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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第三章
48/77

マリィ=パンプキン8

パソコンで執筆してみました。

昼も夜も分からない閉鎖的へいさてきな空間で、魔法のランプの明かりが奥の通路から順々に点いていく。その気配に起こされる様にいち早く目を覚ましたホヅミ。武装した兵士らがカチャカチャと五月蝿うるさく音を立ててこちらへと歩いてくる。ホヅミ達のいる牢屋の前で足を止めると一人の兵士が前に出て腰に下げた複数の鍵の内一つを鉄格子の扉の錠に差し込む。


「ロウシュ中隊長がお呼びだ。我々と来てもらおう」


ついに来たかと息を呑むホヅミ。


「分かった、でも二人を起こさないと」


そう言うホヅミを差し置いて牢屋の中にずかずかと入り込む一人の兵士は、リリィ、そしてマリィのお腹を踏みつける。


「なっ……」


寝ている最中に突飛な起こされ方をした二人はひしゃげた奇声を上げて、苦悶の表情で目を覚ます。一方ホヅミはあまりに非道徳な行いを目にして愕然とする。


「あ……あんまりでしょ!? 酷過ぎる!」

「貴様の中身は人間であると聞いたが、なぜ庇う?」

「なぜって……」


聞くに呆れる問いにホヅミは言葉も出ない。彼らは酷く魔物を嫌っている。そこに思慮はなくただひたすらに魔物を絶対的な悪とせんがばかりの秩序が揺らめいている様だ。それは狂気にも似た、人間を悪魔たらしめるおぞましい信仰しんこうだ。


「そうか忘れていた。これは貴様の体であったな。ははは! すまない事をした」

「……狂ってる」



三人は兵士らに連れられて地下牢を後にする。外の広場ではロウシュ率いる小隊が待ち構えていた。兵士の顔は兜に隠れていて分からないが、数だけで言うならば昨日捕まった時と同じくらいだろう。ただ一つ大きく違う点があった。恐らく、いや確実にそれが目当てであろうと思える存在がその背後にはあった。虎が十頭は入りそうな大きな鋼の檻。その中には尋常でない大きさの熊がリードのない首輪をして入っていた。ホヅミでも分かる、それは魔物であると。


「やあおはよう。昨夜はよく眠れたかな?」


相も変わらずなおごり高ぶった態度でロウシュが迎える。ホヅミ達三人は顔をしかめた。


「おや、まだ眠気が取れていないらしい。では眠気覚ましに一つ」


ロウシュが掌を前にかざすと光が出始める。同時に三人の首は絞まり、三人は悶え苦しむ。それを満足気に眺め終えたロウシュは光を消した。


「目は覚めたかね?」


せる三人を見てにたにたとさげすんだ目を向ける。


「悪魔」


軽蔑を含んだホヅミの言葉を軽く鼻であしらうと、ロウシュはホヅミへと歩み寄って封魔錠スペルオフに手をかける。ロウシュの手には鍵が握られており、錠は外されホヅミの両手は自由となった。


「今から貴様には試験として、先日我々が捕らえたあの檻の魔物と戦ってもらう」


"リリィの体"を戦力にしようというたくらみから予想はついていた。それを改めて告げられると、ホヅミの全身は強張こわばる。


「待って! ホヅミんは魔物と戦った事があまりないの! それに魔法だってまだ少ししか出来ないの!」


リリィは叫ぶ。


「ほう、それは本当か?」


ロウシュはリリィ、またホヅミへと目線を行き来させる。リリィもホヅミも各々《おのおの》に首を縦に振って頷いた。


「開けろ」

「なっ!? ボクの話聞いてた!?」


ロウシュは構わず檻の開放を指示する。一人の兵士が檻に駆け寄ると檻の魔物は牙を剥き出しにして唸り声を上げる。その凄まじい迫力は空気を伝い、ホヅミの体、心へと入り込んでくる。


「ああ聞いていたとも、だが信じてはいない」

「そんな……」

「檻の魔物はS(スーパー)クラスの魔物、キングベアー。あれに手こずる様であれば、そもそも貴様らになど用はない」


そうしている内に檻は開けられる。キングベアーはその瞬間を見逃さずに檻を開けた兵士に飛び掛かった。


「キュアアアアア!!」


キングベアーは悲痛な叫び声を上げる。転げながら自身にかけられた首輪に手をかけていた。よく見ると檻を開けた兵士が掌をかざして小さな光を生み出している。詰まる所あのキングベアーのしている首輪は絞輪錠ストレンジオフだろう。


「要するに……あの二名を死なせたくなければ本気でやれ」


ロウシュは後退際にホヅミへ耳打ちする。リリィはホヅミの元へ行こうとするが、兵士に拘束されてその場から動くことが出来ない。


全兵ぜんぺい下がれ! 結界班用意!」


ホヅミとキングベアーのみを広場に残し、こぞって兵らとそれに連れられるマリィとリリィは砦の中入り口付近まで後退する。


「結界を張れ!」


ロウシュの合図と共に広場の四隅にて立て膝ついて待機していた兵士達は一斉に両の掌を足元の黒い箱に乗せる。


「「「「発動せよ、下位結界魔法オビスミノール!!」」」」


目には見えないが何かそれらしい気配が感じられたホヅミ。目の前にいる魔物か自分、どちらかが斃れるまでとことん戦わせるつもりだろう。誰の助けも及ばない、この空間で。


「グオオオオオオ!!!!!」


檻を開けた兵士が離れた所で魔力を抑えると、怒ったキングベアーは猛り狂う。狭苦しそうな檻から完全に抜け出て、檻にラリアット。鋼で出来ているからか壊れこそしないものの、当たった部位はへこんでしまった。見ればそこらかしこが凸凹だ。キングベアーは初めて見た時は大人しくしていたが、それまでは檻の中で酷く暴れていたのだろう。それらを見たホヅミの足はがくがくと震えが止まらない。


「ニクイ、ニクイ」


キングベアーの視界にホヅミの姿が映る。


「オマエ、ニンゲンカ?」


キングベアーの単純な問いを理解する事が出来ない程ホヅミの頭は恐怖でいっぱいだった。今までは魔物と対峙した時にホヅミの傍にはリリィやエルフのサーラ、シュウがいた。その時の安心感は今は無い。一人なのだから。その上ホヅミの目の前にいる魔物は、日本にもいた危険動物である熊を十数倍もの体躯たいくにした様な怪獣かいじゅうだ。ホヅミはフリーズしていた。


「ええぃ、何をやっている……ん?」


なかなか場面の進展しない硬直状態。それを遠目とおめで見ていたロウシュはごうを煮やして、ある事に気がつくと大声で叫ぶように言い放つ。


「キングベアーよ、聞けぇっ!! 貴様の同胞どうほうを討ったのはその"人と魔物の混血"だ!!」

「はあ!? 何をでたらめいっむぐっ!?」


ロウシュはすぐにリリィの口を手で塞いで言葉を遮った。


「ナンダト? グオオオオオオ!!!!!!!」


キングベアーはますます怒り心頭になった様で近くにいたホヅミの鼓膜が敗れてしまいそうな程の雄叫びを上げる。今世紀最大にしてホヅミの心臓は跳ね上がり、今にも息の根が止まってしまいそうになる。


「オマエ、コロス!!」

「ふぉむぐっっ!! ふむぁえ!!」


キングベアーは動く。ホヅミに向かって突進していく。けれどホヅミは迫る恐怖に、逃げるという思考すら奪われてしまっていた。


「うぉっふぐ………ホヅミん!! 逃げてぇっ!!」


リリィは何とかロウシュの手を振り払って声を上げる。その声を聞いて我に返ったホヅミは寸での所でキングベアーの突進を躱す。しかしキングベアーは方向転換すると再び追撃体勢になる。


「ホヅミん!! 魔法!! 魔法を使って!!」


リリィは自身を拘束している兵士をも振り払ってまた叫ぶ。それを聞いて瞬時にホヅミの脳裏に浮かんだのは最も使用回数の多い魔法だった。


下位風魔法ブリーズ!」


ホヅミの体は魔法によって生まれた風によって大きく吹き飛ばされる。それを確認したリリィはチャンスと思ってロウシュがしたように大きな声でキングベアーに向かって言い放つ。


「キングベアーちゃん!! あなたのお友達をやっつけたのはこのちょび髭ですよ~!!」

「き、貴様! 何を言うか!」

「グオオオオオオ!!!!!」


キングベアーの耳にはまるで入っていない様だった。あまりの怒りにホヅミの事しか見えていないのかもしれない。


「……ふ、ふんっ! ああなってしまったキングベアーには言葉など通じない。残念だったな。これも計画通りだ。キングベアーがあの者に混じる魔物の血に反応して攻撃をしない可能性もしっかりと考慮していたのだ。まあそれも当然。なぜなら私はロウシュ=バーナム。次期大隊長を継ぎ、王直属の近衛兵このえへいとなる男なのだからな。それから私は決して焦ってなどいない。そのようなみっともない無様を晒すわけがあるまいふはは」

「いや棒笑い……足も震えてる」


リリィが冷めた目でロウシュに視線を送る一方、ホヅミは下位風魔法ブリーズによって回避の一手で防戦していた。


「グオオオオオオ!!!!!」

「(斃さなきゃ……リリィが、リリィのお母さんが……)下位風魔法ブリーズ!」


回避を続けていく内にホヅミの平静が少しずつ持ち直されていき、次第に思考にも余裕が生まれ始める。躱してばかりではいけない、とホヅミはキングベアーを斃そうという考えに転じていく。


「(一旦距離を取らなきゃ)下位風魔法ブリーズ!」


ホヅミは端の方へとキングベアーを誘き出す様に回避かいひを繰り返す。


「(よしっ、今だ!)下位風魔法ブリーズ下位風魔法ブリーズ下位風魔法ブリーズ下位風魔法ブリーズ!」


キングベアーを端に置き去りにして、ホヅミは正反対の端へと移動する。十分な距離を取ることに成功したが、急がなければ巨大な体躯のキングベアーならばすぐにでも距離を縮めてしまうだろう。ホヅミは攻撃魔法を思い浮かべた。それはエルフのサーラとの特訓で得た応用魔法。ホヅミは目を閉じて深く呼吸をし、少しでも心を落ち着かせる。右の掌を前に突き出してサーラの言葉を思い出した。


「(下位風魔法ブリーズで生まれた風の渦を掌に凝縮)風の《ブリーズ》……」


この時、ホヅミのイメージにはとある変化が起きていた。サーラとの特訓では小さな風の渦をイメージする事だった。だが今のホヅミはキングベアーを斃したい。斃さなければ大事な人が殺されてしまう。そんな想いがホヅミのイメージを過剰かじょうで過大なものに変えてしまったのだ。通常であれば身のたけに合わず魔法は不発となってしまうだろう。けれど現在ホヅミはリリィの体に入っており、その瞳は紅く輝き始める。


(こ、これは? ……これがリリィの体の力?)

「グオオオオオオ!!!!!」


目を開くと右の掌の前には、自身より一回り大きな大玉状の空気の塊が宙で揺らいでいた。ホヅミは驚くも、キングベアーの雄叫びを聞いてすかさずねらいを定める。


弾丸ショット!!!」


大玉状の空圧は進路の地面を大きく削り取りながらキングベアーに向かっていく。キングベアーは怒りで前が見えていないのかそのまま直進してホヅミの魔法に激突。その巨体は軽々と後ろへ弾かれる様に押しられて、結界を突き破ってあっという間に鋼の壁面に叩きつけられた。空圧によってはりつけ状態にされるキングベアーは苦痛に悲鳴を上げる。空圧は細かく刻む様に、押しつぶすようにじわじわとキングベアーの体を侵食していく。時間が経つと空圧は小さくなり空中で弾けた。はりつけ状態から解放されたキングベアーは地面に二本足で立つ。鋼の壁面に出来た巨大熊型クレーターとその実物が結界から出てきた事に驚く兵士。檻を開けた兵士が慌てて絞輪錠ストレンジオフで押さえ込もうと掌を突き出すが、ロウシュはそれを制す。


「オマエ、ドウホウ、コロシタ」


体から血が吹き出るキングベアーは再び四足で構える。


「ドウホウノ、カタキ」


キングベアーは脇目わきめも振らずに走り出した。体は傷だらけになってしまったのに、先よりも勢いを増してホヅミ目掛けて突き進んでいく。


「え! 嘘でしょ!?」


ホヅミは迎撃げいげきの用意をする。


風の弾丸(ブリーズショット)風の弾丸(ブリーズショット)風の弾丸(ブリーズショット)! 何で当たらないの!?」


次々と魔法を連発するがキングベアーは俊敏しゅんびんに全て躱していく。怪我を負う前よりも、その身のこなしは敏捷びんしょうになっていた。


「コロス、ドウホウノカタキ、コロス」

「(お願い、当たって)風の弾丸(ブリーズショット)風の弾丸(ブリーズショット)!」


一向にホヅミの魔法は当たらず、いつのまにか広場にはホヅミの魔法が通った跡が鮮烈だ。


「これならどうよ! 下位氷魔法ヒュルル!」


ホヅミはリリィの体での魔法の使い方に気づいて、大げさな意識を持って唱えてみる。けれど下位氷魔法ヒュルルに至っては旅館で練習した時に出来てしまっていたらしく、さほど威力の変わらないものだった。応用魔法でもないその氷魔法は、キングベアーの巨体を全て凍りつかせるにはまるで足りなかった


「そんな」


打つ手がない。だけど諦めれば、リリィもマリィも殺されてしまう。何か手を考えなければと、ホヅミは再び回避かいひの一手を取る。


下位風魔法ブリーズ! きゃっ!! がはっっ!!?」


ホヅミは魔力の向上が為された時の下位風魔法ブリーズがどれほどなのか予想しきれていなかった。凄い勢いで鋼の壁面に叩きつけられる。ぐったりと壁にもたれるホヅミは、後頭部を強く打った様で、視界や意識が朦朧もうろうとしていた。


「……ホヅミんを守らなきゃ」


リリィは走り出した。兵士がそれを見て止めに入ろうとするが、それもロウシュは制す。


「放っておけ。あのような虫けら共は、いらん」


ホヅミがキングベアーも斃せないと知ったロウシュは見限りをつけてしまった様で振り返って砦の中へと歩き始める。


「待って!」


それは今まで口を開かずにいたマリィの声だった。それにはロウシュも足を止める。


「今すぐキングベアーを大人しくさせて! 私があの子に魔法を教えるわ!」


魔法講義ちゃん第15弾!!!

今回の魔法なんですが、まあここいらであれの正体はっきりさせたいですね。

というわけで、じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!!


下位結界魔法(オビスミノール)

今回のお話で登場しましたね。登場後即紹介は初めてかな。この結界魔法は下位という事で規模が小さめの魔法なんですね。それから何といっても固有魔法!とても希少価値の高い魔法で、使えたら即採用で一生ただ飯食べられます笑 で肝心の効果なんですけど、魔族や魔物などのその体の形成に魔の力が濃い固体は弾いてしまいます。特に血液。リリィさん緑目バージョンだと血は赤いですけど紅目バージョンだと血は赤紫になります。結界の強度ですが、最低でもAランクの魔物までなら何とか凌ぎきれます。このお話や別のお話で出てきたSランクのキングベアーとかだと結界ぶち破っちゃいそうですね笑 まあそうならないための工夫がこのお話でチラッと出てきてますがね。チラッと。

では、またね!


PS※体を形成する際にどれほどの魔の力が加わったかを示す度合いを"魔体質"と言います。カラナがデスドラゴンの死肉を人間に与えた後に言っていましたね。

魔体質は基準を超えると結界が弾くようになります。魔族からは魔体質が濃いと言えるでしょう。



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