第4話
私が逆行に気づいてから、あっという間に二週間が経ち。
今、私は二度の人生ではじめてできた同性の友人との時間を堪能していた。
「ふふっ、フィロメネさまはうわさと随分違う人なのですね」
花のような笑みを浮かべる彼女は、ルシィ・モンターニュさま。
モンターニュ伯爵家の次女で、穏やかな性格といるだけで人を癒す雰囲気を持つ女性だ。
中身も見た目も、すべてが可愛らしいルシィさま。私は彼女と交流をはじめて、すぐに彼女の虜になっていた。
……こういうのが、愛される女性なんだろう。
少なくとも一度目の私は、性格の悪さが全面的に出ていたはずだし。
「いえ、私なんてうわさ通りの人間ですよ。お世辞にもいい性格とは言えませんから」
実際、性格と行いのせいで一度殺されています――なんてことは、口が裂けても言えない。
心優しいルシィさまに余計な心配をかけたくないもの。
「そうでしょうか?」
「そうですよ」
どちらともなくカップを持って、紅茶に口をつける。
この沈黙さえ心地よくて、私の心は感動で打ち震えていた。
「フィロメネさまがご自分をどう評価しているのかはわかりませんが、少なくとも私はフィロメネさまを好ましく思っておりますわ」
まぶしい笑みを浮かべたルシィさまを見ていると、心が浄化されていくみたいだ。
今までの私の行いがいかに愚かだったのかを、容赦なく突き付けてくる。……自業自得だから、彼女を責める権利はない。
「評価していただけることは、とても嬉しいです。ありがとうございます」
お茶菓子として用意されたケーキを口に運ぶ。
甘さ控えめのチーズケーキは焼き加減が絶妙で、いくらでも食べられそう。
私がモンターニュ伯爵邸を訪れるのは二度目。一度目のときはフルーツたっぷりのタルトを出してもらったのだけど、あれはあれでとてもよかった。サクサクのタルト生地と中のカスタードクリーム、さらに新鮮なフルーツたちが調和し、ほっぺたが落ちそうなくらい美味しかったのは記憶に新しい。
「フィロメネさまはとても美味しそうに食べてくれるので、パティシエたちも喜んでいましたわ」
「……だって、本当に美味しいですから」
ちょっと恥ずかしくて、目を逸らした。
貴族令嬢が食事にがっつくのは、一般的には不作法とされている。
食い意地が張った女性だと思われるし、体型管理に支障が出てしまうから。
……まぁ、そのせいで倒れてしまったら元も子もないのだけど。
「プライドや意地ではお腹は膨れませんし、生きていけませんから」
フォークを置いて、つぶやく。
「それに、食事を残すのって作ってくれた人たちに失礼だと思うのです」
作ってくれた人たちとは、調理をした人だけではなく、食材を用意してくれた人たちのことも指す。
「食事にありつけるだけ幸せなことですから」
これは本音。
実家が貧乏だから、食べるものに困ることもそれなりにあった。
食事のありがたみはそこら辺の貴族よりもよく知っている。
「そうですね」
ルシィさまは穏やかに微笑んでいた。
「貴族全員が、そういう思考ならよいのですが……」
モンターニュ伯爵領の名産品は小麦。ゆえにルシィさまは幼少のころから食事の大切さやありがたみ、食材を得ることの大変さを教え込まれてきたそうだ。
そのため、料理を残し、あろうことか廃棄する貴族たちには腹が立って仕方がないと。
「貴族は選ばれた者だと思っているみたいですが、そうではありません。領民たちがいてこそ、貴族は生きていけるのです」
「ルシィさま」
「そして、領民たちになにかがあったらすべてを捨ててでも助ける。それが貴族の役割だと」
人の上に立つ者としての務めだと彼女は言う。
それはきっと、私のお父さまやお母さまの思考と同じもの。
領地を救うために財産を売り払い、借金をした両親を、元から誇らしいと思っていた。
けど、ルシィさまの言葉を聞くと、今まで以上に両親のことが誇らしくなる。
同時に、私もなにかしたいって気持ちも、膨らんでいく。
「――などと言っても、響かない人にはまったく響きませんわ。この間のことがいい例です」
ルシィさまの示す『この間のこと』とはたぶん、私とルシィさまが親しくなるきっかけのことだろう。
あれは今から十日前。逆行後の私がはじめてパーティーに参加したときのことだ。




