マリィ=パンプキン4
「夜分遅くにすみません。町に入りたいんですけど」
貿易のための大門は締まり切っていた。
「君身分証とかある? こんな真夜中じゃさすがに身分のない者を通す訳にはいかないよ」
ホヅミはリリィをおんぶして、イルミナの門番と話をしていた。門番は二人いて、鎧で身を固めている。槍を抱えて立っている様はいつ誰に攻撃されても対処出来るようにとの心構えを現している様だ。一人は変わらずにじっと直立している。話しかけて来た方は気さくなお兄さんの様に振舞う。
「さっき五つの頭を持った竜が現れたって報告があったからね。もし良かったら屯所の方でなら泊まってくかい?」
少し苦い顔のホヅミ。
「それじゃいけないんです! 町に入れてください! お願いします! 実はシンア村から来たんですけど、私の友達が急患なんです! このイルミナなら腕の良い医者がいるとお聞きして来たんです!」
「ああ、確かにシンア村には医者はいないからなぁ……ふぅ、よし分かった! 通っていいぞ!」
気さくなお兄さんは悩んでいたが、中へと通してくれた。大門の下方についた小さな扉は人が通れるくらいの大きさで、そこを通って中へと入る事になる。
「はぁ、はぁ……待って…………ホヅミんっ」
「リリィ? もうすぐお医者さんだよ。すぐに楽になるからね」
「う……うん……でも…………の前に…………下位魔鎧魔法・微 ごほっごほっごほっ…………これで……いい」
リリィは再び気を失うように眠る。
ホヅミは夜道を歩く人に声をかけた。だがまともな人がなかなか見つからないでいた。というのも、聞けば金を渡したら教えてやるなど、そんなのよりもこの薬が一番効くなどといって怪しげな薬を渡してこようとしてきたりなど、なかなかまともな人間と出会う事が出来ない。
(こうなったら)
トントントン!
ホヅミは適当な家を選んで直接訊ねる事にした。夜中徘徊している者よりは数倍マシな人間が出てきてくれるだろうと期待して。
「はい? 夜中にどちら様? ふぁ〜ぁ」
明かりがついて出てきたのは眼鏡をかけたスキンヘッドの中年男性だった。
「すみません! 医者のいる場所を教えてください!!」
「医者? 医者は私だが…………っ?!」
偶然その人は医者で心の中で歓喜するホヅミ。だが一瞬おかしな様子を見せた様な気がしていた。けれどもうこの際頼めるところは頼むしかないとホヅミは強く思いをぶつける。
「夜分遅くにすみません! どうしても私の友達を! リリィを助けたいんです! どうか! どうか!」
「分かった。すぐに中へ」
「っ!! ありがとうございます!!」
中はやや広く、ソファが正面奥、そして右奥の方にはみっちりと設置されており、直ぐの左にはカウンター台が位置していた。奥の左奥にも部屋が続いておりそこの部屋が主な診察室らしい。ベッドが三台用意してあり、リリィはその内の一つを使用させてもらうことになった。
「まず、この子の名前を聞こうか」
「リリィです。家名は……忘れました」
医者はリリィの首元や顔、手首を触り、聴診器を胸に当てる。
「リリィさん、聞こえますか?」
「…………は……い……」
リリィは苦しそうに返す。
「今から私の言う通りに呼吸をしてください…………吸って…………吐いて…………吸って」
それから一通りリリィの問診が終わると、医者はとある薬剤をシリンジに詰めて、針を取り付けリリィの腕に注射をした。
「んあっ!! あっ!!」
「リリィ!」
リリィは一瞬叫んだかと思うとすぐに静かになり、表情までもが和らいでいく。 あっという間に薬が効いたらしい。何の薬を投与したというのだろうか。
「先生、リリィは?」
「この子は禁忌の魔法使ったかい?」
「え? ……禁忌の魔法?」
聞くからに使ってはいけない魔法の種類だ。
「禁忌の魔法、知らないのも無理はない。使用と同時に使用者を蝕むものなどが存在しているのだから……この子はどんな魔法を使っていたか分かるかい?」
「中位回復魔法という魔法です。それから彼女の固有魔法で、増幅魔法を」
「何だって!?!?」
すると酷く驚いた様に眼鏡の奥の丸く見開いた医者。その声に思わずホヅミまで心臓が跳ねる。
「通りで禁忌の魔法の副作用と似た作用な訳だね…………下手したら彼女は死んでいたかもしれないぞ」
(ですよね……あんな苦しんでたリリィ見た事ないもん)
「上位回復魔法という上位の回復魔法が存在するのだけど、彼女が使ったのはそれに近いほどの回復魔法という事さ。あの魔法は並の使い手ならば命すら奪われてしまうからね」
今でもリリィのあの尋常でない苦しみ方を思い出すに全くもってその通りである事が実感出来るホヅミ。
「でも幸い使ったのが中位回復魔法だった。上位回復魔法は少し性質が違うから。何とか禁忌魔法中毒レベル対応の薬剤が効いてくれたよ…はっはっはっ」
と朗らかに笑い飛ばす医者。恐らく無事に治せる事に落ち着いているのだろう。だがホヅミはそんな気分にはなれない。死んでいたかもしれないという言葉が耳から離れないから。もしゴズと出会わずにいたら、リリィを抱えたままイルミナを目指したとしてもその間でリリィは死んでいた可能性もある。凄まじい運の巡り合わせでリリィの命は助かったということだろう。
「それはさておき……君の名前を窺ってはいなかったね。私はこのイルミナで医師を勤めているカリマ・イエスマンと言う。一応付き添いの者として聞かせてもらえるかな? 君の名前は?」
「私はホヅミ・ミキと言います」
「ホヅミさんね…………一応これも聞いておきたいのだが……もし心当たりがなければただの妄言だったと思って忘れてくれるかい?」
カリマと名乗る医者は限りなく朗らかに接していた。だが次の質問をする直前、冷たい何かが蠢いた様な不気味さをホヅミは感じ取っていた。
「ホヅミさんと、リリィさん。君達は……入れ替わっていたりするかい?」
ホヅミはカリマと長らく話をしていた。カリマから入れ替わりと気づかれて、特に何も隠す必要がなく、むしろ入れ替わりの存在を信じた上でその可能性を疑ったカリマには事情を知って欲しいくらいであった。そもそもなぜカリマが入れ替わりに気づいたのか。
「へぇ、カリマ先生ってリリィの住んでた村で健康診断をなさっていたんですね」
「他にも、臨時講習との事で医療についての知識を学んでもらう授業もした事がありましたね」
カリマは昔にリリィのいたトト村に通っていたのだが、異動の関係で会う事がなくなったのだそう。リリィと呼ばれ、増幅魔法を使用出来る者が全く予想外の容姿をしていて、その予想していた容姿をしている者があたかも別人格で振舞っていたために入れ替わりの想像がついた様だ。
「彼女は子供の頃からその才能を存分に発揮していました。中でも驚いたのは全ての基礎魔法が使用出来ること、そして先ほどホヅミさんが仰った増幅魔法ですね。増幅魔法というのは固有魔法として持っているだけでは使用出来ないんですよ。魔力消費量、魔力還元率、威力、制御、精神質の適合性全てを最良に発揮出来ることが必要で、魔法数式による魔法の仕組みの理解がしっかり伴っていなければまず増幅魔法は発動しません。それを子供の頃から制御の面で難しいと言われる火炎魔法での増幅魔法を行っていたのですから、感嘆の声を漏らす他ありません。更にはあの魔力量ですからねぇ…………嫉妬しちゃいますよ、はっはっはっはっはっ」
(何なのその笑いは!)
と心の中でホヅミはツッコミを入れる。
「私は子供の頃、魔法兵士団に入団したかったんです……ですが魔法がてんで使えなくて、後から慢性的魔力欠乏症という事が分かりましてね」
「何ですかそれ?」
「つまりね、魔力を貯めておけるタンクに穴が空いているんだよ。塞ぐ技術は今も確立されていないんだ。それで私は子供の頃に、魔法がだめなら医療で魔法兵士団の助けになろうと決めて、医者の道を選んだんだ」
そう言うカリマの目は少し寂しげに下を見つめていた。
「誇りを持っていいです!」
「え?」
「カリマ先生は立派です! 立派な魔法兵士団ですよ! 魔法を使う人達にだって医者は必要です。魔法兵士団を魔法兵士団たらしめているのは多方向からの陰の支えがあるからです!」
その発言にカリマは思わず恥ずかしくなって頬をピンク色に染めてしまう。
「ホヅミさんでしたっけ。彼女は……リリィくんはいい友達を持ちました」
嬉しそうに歯を見せて無邪気に笑ってみせるカリマ。ずっとホヅミの言葉を、誰かから待っていたのではないだろうか。医者になってしまえば確かにそれなりの能力が求められる。だがそれは当たり前で、その当たり前の中では誰からも肯定をされる事がなかったのだろう。ホヅミにはそう感じられた。
「そうだ、今日はもう遅いですし泊まっていってください。リリィくんの容態も気になりますし」
「はい! ぜひ甘えさせてください!」
ホヅミは快く返事をした。
「それじゃあホヅミさんはリリィくんの隣のベッドを使ってください。私は少し……資料の整理が残っているのでね。何かあればそこの魔力振動機に魔力を込めてください。音が鳴ります」
ホヅミは軽はずみにそれを握ると
ブーンブーップチ!
「あははは、リリィ起きてないよね? あはは」
初めて見るホヅミにとっては動作確認のために一度試してみたかったというのもあるので問題無しとする事にした。
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
ホヅミはベッドに移動。カリマは診察室の外へと出ていった。
やがてホヅミはだんだんと瞼が降りてきて睡眠の中へと入っていく。
とある夜中、ホヅミは少しだけ目が覚めた。薄ら薄らと半眠半起の中で誰かの話し声が聞こえてきた。この声は昨夜もよく聞いたカリマの声だった。もう一つの声はよく聞き取れない。男の人の声という事ははっきり分かった。
「……空間ま……」
ホヅミに聞き取れたのはその五文字だけだった。次第に眠くなり、再びぐっすりと眠りにつく。
チーーーーーン
お坊「なむあみだ〜ぶ〜なむあみだ〜ぶ〜なむあみだ〜ぶ〜」
チーーーーーン
作者の作者「おや、もしかして魔法講義ちゃんの読者さんかい? すまないねぇ、今日は魔法講義ちゃんは出来ないのよ……いいえ、今日どころか………もう………へぇぇぇぇんんっうっうっうっ!!」
作者の作者の伴侶「読者さんすまない。知っての通り、作者は不幸があってな…………魔法講義ちゃんは……もう出来ないんだ」作者の作者「うぇぇぇぇえええええええんんんん!!!!!」
作者の作者の伴侶「もし良かったら……ここまで愛読してくれた好だ。焼香をあげていってくれ」
チーーーーーン
お坊「なむあみだ〜ぶーなむあみだ〜ぶ〜なむあみだ〜ぶ〜」
チーーーーーン
作者「っっってなるかぁーっ!!!!!!!!!!」





