12話
(アリシアの思い)
その後、私は公爵様の眠る部屋の隣室に案内され、軽い食事を取ってからベッドに横になった。
公爵様の容態に問題がないと分かり安堵した途端、ふと『私は公爵様のことをどう思っているのかしら』という疑問が頭に浮かんだ。
ここまで必死に駆けつける道中、生きた心地がしなかったことを思い出すにつけ、これはやはり恋慕の情なのだと確信した。
あの時、止めどなく溢れた涙は、紛れもなく公爵様を失うことへの絶望感だった気がする。
だけど、冷静になって考えてみると、もしこれがジェフリーお兄様だったら、どうなのかしら?
お兄様ももちろん失いたくない大切な存在だし、もしものことがあれば悲しくて涙が自然と出るに違いない。ただ、公爵様に対して抱く感情とは、どこか種類が違う気がした。
お兄様への感情は、肉親に感じるもの、それも弟のロジーに対する気持ちに近いのではないかと思う。
さらに、想像を巡らせ、もしお兄様がどこかの令嬢と楽しそうにしていたとしても、私はおそらく『ああ、彼女ができたのね』と思うだけだと思う。だけど、公爵様がもし他の令嬢と親しげにされていたとしたら、きっとそんな風には思えない。
この時、私はようやくはっきりと悟った。
胸を締めつけるこの感情は、まさしく嫉妬なのだ、と。
私は明日、公爵様にこの気持ちを伝えようと決心した。
今まで待たせてしまった答えをやっと伝えられると思うと
『今夜は寝られそうにないわ』
と一人言が出てしまった。それに苦笑しながら
『早く明日が来ないかしら』と呟いていた。
(公爵様の思い)
ふと目を覚すとそこには紛れもない、会いたかったアリシア嬢がいた。
一瞬『これは夢なのか?』と思った。
私は彼女に
『どうしてここに?』と聞くと
『本当に良かった』と言って涙を流してくれている。そんな彼女に私はただ『ごめん』と謝ることしかできなかった。
彼女が私の為に涙を流してくれていることに申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが混ざり合あい
『あーやはりこれは現実なのだ』
と思えた。
そういえば執事のジョンソンが彼女に早馬で知らせたと言っていたことを思い出した。
彼女は私を心配して飛んで来てくれたのかと、とても嬉しく思っていたが、もしかしたら先日私が伝えた気持ちの返事をしに来たのだと思い直して一瞬で緊張に変わった。
しかしその後の会話でそのことに触れた話はしてこなかった。
やはり私の思い過ごしだと思いその日はそのまま眠りについた。