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追われかぼちゃと勘当姫  作者: 憤怒の灰かぶり
第一章
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ホヅミとリリィ3

ホヅミとリリィは焼き魚を食べ終えると、ひんやりとした岩に寝そべってまた異世界についてお話をした。

誕生日の風習や、異世界ではどの様な食べ物が主流なのか。また電気や水道はなく全て魔法によって日常生活のほとんどが補われている事など。ホヅミは聞けば聞くほど夢に描いていた世界とほとんど同じであることに感動を覚える。

後は空を飛べれば最高、などとホヅミは言うが、空を飛ぶ魔法は風系統の上位魔法で、中でも風魔法の応用が必要らしい。その応用にも、単に風魔法が扱えるだけでなく潜在的な能力が必要だったりするという。


しばらく話していると、空の様子を見たリリィから切り出された。二人は岩から体を起こす。


「そろそろ行かないと、日が暮れちゃう。行こ?」

「うん!」


リリィの先導の元、再び凸凹とした地形をひたすら進む。ホヅミにはさっぱり分からない地形だが、リリィは道を全て覚えている様で迷いなく進んでいく。ホヅミはリリィが一度だけ町に向かった事があると言っていたのを思い出していた。


「一度しか通った事ないのによくこんな道覚えられるよね。リリィって天才?」

「へ? まあね。ボクは塾で一番なんだ」


と言い出してリリィは少し足を止めた。


「どうしたの?」


背を向けたままのリリィの表情は見えない。


「ううん、何でもない」


リリィは塾の仲間たちを思い出していた。懐かしいその思い出と、昨晩の悲劇。二つの感情が入り交じって、何とも言えない表情をしていた。そんな表情を見せまいとリリィは、振り向かずに歩を進める。


「いただきぃっ!!!」


途端、声と共にリリィは頭上に気配を感じる。


「リリィ危ない!」


リリィは迂闊うかつだった。余計な事を考えていたせいで油断をしてしまっていた。頭上を振り向こうとした直後、ホヅミが両手で自身の背中を突き飛ばす。


「きゃっ!!」

「どわっ……ホヅミん!?」


リリィは地面に両手をついて倒れ込む体を支える。そして慌てて体を後ろに反り返らすと、ホヅミは肩を抑えて倒れていた。その肩に滲む赤い血。ホヅミの側では、頭に一つ目の黒い鳥がもぐもぐと口を動かしている。


「何だ? これは。不味い」

「ホヅミん!」


ホヅミは肩の傷の横を強く抑えて泣きながら苦しそうに悶えている。返事をする余裕もないのは見て取れた。


「ダーカート! 貴様良くもホヅミんを!」

「ふんっ、白昼堂々と歩く君らが、あんまりにも美味しそうだったのでな……しかしこいつ、不味い。まさか、まも「黙れっ!!」」


一つ目の黒い鳥の魔物ダーカートの言葉をさえぎる様に、リリィは声を張り上げた。


「ホヅミんをよくも! ダーカート!! 喰らえ! 下位火炎魔法ジェラ!!」


ポッ。


リリィの掌には小さな火炎が現れる。


「何だその弱々しい火は。 まさかジェラごとき下位の魔法でこのダーカートを倒せるとでも思ったか?」

「ふっ、まだだよ。下位火炎魔法ジェラ増幅魔法バイリング!」


再び下位火炎魔法ジェラを唱えると、今度は左手にもう一つ火炎が揺らめく。そして右手と左手の小さな火炎を目の前でぶつけると、それは次第にリリィの両掌で大きく膨れ上がる。


「貴様! まさかそれは!? 人間でその高魔技術を駆使する者など!なぜ貴様のような人間の子供が! なぜ!?」

「知ってる? 小さな魔力でも、磨かれた技術がものを言うって…………ねぇカラスくん。これ、上位魔法並みに威力あるんだよねぇ」


とにこりリリィが含み笑い。下位火炎魔法ジェラの火炎は先程とはうって変わり、通常のカラスの数倍はあるダーカートの体長を優に呑み込んでしまう勢いを持って、いまかいまかと空中で激しく飢えている。そんな下位火炎魔法・倍(ジェラ・バイリング)を前に、ダーカートは恐怖に身を焦がす。


「す、すいませんでしたぁ~!」


ダーカートは慌てて空へと逃げ帰って行った。それを見たリリィは、気配を感じていた辺りを見回す。


「まだ焼かれたい子がいるのかな?」


とリリィが言うと、複数の小さな悲鳴が呼応し、気配は絶たれていく。それを確認したリリィは下位火炎魔法・倍(ジェラ・バイリング)の火炎を一瞬にして消し、すぐさま肩を抑えて苦しむホヅミの元へと駆け寄った。


「ホヅミん! しっかりして! 今治してあげるから」


リリィはホヅミの右肩に両手をかざす。


下位回復魔法ヒール下位回復魔法ヒール増幅魔法バイリング!」


リリィの詠唱と共に、その両手には緑色の光が溢れる。やがてホヅミのえぐれた右肩は、徐々に塞がっていく。


「あれ? 痛くない? ……ありがとう、リリィ」

「どういたしまして。ホヅミんこそ、ありがとう」


リリィはふらつきながら立ち上がろうとするホヅミに手を差し伸べる。


「さっきの魔物、夜行性のはずなんだけどね。最近魔物があちこちで狂暴化してるって聞いてたけど、それが原因かな」


ホヅミは先程負った傷を思い出す。右肩の肉が食いちぎられたのだ。もし日本でそんな事態に出くわしでもしたら、大変なことだろう。けれどこの世界では、それすらもちょっとしたトラブルにしてしまいそうだ。



二人は再びユーナラ町へと向かう。その後幾度か魔物の襲撃があった。だけど一度不意打ちを仕掛けられたことで、リリィの警戒心が強まり、二人共傷を負うことなく無事に先へと足を運んでいく。大きなコモドドラゴン、それに負けず劣らない大きさのネズミや蛇。見たこともない生き物ばかりでホヅミは何度肝を冷やしたことだろう。そしてすごいのはリリィだ。魔物などほとんど相手にならないというように、得意とした火炎の魔法一撃で次々と丸焦げにしていく。中には美味しそうな匂いを漂わすものもいて、リリィに食すことについて聞いてみたが、魔物を食べると人の魔物化の例があるようで、食べるのは止めておいた方が良いらしい。



魔物を撃退しながらのせいか、さすがのリリィにも疲れが見えた。辺りもすっかり夕焼け色。ホヅミも凸凹な林道に慣れてきてはいるが、リリィ以上に疲れが酷い。そして二人はある坂に差し掛かる。ぐいぐいとリリィは坂のいただきまで登ると、そこで立ち止まった。


「見えた!」


リリィは大きく背伸びをし、後からついてくるホヅミを待つ。ホヅミもやっとの思いでリリィの元に寄ると、そこには壮観な草原が広がっていた。草原の中央には大きな町が見える。ようやくゴールが見えて、ホヅミもリリィの真似で大きく背伸びをした。


「あそこがユーナラ町?」

「そう! 長かった! あともうひと踏ん張りだよ! ホヅミん!」


二人は気持ちの良い風を体で感じて、なびく草原の真ん中にどんと構える町を目指して歩く。目的地がだんだんと大きくなって、風に乗った美味しそうな匂いが二人の鼻をくすぐった。


「着いたぁーっ!」


リリィは疲れを忘れて町の入口に向かって駆ける。ホヅミはというと、そんなリリィを追いかける気力も残っておらず、歩いて町の入口に向かう。


「うわぁ〜久しぶりに来たけど、あんまり変わってないなぁ」


キャッキャと騒ぐ様は子供のようで、遠目で見守るホヅミ。


「ホヅミんも早くおいでよぉ!」

「今行くー」


ホヅミは駆け足気味にリリィの元に向かう。草原から石畳の道の境、そこに足を踏み入れようとした瞬間。


「ぶわぁ!?」


ホヅミの体は急に何かに弾かれたように、後ろへと吹き飛ぶ。


「ホヅミん!?」


リリィは慌ててホヅミの元に駆け寄った。


「痛っ……何? 急に」


尻もちをついたホヅミは痛そうに腰を片手で抑える。リリィはふとホヅミの顔を覗いた。するとリリィの表情からはだんだんと生気が抜けていく。


「まさか……そういうこと?」


リリィはホヅミの腕を強く引っ張った。


「痛っ、何? どうしたの急に」

「ホヅミん! ここから急いで離れるの! 早くしないと、殺される!」

「こ、殺される!? 誰に!?」


途端な発言と行動に頭の中に混乱を招いているホヅミ


「いいから早く!」


血相を変えるリリィに従い、何が何だか分からぬままホヅミはリリィに腕を引かれる。二人は何とかユーナラ町から遠ざかった。走り際、後ろの町の方から何やら騒がしい様子が窺えたが、今はリリィについていくことに専念した。



二人は町から遠ざかり再び林の方へと入り込んでいた。


「はぁ、はぁ……いったい、はぁ、どうしたの、急に」


リリィは背を向けたまま口を開かない。夕日は沈みかけ、林の中は怪しく不気味に二人を嘲笑う。しばらく二人は荒い息を繰り返して、それが治まる頃、リリィはホヅミに問いかけた。


「ごめん、ホヅミん。今日は野宿でもいい?」


リリィの提案にホヅミはうなづく。リリィが何を考えていたのか分からない。どうして町に入ろうとした途端見えない何かに弾き飛ばされたりしたのかも分からない。きっとリリィは知っているのだろう。気がかりではあった。しかしホヅミは聞かなかった。それは、リリィが泣いていたから。



二人は薄暗い中、寝床に良さそうな場所を探して、草原に沿って林の中を歩いていた。林の中は夜行性の魔物と出くわす危険性があるとの事だ。草原は夜でも見晴らしがよく、草原沿いは魔物の出現率が低いらしい。寝床に良さそうな平坦な地を見つけると、リリィとホズミは付近に落ちているまきを、協力して集めることにした。湿っていない良質な薪を互いに拾い集めて、一箇所に固める。リリィお得意の火炎魔法で焚き火を始めた。ちょうどその頃には辺りは真っ暗になっていたため、焚き火の灯りが思う存分に一点を照らしていた。二人は岩に並んで体をくっつけて座る。炎に両手をかざして、冷えた体を温めていた。


「ねぇ、リリィの村って、どんな所なの?」


答えてくれないかもしれない。それでも、ホヅミはリリィのことをもっと知りたかった。


「ボクの村は、とってもいい所。みんなやさしくて、綺麗な池もある」


先程まで強ばっていた表情が、少し和らいだ気がした。


「池には魚がいてね、小さい頃に他の子達と釣りをして遊んでたんだ。 そんな折に村長が、池には主がいるって言うの。皆で池の主を釣ろうって……でも結局、誰も釣り上げたことないんだ。今思えば、村長の作り話だったのかなぁ……ふふ」


お話をするその顔は楽しそうで、どこか寂しそうに感じた。


二人は何気ない会話をしてしばらくすると、リリィがどこかからとってきて丸めていた大きな葉っぱを何枚か地面に敷いた。更にもう二枚の大きな葉っぱで二人の毛布代わりに。二人は寝転がる。互いに顔を合わせてくすりと笑うと、目を瞑る。すやすやと眠りにつく二人を他所よそに、焚き火はだんだんとその灯りを弱めていく。ホヅミは完全に眠りについていた。しかし眠ったふりでそれを確認したリリィは、一人起き上がると辺りを回って薪を拾う。そして元の場所に戻り焚き火に薪を追加すると、再びその火の勢いは増して、二人の体を温め続けた。


「いつ魔物が襲って来るかも分からないんだもん。ボクがしっかり見張らないと」


隣でぐっすりと眠るホヅミを見ては、にこり微笑んだ。



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