ルマの商い記 -21-
程なくして前のテーブルが空いた。
誰も座らない事を確認して、店員にひと声掛ける。
店員から促されて空いた座席に座る。
メニューは壁に掛けられている。
そこには肉料理が2品と、魚料理が3品書かれている。
ルマは魚料理をひとつ注文した。
座って店内を見回すとその誰もが夜市場の住人のようだ。
観光客や買い物客とは違った商人の風情や佇まいをしている。
どうやらこの店はそういった人を寄せ付ける場所のようだ。
当然、ルマも商売人の1人だからそこに寄せられたのだろう。
そう考えて納得した。
そんなことを考えているうちに料理が運ばれてきた。
港で仕入れたであろう魚。
それを素揚げにしたものに、野菜を炒めたものが添えられている。
その上からタレのようなものが全体に掛けられている。
見事に美味しそうな料理。
その料理についても、画板の紙にメモした。
湯気を立てて美味しそうな魚料理を前にして、ルマはまだメモを続けている。
書き込んでいる様はその料理をスケッチでもしているかのような緻密な筆遣い。
紙面をよく見れば細かい文字がびっしりと埋められている。
レシピといったものではなさそうで、地図のような図面にメモをびっしりと書き込んでいる。
ようやく書き込みが終わったころには、周囲の客は半分が席を立っていた。
すっかり冷めてしまった魚料理を前にして、ルマの笑顔がより笑顔になる。
温かいうちに食べたほうが一番おいしいにも関わらず、少し冷めてしまった魚料理。
それを意に介することなく食べ始める。
二つ又になったフォーク状のもので、刺したりしながら食事を口に運んでいく。
もう片方にはへこんだヘラのようなスプーン状のものが添えられている。
ルマに限らず、この土地で出される料理には当たり前のように付属する食器のようだ。
食器にもまた店舗の差が出る。
食器にこだわりを持つ店は、そういった類のものを鉄や銀と言った鉱物系の材質でしつらえている。
そういった店は大概が大通りに店を構えているか、夜通し営業の許可を取っている高級店ばかり。
大抵は木製で、簡素なつくりのものを使用している。
それでも、年季の入った店では、木製のシンプルなつくりのものが長年の使用によって独特の色艶を醸しているものもある。
ルマの入った店はその年季の入った店のようで、使われている食器類も年季の入ったものが多い。
さらには料理が乗せられている皿も木製でありながら独特の飴色をして、とても艶っぽい。
ルマにはこの年季が醸し出す雰囲気がたまらなく好きだ。
そのせいもあって、先ほどの熱心なメモに繋がる。
たとえ少し冷めてしまったとしても、ルマにとってはこの皿で出てくるだけで十分に温かいのだという。
それだからか、ルマの表情は美味しいものを食べているだけではない笑顔であることがわかる笑顔をしている。
空腹が満たされる満足に加えて、空気までを美味しくいただいているような、複数段の満足。
あっさりと食べ終わったルマが、再び画板を手にすると、また思い出したことのメモを続ける。
よくよく見てみれば地図に乗せていたメモは食器類の年季や具合をメモしているものだった。
そのために、すぐに店に入ることなくいろいろな店を見て回っていたことに納得がいく。
食事とメモの整理を終えたルマは満足な表情のまま、店に料金を支払う。
夜市場ではチップ制度といった面倒な会計はない。
けれどもとても気分の良かったルマは端数をおひねりとしてお店に預けることにした。
店主は小銭とは言え思わぬ増額にすこし恐縮しながらも、ルマの笑顔をみて全てを飲み込んだ。
ルマが店を後にした時間、月はまだまだ昇って間もない頃だった。




