第7話「カウントダウン」
「クソッ、メインフレームへのアクセスが弾かれる……! セキュリティの防壁が物理的な断線でバグを起こしてやがる!」
統制室。俺は総指揮官席から身を乗り出し、自ら超高速タイピングで中央コンソールを叩きつけていた。
画面には無数のエラーログと、真っ赤な『ACCESS DENIED(アクセス拒否)』の文字が冷酷に並ぶ。
管理棟の爆発による凄まじい熱が、地下シェルターの制御システムを完全に狂わせていた。
遠隔ハッキングで回線を繋ぎ直し、システムを安全にシャットダウンさせようと試みたが、ネットワークそのものが物理的に焼き切れている。いくら世界最高峰のハッカー並みの技術を注ぎ込もうと、繋がっていない線は動かせない。
「波瑠様、もう無理です! 遠隔での制御は完全に不可能です!」
アリスカが悲痛な声をあげる。
「地下シェルターの隔壁閉鎖まで、あと7分! それまでに熱を遮断しなければ、メインサーバー内の全データが熱量で物理的に融解、消滅します!」
モニターには、すさまじい勢いで炎を上げる管理棟の映像と、地下へと侵入していく炎様子が映し出されていた。
『波瑠様、現地の防衛班および、避難が遅れていた全職員の地上への退避、完了いたしました!』
インカムからJの報告が入る。
「よし、上出来だ。現地部隊には一歩も地下へ近づかせるな」
俺はシートから立ち上がり、ブレザーを脱ぎ捨てて、床に置いていた特殊ツールボックスを掴んだ。
「は……? 波瑠様、何をなさるおつもりですか?」
その様子を見たアリスカが、目を見開いて硬直する。
「何って、決まっているだろ。遠隔が無理なら、直接行って物理的に直す」
「なっ……!? 馬鹿な、正気ですか! あそこはいつ次の爆発が起きてもおかしくない火の海です!」
彼女が叫ぶ
「そうです! あなたが万が一のことがあれば、我がグループだけでなく、世界経済が崩壊します!」
周りの幹部たちが同調する。
エリート幹部たちが、形相を変えて俺の前に立ち塞がろうとする。18歳の少年の命を心配しているのではない。世界を裏から操る「絶対的支配者」をここで死なせるわけにはいかないという、大人の利害からの必死の制止だ。
俺は彼らを、凍り付くような冷たい一瞥で黙らせた。
「勘違いするな。俺は世界経済のために行くわけじゃない」
頭に浮かぶのは、日本のスタジオの風景。汗をかきながら新曲のサビを熱く語る久、アホっぽく笑う結人、スティックを回す宗介、静かに頷く蒼。
あいつらと鳴らす、あの退屈で愛おしい日常。それが、この東欧のテロごときで木っ端微塵にされるのが、我慢ならないだけだ。
「この会社の最大のオーナーは俺だ。会社の進退は俺が決める」
言い残し、俺は引き留める幹部たちを押し退けて統制室を飛び出した。
*
数分後。俺は装甲車を激走させ、再び黒煙の渦巻くデータセンターへと向かった。
避難してくる職員たちと入れ替わるようにして、防弾・防熱仕様のジャケットのジッパーを顎まで引き上げる。
「波瑠様! なぜここに?!いけません! 中に入れば命の保証は――!」
退避の誘導をしていたJが驚愕の声を上げるが、その制止を無視し、俺は地下へと続く重い防火扉を蹴り開けた。
目の前に広がっていたのは、まさに地獄だった。
管理棟から流れ込んだ炎が、地下通路を真っ赤に染め上げている。激しい熱風が肌を焼き、煙で視界は数センチ先すら見えない。時折、頭上のコンクリートが「バキバキ」と不気味な音を立てて爆裂し、破片が降り注ぐ。
(あいつらの前じゃ、こんな荒事担当の顔は見せられないな)
俺はツールボックスを強く握り直し、不敵な笑みを浮かべた。
普通の高校生なら腰を抜かして逃げ出す火の海の中を、俺はしっかりとした足取りで、メインサーバーへと続く燃え盛る廊下へ、真っ直ぐに突き進んでいった。
第7話をお読みいただきありがとうございます!
まずは大富豪らしくハッキングによる遠隔操作を試みるものの、物理的な破壊には勝てないと悟った波瑠。職員を全員避難させた上で、自分の「日常」を守るためだけに、プロの兵士すら恐れる炎の地獄へ自ら突っ込んでいくという、最高にシビれる展開になりました!
第8話もお楽しみに!




