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モノノケカナン  作者: 斑鴉


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携帯式音楽プレーヤー

TRPGやPBWの「モノノケカナン」世界観のオリジナルノベルです

「すべてのモノノケは、ご主人様が大好きだ」

 誰のセリフか知らないが、馬鹿を言うのは死ぬ時くらいにすればいい。

 少なくともオレは、ご主人様にはうんざりだ。

 まったくこのバカ、トロいったらない。立てば転ぶし歩けば転ぶ。座る姿も危なっかしい。

 よくこれで一人暮らしなんてできてるもんだ。

 おまけによく物を落とす。オレもよく落とされる。そのたびにかなり本気で「ゴメン!」とか言ったりするが、こちとら精密機械ではあるが日用品だ。そんなにヤワじゃ務まらん。

 まぁこのご主人様、ドジは生来の宿業だろうが、一概に責められない点もある。

 小さい頃はかなりきつい環境にいたらしく、助けもなければ逃げ道もなかったせいで、ついに心を、正確に言えば脳を壊した。

 長い付き合いのオレも知らない昔の話だ。なにがあったか詳しいことは聞かないでやってくれ。

 薬でなんとか緩和しているが、日常生活にはかなり支障をきたしているし、どうも一生治らないものらしい。

 その数ある支障の一つに「特定の音に耐えられない」というものがあり、耳栓やイヤマフなどいろいろ試したが防音力が足りず、最後にたどりついたのがオレだ。つまり外出時には常に爆音で耳をふさいで、外部の音をシャットアウトする。もうこれしかないらしい。

 そんな爆音を音漏れもさせずに流せる携帯音楽プレーヤーなどそうそうない。そこで有名メーカーの型落ち品、つまりオレを選んだわけだ。

 こっちから言わせてもらうと、そんなにしてまで外に出るなというところなのだが、人間はそういうわけにもいかないらしい。不便なものだ。

 おまけにコイツとは長い付き合いだが、その長い付き合いのうちに、オレを作ったメーカーは後継機を作ることすら辞めてしまったらしい。もしオレが壊れたらどうするのかという不安もあるが、オレが壊れた後のことをまったく考えていないらしい様子のコイツが心底不安だ。


 そして今日もお出かけだ。

 オレは定位置の胸ポケットで、保存された音楽を大音量でランダム再生している。選曲の趣味についてはノーコメントとしてやろう。

 コイツも自分で耳をふさいでいるせいで他人に迷惑をかけないように四六時中気を張っているが、大事なアナウンスに気づかない、後ろからの危険に完全に無防備など、隙も問題も多い。

 事情を知らない連中からは露骨に非常識な馬鹿を見る目で見下されるし、コイツもそれに気づかないほど馬鹿でもなければ、それに傷つかないほど鈍感でもない。

 気軽に飯屋も入れないなら本当に軽々しく外出などしないでほしいのだが。無理にハイテンションな曲ばかりを連続再生するんじゃなく、コイツが好きなゆったりした歌をリラックスできる程度の音量で流してやりたいんだが。

 理解が広がればいい、なんていう薄っぺらい偽善を吐く気はないが、嫌な世の中だ。

 ……変なやつがいるな。さっきから後ろでちらちらコイツを見ながら、散歩のようなテイでずっと一定距離から離れない男がいる。もちろんコイツは気づいていない。

 なんとかご主人様に伝えたいところだが、いい手段がない。周辺に声をかけたが、たまたまこのあたりにモノノケはいないようだ。

 杞憂ならいいが……

 そう思った時、それは起きた。

 事故かテロかは分からない。だが、日中の街中での大爆発。それは現に起きたのだ。

 周りの人間たちが棒立ちになり、次第に慌てふためいていく中で、当然のようにご主人様はなにが起きているのが気づいていない。イヤホンを外すことさえ思い至らないようだ。

 もう手段はない。

 オレは自分の一部を故意に故障させ、音量を極端に落とした。

 冷静な感覚が、これはもう直らないと分かった。自分の一部が永遠に損なわれた虚無感。なんとなくご主人様が不意に見せる無表情を思い出す。

 それでようやくコイツも非常事態を理解したようだ。人の流れを見て、危険な方から逃げ出そうとして……

 二回目の爆発が起こった。

 今度は近い。思わず足が止まったご主人様の顔に、鋭く割れたアスファルトの破片が飛んできて。

 モノノケの禁を破って、オレは自力が胸ポケットから飛び出した。

 ご主人様の目に突き刺さろうとした破片を自分の液晶画面で受けて、派手に吹き飛ぶ。オレはもう死ぬ。それは仕方ない。あとはご主人様が逃げてくれれば……

 おい!? このバカ! なに涙目で壊れた音楽プレーヤーなんかに手を伸ばしてやがる!

 逃げるんだよ! さっさと走ってこの場から逃げるんだよ! オレなんか見てる場合か!

 ……!

 さっきの男! あいつがコイツを抱えて離れようとしてる!

 もうお前でいい! コイツをさっさとここから引き剥がせ! ついでにこれからもコイツをなんとかしてやってくれ!


 ……しばらく経った。ようやく騒ぎは落ち着いたらしい。

 結局、なにが起きたのかはよく分からなかった。オレももうじき消えるんだろう。その瞬間に大好きなご主人様がいないのは嫌だけど……

 なんだよ。馬鹿の一つも言っていいだろ。死ぬんだから。

 遠目に涙目でオレを探して例の男に止められているご主人様の無事な姿が見えた。そしてサイレンと共に駆けつけてきたパトカーがオレを轢き潰し、オレという携帯型音楽プレーヤーのモノノケは消えた。




 そして。

 気がついたら、オレは同型の音楽プレーヤーとして再びモノノケの生を受けていた。

 とっくに製造中止になった型落ち品を、苦労してご主人様がまた手に入れたらしい。酔狂なことだ。

 そして死んでいた間に変わっていたことが一つ。

 ご主人様は転居して例の男と同棲していた。なんでも前に街で出会って、自分も苦労してるのに困っていた自分を助けてくれたご主人様に一目惚れしていたのだとか。

 そうするとオレも以前に顔を見ていたはずだが、さっぱり覚えていなかった。まぁモノノケなんてそんなもん。自分のご主人様以外にはほぼ興味がない。

 脳の損傷は変わらない。人生のハードルも変わらない。だが支えてくれる人間がいることで、ご主人様のこれからも少しは変わるのかもしれない。オレたちモノノケにはできないこと。嫉妬を覚えないと言えば嘘になるかもしれない。

 それはそうと、あの現場から回収した前のオレの残骸をノロケのタネに使うのは心底止めてほしいのだが。本当に止めてほしいのだが。


 そして今日も、オレは彼女の好きなゆったりした曲を、以前よりはるかに耳に負担のかからない音量で流す。

 以前のピリピリした外出の日々よりも、こちらのほうがオレにも性に合っているらしい。


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