幕が下りてまた上がる
「『よく来てくれたね』私の所に」
その言葉で俺は理解した。
こいつが田中という名前ではないことを。洗脳されていたことを。
「……心底ムカつくぜ。踊らされてる事に気付くってのはな」
「そうだねえ。最高に愉しかったね。私は。久子ちゃんは愉しくなかった?」
聞こえるように自分が舌打ちするのが分かった。
「久子ちゃんなんて言うんじゃねえ。寒気がする」
「私の創った『物騙り』の世界はどうだった?」
「最悪だな」
マジでそう言うしかない。それは禁忌そのものだから。
「歪んだ物語の世界に他の世界の主人公を閉じ込めるってのはとても悪趣味だと思うぜ。さらに自分を取り戻せた今だからわかるが物語だってのに誰にも読ませる気が最初からないみたいだしな。反省しろ!」
「それは素直に謝罪するよ。なにせ初めてだったからね。次に創るとしたら完璧にしてみせるよ。むしろここまでこの物語を読んだ人には最上級の感謝と敬意を贈らせて貰おうかな」
こいつはまったく反省してねえな……
「では久子。終わらせてくれたまえ。三日間ではなく四日間ループしてる君が黒幕の私を斬ればこの物語は終わるはずさ」
こいつの言葉に従うのは癪だが、こいつを越える力を手にしてねえから従うしかねえ。癪だが。
「んじゃ殺るぜ? 全人類がどこかの物語の主人公なんて考えてみりゃすげえ世界だが、さっさと元の世界に戻ってだらだら遊ばなくちゃならねえからな俺は」
「何もすごい世界じゃないさ。誰しもが主人公なんだよ。物語の中で一番大切な人物にすればね。頑張れば誰しもが主人公になれるのさ」
「ハッ!! 最初から力を持ってる奴の言い分だな。そりゃ!」
主人公になろうとしてなれなかった奴に対する暴言だな。
「認識の違いだね。そこは」
「そうだな。オラッ!」
これ以上話すのは無駄だし話すのもだいぶめんどくさくなったんでサクッとする事にした。
手刀を右手で作って、首と胴体を別れさせた。
剣神と呼ばれる俺には簡単な事だった。
こいつを完全に殺せてねえけどな。
その日、世界は三日間のループを終えて崩壊した。
世界の住人たちはそれぞれの世界に戻っていった。
一部の人間を除いて。