13話
次の日の朝、私は朝食を終え公爵様のお部屋へと向かった。
お部屋に入ると公爵様は優しく微笑んだ。
「まさか君がこんなところまで一人で駆けつけてくれるとは思わなかった、ありがとう」
「命に別状がなくて本当に良かったです」
「君の答えを聞く前に死ぬことなんてできないよ」
と言って、微笑まれた。
「今、ここでその答えをお伝えしてもよろしいですか?」
「んー良い答えなら今聞きたいが悪い答えなら今はまだ聞きたくないな」
その言葉に私は思わず笑ってしまった。
「でしたら今、お伝えします」
と言うと、とても驚いた表情で問われた。
「もしかしたらそれは良い返事なのか?」
私は黙って頷いた。
すると公爵様は突然、ベッドから起き上がり、隣に座る私を抱きしめた。
驚いた私は、咄嗟にその身体を支えながら声をかけた。
「公爵様、まだ起き上がってはいけません」
「こんなに嬉しいのにジッとなどしていられないよ」
と言いながら
「痛い!」
と叫んだ。
「ほら、まだちゃんと寝てて下さい」
と、宥めた。
そんな幸せな時間を過ごしながら私は公爵様にお礼を言った。
「あの日、私を助けて下さりありがとうございました」
「いいや、私の方こそこんな幸せな時間をありがとう」
そう言って、優しく微笑んで下さった。
そう、全てはあの日、公爵様が私を助けて下さらなかったら今、私はどうなっていたかわからない。そんな二人の出会いに何か運命的なものを感じた。
「こうなることはずっと前から決まっていたように感じます」
すると、とても驚いたようにそれでも優しい笑顔で頷いた。
「実は私も同じことを思っていたんだ」
そう仰ってから話が続けられた。
あの日はそのまま私たちの住むお屋敷の前を、馬に乗って通り過ぎようとしていたところ、腰に付けていたお父様の形見の懐中時計が落ちてしまい、馬から降りて拾い上げた。
ふと目の前を見ると大きな窓ガラス越しに、バーデン辺境伯と私の姿を見つけて、嫌な予感がして中に入って来られたという。
それを聞いた私は静かに言った。
「亡くなったお父様が会わせてくれたのですね」
「曲がったことが大嫌いな優しい人だったんだ。
きっと今頃は、母上と一緒に天国で喜んでくれてるよ」
それを聞き、私はお願いをした。
「公爵様が歩けるようになっら是非、ご両親のお墓参りに連れて行って下さいね」
公爵様は静かに微笑まれた。
ーーーー
それから随分と経ってからバーデン辺境伯が拘束されたと聞いた。
貴族の命を狙ったのだから、いくら自分も貴族といっても軽い刑では済まされない。
陛下からの信用も失っていたのでそれなりの罪になるだろうと公爵様は言われた。
そして従兄のお兄様はといえば
「公爵の存在が無くても僕のことは断っていたのだろう?」
なんだか答えが分かっているように言われた。
「はい、やはりお兄様のことは本当の兄のように感じてますから」
「まあ、だったら公爵に負けたわけではなく、兄妹という絆に負けたんだ。それなら潔く諦めるよ」
と言って笑ってくれた。
その後、私たちは公爵様の身体がすっかり良くなってから挙式を挙げた。
この短い間に色々なことがあったと、改めて考えていた。
余りに運命的な公爵様のお話に『やはり私たちは出会うべくして出会ったのね』と呟きながら、これから先はどんな運命が待っているのか分からないけれど、もしそれが不幸なものだとしたらその時は運命に逆らってでも幸せになってみせるわと心に誓った。
これからは一人ではない、二人で力を合わせればどんな不幸も跳ね除けられると信じてる。
私は、隣で静かな寝息を立てている公爵様をそっと見つめ、感謝と愛しさを込めて唇に軽く口づけを落とした。
その温もりに幸福を感じ、穏やかな安らぎに包まれながら、再び眠りへと落ちていった。
完




