段々と表情がぎこちないな)


 小学校に入る頃のアルバムを手に取っていると、正治がお盆を持って湊の方にきた。


「晴夏は物心がついた頃くらいから、自己主張が下手になってきてな。小学校の先生からも孤立気味で心配って言われていたよ」


 そう言って、湊へお茶と和菓子を差し出した。


「ありがとうございます。お義父さん。…続きを聞かせて下さいませんか?」

「ああ。小学校低学年の間は担任の先生が『晴夏ちゃんと遊んであげて』と同じクラスの子を引き合わせてくれていたんだ。だが、同級生は我慢して遊んでくれていると思ったんだろうな。自分から断るようになっていったんだ」


 湊はその時、美澄の動画の小4で同級生の笑顔コピーの話が脳裏に浮かんだ。


(晴夏にとって、それが救いであり呪いにもなったんだな……)

(俺は……。内面が友達を欲しがる少女のまま止まっていたかもしれない女性に対して好き放題してきたんだな。いくら黒川を笑顔で壊された恨みがあったとしてもだ……)




『いい加減にその口を押さえる癖を止めろ』

『……こんな気持ち悪い声、旦那様は聞きたくないでしょう?』

『ああ、気持ち悪いな』


 その時湊はそう吐き捨てて。わざと甘い声を出して晴夏に囁いた。


『お前が気持ち悪いのは元々だろう?今更何を言っている?』


 彼女の瞳が微かに揺れた。


『不快な思いをさせてごめんなさい。旦那様……』


 ベッドの上で湊を見上げながら凪のように微笑む、新婚の頃の晴夏を思い出した。

その日はそのまま所有の証を刻み込むように続行したが。あの日からずっと、命令しない限り行為中は目を閉じるようになった。口を押さえる癖も直らなかった。

今思えば、その反応1つ1つが。支配欲を満たす為の道具の一部に過ぎなかったのかもしれない。




 小学校高学年からのアルバムを見ると、写真の中の彼女は作り物のような、借り物の笑顔になっていた。


(これがコピーの原型か。確かに、集合写真の快活そうな女子と表情がそっくりだな)



 ふと、ある写真に目が引き寄せられた。


「お義父さん、この写真は……」

「ああ、芙由子のお気に入りだったよ。晴夏はこの頃から話しかけるとよそ行きの笑顔になっていたけど、芙由子のごはんで気が緩んでいる時だけ昔からの、この表情になっていたんだ」


 正治は昔を懐かしむように目を細めて言う。


「芙由子には『晴夏には内緒にして、指摘しないでね。話しかけたらすぐに借り物の笑顔になって、せっかくの可愛い顔が見られなくなっちゃうから』と言われていたよ」

「お義母さんが……」



(この幼なげな表情は…。俺のメシを食ってる時の顔じゃねーか!)




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