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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第四章
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ミキ=ホヅミ2

マリィの火葬を終え、ホヅミとリリィの二人はアルストロメリアの城内へと案内されていた。

火葬が終わる頃にはシュウも戻ってきていて、シュウが代わりにアリスへと口添くちぞえをしてくれたお陰で、二人の処遇しょぐうが軽く済んでいた。本来であればルノーラと結託した敵で、魔物である事からほぼほぼ処刑、もしくは地下牢へと再び閉じ込められるところであったので、シュウには感謝すべきだった。だがそれでも二人には封魔錠スペルオフをかけられて、再び捕らわれの身と逆戻りだ。


「すまぬの、無体むたいな扱いで。お主らの素性すじょうには少し問題があるでな。許しておくれ」


緩い表情で陳謝ちんしゃするアリス女王の座すのは、アリスの寝室。いくつもの宝石があしらえられた屋根付きの豪勢ごうせいなベッドだ。著大ちょだいで柔らかな羽毛布団はアリスの小さな体を抱き込む。


「お主達は入れ替わっておると聞いた。片や魔物の血を有しており、片やシュウと同郷どうきょうであると……まずは何から話そうかの……」


胸元に光る大きなダイヤモンドを手でいじくりながら視線を落として思慮を巡らすアリス。眼前でひざまずくリリィとマリィへの今後について決めなければならない。


「リリィ……といったか……お主に二つ、訊ねねばならぬ事があるのじゃ」


神妙しんみょうにリリィの頭に向かって言葉を放っていく。


「リリィ、お主……ハイシエンス王都を滅ぼしたじゃろう?」


リリィとホヅミの肩には力が入り、顔は青ざめる。一変した二人の雰囲気に傍で立つシュウがぎろりと睨みを利かせた。


「やはりそうなのか……そうと分かれば、妾も国を守る立場故、お主をこのままにしてはおけぬ」

「待ってください! リリィはわざとじゃないんです! あの時リリィは……リリィと私は気を失ってたらしくて、リリィ自身も自分の意思でやった事じゃないんです! だから、だから!」


焦燥に駆られるホヅミ。このままではアリスの判断によって、リリィはどうにかされてしまうと、悪い想像をしてしまう。


「まぁ待て落ち着け。別に命を奪おうと言う訳ではない……ただこれも確認させてはくれぬか? リリィよ。魔物と人間の血を有するお主は人間の敵か? 味方か?」


その問いを耳に、リリィの心に芽生えていた思いがつつかれる。それは魔物に対しての肯定心。今までもそうだが、特にゼロとの出会いやデスドラゴンと相交あいまみえた一件、二体に存在した心というものをリリィは知ってしまった。魔物は横暴で邪悪で卑劣というどこかの誰かの受け売りが、今では呆れる程に荒唐無稽こうとうむけい妄言もうげんと思えていた。だがそうとも言い切れないふしもある。ホヅミを襲った魔物がそうだ。けれどもし理由があるのだとすれば。リリィは魔物を知らない。知らないからこそ決めつけるべきではないと、魔物が人間よりも優しい心を持っている可能性を信ずるべきだと、リリィの心が言っている。


「ボクは人間の味方にはならない」


その発言を聞きシュウは身構えるが、戦意が感じられず、拳を作ろうとはしない。


「ほう、では敵であると?」

「ううん……ボクは魔物にも、人間にも……もちろん魔族にだって心があるって信じる。それを、これから確かめていく。だから人間とか魔物とかじゃない。信じた者の味方をする」


その返答に場は静粛せいしゅくする。ふとアリスの口元がゆるみ、綻んでいく。


「ふ……ふふふふふ……ふっはっはっはっ! ………そうかそうか、それは面白い考えじゃ! 気に入ったぞリリィよ! そうじゃの、妾も見てみたい。魔物と人と魔族……他種族分けへだてなく仲良く交流をする世界を」


愉快に胸の前で手を合わせてにこやかに話す。その目線をシュウへと移すと、シュウは何だか分からず眉を顰めた。そしてアリスは再び二人へと目線を戻す。


「これは提案じゃ。リリィ、そしてホヅミよ。お主ら二人、このシュウと共に旅をせぬか?「なっ!?」」


シュウは組んでいた腕をほどいてアリスへと突っかかろうとするが、アリスは片掌をシュウに突き出して触れずにそれを制す。


「まあ旅と言うても、実際は妾からの任務じゃ。任務の内容は、世に起こる人や魔族の魔物化、その既往と仕組みを探る事じゃ。どうじゃ? 何ともお主ら向きの提案だと思うのじゃが」


傍で歯を剥き出して物言いたげにしているシュウがいたが、気にせずに怪訝なリリィが答える。


「その……良いんですか? ……ボクは………王都を滅ぼしたんですよ」

「どの道戦争で多数の犠牲者を出しておったのじゃ……魔物の血を有するお主であれば、無意識に魔物の血が騒いだという事もあるのじゃろう。その意味でも、シュウはお主の抑止力となるじゃろうて………………だがのリリィ、これだけは覚えて置くのだ。手配書にてお主の素性を少なからず知っておる者も多い。妾も口を利かせて置くが、その影響力はこの城内だけと思っておいた方が良いじゃろう」


表情の曇るリリィ。アリスの言う事はもっともだろう。そして自身の力の暴走について。それはリリィの中でも懸念の一つだ。それに関しては先のルノーラ戦で圧倒的な強さを持っていると判明したシュウが、抑止力となってくれるというのだから心配はないだろう。


「おい待て! 俺は認めねぇ! 何でこんな弱い奴らが仲間なんだ! 足でまといじゃねぇか!」


その言葉には、リリィと同様に先行きに不安を感じていたホヅミがかちんと来る。


「シュウよ……これは命令ぞ」

「いやだから「命令ぞっ!」」


シュウが上手にアリスに酷い言葉遣いをしていたにも関わらず、肝心な時のアリス女王としての発言には、シュウも下唇を噛む。


「女王様ありがとうございます」

「ありがとうございます」


リリィとホヅミが口々に言うと、アリスは良い良いと言って気を良くする。


「ではお主らに部屋を用意させよう」


パチンパチン。

アリスが両掌で二拍手、アリスの部屋の大扉が開いて一人の若い執事しつじが姿を現した。黒い正装で白手袋をつけており、腕で体を折る様にしてお辞儀をする。部屋の中へと入ってきて、驚いて振り向く二人の元で屈むと、端正な顔立ちが真近で見られ、二人は顔を赤くする。するといつの間にて封魔錠スペルオフは外されて二人の両手は自由になった。


「それはそうとお主ら……少々汚れが酷いの。どうじゃ? 城の湯浴みで綺麗にしてきてはどうじゃ?」

「えぇ!? お風呂!? やったぁ!!」


はしゃぐリリィはお風呂が好きであったと、ホヅミは苦笑い。


「私は魔法で体を洗います」

「魔法ならば使えぬ。妾の血統は民を守るために魔法の使用を制限する結界を国に張っておるのじゃ。妾もそうじゃ。小さな術式ならば作動はするが」


と言われてホヅミは一層に苦笑い。それとおかしな点に気づく。魔法が使えないのであれば、なぜ封魔錠スペルオフをかける必要性があったのか。


「そうでしたら、封魔錠スペルオフってかける必要なかったんじゃ……」

「念の為じゃ念の為。ほほほほほ」


とアリスは軽く笑い流す。



二人は執事に連れられて一室へと案内される。一室というのはアリスの気遣いが見える。二人別々の部屋というのは、リリィもホヅミも異国の地にては不安だったろう。

部屋に向かう途中で、執事しつじから浴場よくじょうの場所を教えていただいた。男湯、女湯と二つ並んで配置されている。


「では、ごゆっくり」


二人は一室に案内される。


「それじゃボクお風呂行くけど、ホヅミんどうする?」

「私は後で行くね」


リリィは執事と共に部屋のドアを閉めて去った。

ホヅミはというと少し催していたため部屋のかわやに入る事になる。



リリィは執事と分かれて、お風呂へと向かっていた。


「そういえば、ボクって女湯? 男湯? ………んーホヅミんの言葉で言うなら……心は女だから女湯で良いよね」


リリィは女湯へと足を踏み入れる。そこは広い脱衣場だった。壁に沿って縦長の棚がずらりと並ぶ。それから都合の良い事に、下位水魔法スプラッシュの術式を施された自動式洗濯ボールも存在していた。衣服と洗剤を入れて術式作動させれば三十分後には着用可能にまで仕上がる便利な道具だ。


「おお、来たか」


そこには三人いた。三人中二人は、恐らく付きの侍女だろう。そしてリリィに声をかけたのはアリス。着替えは終えているようで素っ裸だ。これから湯浴みに行くのだろう。


「待っておったぞぉ。妾は親睦しんぼくを深めたいと思っておったのじゃ。どうじゃ? 着替えを手伝ってあげようぞ?」


とアリスは小さな胸を揺らしながらリリィの元に寄る。アリスの怪しい笑みにリリィは一歩後退りするが、断ったら断ったでアリスの機嫌を損ねてしまいそうなのでとどまる。


「えっと……女王様」

「アリスで良い。ほう、リリィお主はぺったんこじゃのぉ……可愛らしくて良い」


とリリィの体を確認する様にやんわりと剥ぎ取っていく。ただ手つきが怪しく変な気分になるリリィ。


「あの……女王様」

「安心せい。妾が全部脱がしてあげようぞ」


とリリィの下着に手をつけたアリス。するととある感触にアリスは不思議に思った。


「ん? 何じゃこの出っ張りは」


アリスは気になって下着のパンツをゆっくりと下ろしていく。


「ん? これは……これは………これはぁあ………!」


アリスは気が動転する。衝撃の事実に当てられて、くらくらとその場で尻もちをついて倒れかかるも、侍女達に受け止められる。


「女王様お気を確かに!」

「女王様いったい何が!」


アリス同様に動揺する侍女二人は、アリスの脱がし切れなかったリリィのパンツを引きずり下ろす。


「「なっ!? お……お………男!?」」


リリィはきょとんとした顔をしてアリス達を見る。


「あ、えっとね。これはホヅミんの体で、ホヅミんもちょっと訳ありなの。ホヅミんは心が女の子で」

「そんな事はどうでもいい!! 不埒ふらちな! そんなものをぶら下げて女湯に入ってくるな!」


と侍女の一人が叫ぶ。もう一人の侍女はリリィのもつに怯えて腰を抜かしている。リリィはそこまで驚く事だろうかと自身の股を見る。それは小さな小さなもつであったが、自身も初めて見た時には驚いて我を失っていた事を思い出した。


「リリィはおとこで……おとこではなくて……心がおんなで……でも入れ替わってて……」


アリスは未だくらくらと思考が働いていないようだった。リリィはさすがに不味い事をしたとその場を離れようとする。


「ご、ごめんなさいっ!」


リリィは駆け出して女湯を去った。



ジャー。

自動式水流。魔力を込めるだけで催し物が全て水で流されていく。

厠を出て気が進まないながらも早速お風呂へと向かおうとするホヅミ。今は女の体であるとは言え、もし男の体であるとバレたらどうしようと、バレれば切腹させられるかもと例え予想で不安になる。


「あ、そういえばリリィ、どっちのお風呂行ったのかな? たぶん分かってると思うし、男湯だよね」


リリィが男湯に行くという事はそれはつまり、自身が元男であるとバレるという事。出来ればバレないで欲しいが難しいかもしれない。


(ううん。もういっそ開き直って、事情を説明するしか!)


とホヅミは女湯へと辿り着く。女湯へと入っていくとそこには誰もいなかった。脱衣場で着替えて、洗濯ボールと書かれた場所に衣服を入れる。使い方は製品表示の部分を読めば一通りは理解出来た。と言っても洗剤を入れて魔力を込めるだけだ。


「便利だわー。日本よりも便利。これで三十分後に着れる様になってるんでしょ? 全自動じゃん」


と一人ブツブツ零しながら着替えを終えてお風呂の方へと向かっていく。

大きなガラス扉を開くと白い湯気が蔓延。しばらくして目が慣れるとそこは大浴場。壁に沿って取り付けられたシャワーに、ど真ん中に位置する洪大こうだいなお風呂。更にその真ん中に聳える巨大な柱の周囲にはライオンのオブジェが顔を出しておりお湯を吐き出し続けている。ホヅミは歩いて、掛け湯をしにシャワーへと寄るとふと三人が目に入り驚き仰け反る。


「お、お主はホヅミ!」


アリスが叫んだ。


「あ、女王様……その……えっと……」


湯気のせいで人がいるとは思いもよらず、ホヅミは慌てて弁解を試みる。


「こ、これには深い訳がありまして!! その、私は心理学的と言いますか脳科学的と言いますか、中身が女性なんですはいっ」


とホヅミの言い分は聞かずに三人でコソコソと何かを話し始めた。


「やっぱり付いてない方がいいわよね」

「こっちの方がしっくりくるわ」

「妾も初めて見て驚いたが、あっちのも可愛いぞ」


自身を放置して自身について? 話を始める3人に困惑しながら、話の締めくくりを待っていた。



リリィは男湯へ入ろうとしていた。


「お邪魔しまーす」


気弱に男湯をそっと覗くリリィは中に誰もいない事を確認するとほっと一安心。


「良かったぁ……やっぱり男湯ってちょっと緊張するよね……お風呂に入らない訳にもいかないし……今は男の子の体だけどさ……」


リリィは衣服を今度は自身で脱ぎ始める。そして改めて自身についているもつを確認する。手で触ると妙な感覚に浸るのですぐに止めた。


「でも不思議だなぁ。この袋みたいなの何だろう。これも何かちっちゃなホースみたい」


リリィは知的好奇心による考察を止めてお風呂へと向かっていった。

大浴場には湯気が立ちのぼるが次第に目が慣れて、シャワーのある所にまで向かう。


「あ、誰かいる」


シャワーには人影があった。ちょうど髪の毛を洗っているところの様だ。リリィはまずいと思ってその場を離れようとするが、逃げればいつまで経っても先に進まないと意を決する。


(そうだ、ホヅミんのだけど、今は男の子の体をしてるんだし大丈夫。逆に逃げたら怪しいよ)


とリリィは敢えてその人影の隣に座った。


「ごほんっ……あーえー、先輩! 今日も一日お疲れ様です!」

「んあ? おーお疲れぃ」


と聞き覚えのある声だったがリリィは気にしなかった。


(そうそう。こうやってお城勤めの兵士のフリをしておけば大丈夫)


とリリィはシャワーを手に取り体の汗を流し始める。


「でも今日は大変でしたよね! いきなりルノーラ帝国が攻め入ってきて、妙な連中を連れて」


と自身らの事を妙と表現して軽い自虐を混ぜながら、いかにもお城の兵士であると言わんばかりな発言をする。


「妙? おいてめぇ、死人が出てんだぞ。不謹慎と思わねぇのか!」

「そ、それは……すみません」


マリィの事だ。リリィはこの男の人が思っているより自身がずっと不謹慎であると思った。そして触れられたくない傷をほじくり返されてしまう。


それからしばらく二人は体を洗うのに夢中になる。ふとリリィは、隣の男の人が背中を洗おうとしていることに気がついた。体が硬そうで随分と洗いにくそうにしている。


「あの……良ければお背中、お流ししますよ」

「んあ? ああ、良いのか?」

「はい、先程不謹慎な発言をして気分を悪くさせてしまったため、お詫びです」


とリリィは言って立ち上がり男の人の後ろへと移動する。


「んじゃ頼むわ」

「はい……あ「あ」」


壁に取り付けられた鏡。そこにはシュウとリリィの顔が映し出されて二人は息を揃える。


「シュウ!?」

「おめっ、え、おめぇぇえええ!?!? 何でおめぇがここにいんだ! おめぇは女だろうが!!」

「女だけど……体は……男?」


リリィ自身にも男であるというのが未だ不思議なくらいだ。それはシュウの反応が示す通り。


「ふざけんなよっ! 女湯は向こうだ! 出てけ!」

「だから男の体だってば」


とリリィは立ち上がって振り向くシュウの眼前に股の物を見せる。


「な、何ぃぃぃいいいいいい!!!!?」


シュウは口をぱくぱくとさせて面食らっている。


「ね? だから言ったでしょ?」


リリィは再びしゃがみこんで、シュウを下から覗き見上げる。


「お、俺はもう出る」


ふらふらとシュウは立ち上がろうとすると、バランスを崩して、リリィに覆いかぶさる様にして倒れ込む。


「ぬぉ!?」

「きゃっ……痛ったぁ」


するとシュウがリリィを押し倒した様な姿勢になって、シュウは顔を赤らめ、リリィはそのシュウの様子に疑念を浮かべる。


「シュウ?」


唖然として動かないシュウ。リリィはとある事に気がついた。太ももに生暖かく硬い大きな何かが当たっている様だった。


「シュウ? どうしたの?」


おもむろにシュウは顔をリリィの元へと近づけていく。気づけば自身の右の胸に左手を当てて揉む様な仕草までしていた。そしてリリィはとある事に気づく。


「ねぇシュウ? そのお腹の傷は? ボク達で戦った時に傷つけられたの?」


シュウの腹部には大きく横線状に傷痕きずあとが出来ていた。シュウはリリィの言葉で慌てて飛び起きて、リリィから離れる。


「う、うるせぇ! 違ぇよ!」


シュウはお風呂の方へと向かっていった。リリィも立ち上がるとお風呂の方へと向かっていく。


「てめぇ! 何で着いて来やがる!!」

「いや、だってボクもお風呂入りたいし」

「なっ! ……ああ、そうだったな」


シュウは体の前面をリリィに向けないようにして話す。奇妙な態度にリリィは首を傾げた。



二人はお風呂に隣同士で浸かっていた。シュウが少し距離を取ろうとすると、リリィはそれを追いかけるように距離を詰める。


「てめぇ………離れろよ」

「良いじゃん。これから一緒に旅するんだから、仲良くしようよ」


リリィがそう言うとシュウは渋々距離を取るのを止めて大人しくする。


「ねぇシュウ。お腹の傷ってどうしたの? さっきの戦いじゃないならいつ? その傷新しいよね」

「んあ? ……何だ、分かるのか……………はぁー……………ルノーラの残党を倒してきた」


シュウは追悼の間ずっといなかったのはそれが理由だった。敵討ちに行ってくれていたのかと、リリィは少し舞い上がる。


「もしかして敵討ち? シュウって言葉は酷いけど、何だかんだで優しいんだね」

「あんっ! 違ぇ! 残党をあのままにしておけば、今後アルストロメリアに被害をもたらすと考えたからだ!」

「ふーーーん?」


腹立たしい相槌にシュウは怒りを通り越して呆れ、肩を落とした。


下位回復魔法ヒール下位回復魔法ヒール増幅魔法バイリング!」

「なっ、何すんだよ」


水面から緑色の光が揺らぐ。


「分かるでしょ。治してるの」

「何で治す!」

「だーかーらー。これから一緒に旅をするんだから、親睦を深めてるの!」


しばらくすると、シュウの腹部に出来た大きな傷痕は綺麗に消えてなくなった。


「ちっ! つーかまだ一緒に行くなんて決めてねぇよ」

「な、何それ! 女王様の命令だよ?」

「うるせぇ。だから何とかして一緒に行かなくて良い方法を考えてんだろうが」


なかなか心を開かずに喧嘩腰のシュウには黙っていられず、自身もと喧嘩腰になるリリィはある思案を考えついた。


「ボク達と行きたくないのは、ボク達が弱いからだとか言ってたけど、あれって物凄く心外。そんなに嫌なら、ボクと一つ勝負しない? ボクが勝ったら大人しくボク達一緒に旅をする。どう?」

「んあ? 勝負? おめぇ聞いてなかったのか? このアルストロメリアは、アリスの力で魔法が使え」


シュウの口を遮る様に人差し指をシュウの眼前で立てる。


「魔法なし、で勝負だよっ?」




それから三十分後。ホヅミ達とアリス達は仲良くお風呂に入っていた。ホヅミが事情を何とかアリス達に説明を試みて、理解を示してくれたのだ。


「そうじゃったのか。そんなに辛い事が」

「ホヅミさん……苦労人ですぅ」


意外にも寛容に受け入れてくれたために、ホヅミは嬉しく思う。アリス達の様な反応を皆が示してくれれば良いのだが、日本ではなかなか上手くいかなかった。異世界でも酷い人間達ばかり見てきたが、やはりシュウが居着くだけあって良い人達ばかりなのだろう。

談笑をしながら四人は仲良く大浴場を出た。洗濯ボールの衣服洗濯も終わっている様で、皆体の水気を綺麗に拭き取って、綺麗でいい匂いになった衣服を身につける。ここでなんといっても、皺が何一つ見当たらない所が良い。素晴らしい異世界発明品だ。


「そういえば、男湯の方にはシュウが行ったはずじゃが」

「え!」


唐突なアリスの発言にホヅミは驚く。


「ひょっとして……まずいかの?」


着替えを終えていた四人は慌てて男湯の方へと向かう。男湯はオブジェから流れ落ちるお湯の音で満たされていた。着替えは洗濯ボールの中に洗い終わった衣服が二人分各々に残されている。

四人は走る。大浴場への扉を開けて、白い湯気の中を突っ切ると、お風呂には茹で上がった何かが二つ浮かび上がっていた。


「シュウ!」

「リリィ!」


アリス、ホヅミの悲鳴は大浴場で大反響する。


魔法講義ちゃん第23弾!!


パチパチパチ!!


では、今回の魔法なんですが……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!!

氷霧の暗殺者(グラスシーカー)です!!

この魔法はですね、氷槍の狙撃手(アイシクルダーツ)の成分で生まれた細氷で相手を死に至らしめる魔法なんですね。同じ成分という事はつまり溶けない細氷。氷霧に囚われた敵は徐々にその低温で身動きが取れなくなっていきます。そして同時に生み出した魔力の細氷、これを吸い込んだら体の内部から傷つけられて、いつの間にか肺はボロボロ。あっという間に死んじゃいます。

ただね、使用者が未熟だと長く持たない上に、使用者自身が凍傷や凍死しちゃうなんて事にもなりますのでお気をつけください!


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