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鑑定眼の社畜、今日もブラック魔王軍でなんとかがんばります!  作者: 鳶丸


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第028話 社畜、倒れてヴェラとドルドは考える


 ぐらりと倒れるハルトの身体を支えるヴェラ。

 

「ハルト!」


「ヴェラと言ったか。その男はそのまま寝かせてやるといい」


 アヴィタが慌てるヴェラに言う。

 

「……どういうことでしょう? ハルトになにかしたのですか?」


 すぅと目を細めるヴェラだ。

 背から翼を出し、バチバチと周囲の空間が歪むほどの魔力を放出する。

 

「なにもしておらんよ。と言うよりも、だ。ここまでかなり無茶をさせていたようじゃな。魂魄と肉体が未だになじんでおらん。そのような状態で無理をさせれば死んでしまうぞ」


 その言葉に毒気を抜かれたヴェラだ。

 翼を戻して、魔力も霧散させる。

 

「失礼しました。わたくし、カッとなっていました」


「仕方あるまいて。ヴェラは従者なのだろう?」


 アヴィタの言葉に頷くヴェラだ。

 

「ドルド、天幕を用意してやってくれ」


「……わかった。祖母さま」


 ドルドはあっけにとられていたのだ。

 いや、それだけではない。

 

 ヴェラの魔力に萎縮していた。

 ただの魔人族にだせる力ではない。

 それだけの力があったのだから。

 

「しばらくはゆっくりしていくといい。どうせハルトは目を覚まさん」


「……なぜでしょう?」


「ララゼヴィンクからは何も聞いておらんのか? まったくあの小娘はいつも説明を省く」


 あなたの血を引いているからでしょう。

 そんなことを思うヴェラだ。

 初対面で色々と見抜いてきたのだから。

 

「霊地サハルーサがなぜ霊地と呼ばれているのか。それはの、ここは魔力が濃いからじゃよ。ハルトは……その影響もあって眠っておる。なに、心配はせずともいい」


「……確かに魔力が濃いというのは理解できますわ」


「ならばけっこう。そうそう、炎晶石の魔力じゃがこちらでやっておこう。なに、この霊地にある火山の火口に置いておけば数日で修復されるだろうからな。ちょうどいい」


「お願いしてもよろしいですか?」


「かまわん、かまわん。こちらから言っておることだからの」


 かっかっかと笑うアヴィタであった。

 そこへドルドが声をかけてくる。

 

「ヴェラ、あちらの天幕は自由に使ってくれてかまわない」


「ありがとうございます。とりあえずハルトを寝かせてきますわ」


「ああ、そうしてやってくれ」


 鷹揚に頷くドルドであった。

 

 ヴェラがハルトを抱えて天幕の中へと入る。

 その様子を見て、ドルドが口を開いた。

 

「祖母さま、ハルトが神使ってのは本当か?」


「ああ――古き神も無茶をしたもんじゃよ」


 アヴィタの言葉を受けて、ドルドは少し考えこむ。

 なにがどう無茶なのか。


「ああ、いやそういうことか。ハルトはニンゲンだが、新しき神からの加護を得ていない」


 結論に達して、腑に落ちたという表情になるドルドだ。

 アヴィタはその様子を見て、微笑んでいる。


「そうじゃな。あれは実に不安定になっておる。しばらくはここに居させた方がいいの。だが――炎晶石も早く持って帰ると言うじゃろうし」


「ああ、祖母さま。それならオレが行こう。炎晶石をララゼヴィンクのところに持っていけばいいのだろう?」


「うむ。それがいいかもしれんの」

 

「ヴェラと相談だな」


「うむ。さて、しばらく寝る。また皆が帰ってきたら起こしておくれ」


 そう言って、アヴィタも天幕の中に姿を消した。

 

 一人残ったドルドは、ふぅと息を吐く。

 思っていたよりも大変なことになっている。


 古き神と新しき神の争い。

 ニンゲンと魔族の争い。

 

 そこへ関係のないニンゲンが巻きこまれている。

 いや、正確にはニンゲンとは呼べないかもしれないが。

 

 ハルトはいい奴だと思う。

 ほんの少し一緒にいただけだ。

 

 だが、居心地がいいと思った。

 一緒に居て楽しいと思えたのである。

 

 そんなニンゲンは初めてだった。

 

「さて、どうしたものか」


 ドルドは飛んだ。

 ぐるぐるとまとまらない頭の中。

 それを整理するのには、なにも考えずに飛ぶのだ。

 

 子どもの頃からのクセであった。

 

 ――ヴェラはハルトの顔を見て思う。

 無茶をさせすぎ、という言葉が刺さっていたのだ。

 

 確かにそうかもしれない。

 超高速飛行による移動は、ハルトにとって大変だったはずだ。

 着陸した後は、かならず吐いていた。

 

 少し調子に乗りすぎていたかもしれない。

 ハルトのことは気遣っていたつもりだった。

 

 しかし、ヴェラの考え以上に、ハルトの身体は脆かったのだ。

 

 ――魂魄と肉体がなじんでいない。

 ――揺らいでいる。

 

 アヴィタの言葉を反芻するヴェラ。

 確かに、そうかもしれない。

 

 だから、この仕事が終われば休みを取ろうと思っていたのだ。

 ただそんなことを言っている場合ではない。

 

 ヴェラの使命はハルトの命を守ることも含まれるのだから。

 

「まったく……わたくしはバカでしたわ」


 すっとハルトの頭をなでる。

 

「ごめんなさいね、ハルト……」


 そういって小さく息を吐いた。

 アヴィタの言では、しばらくハルトは目を覚まさない。

 なら、その間はしっかり見ておこう。

 

 そして――もう少しハルトについて知らなければ。

 思っていた以上にニンゲンと魔族は……。

 

 いや、ハルトとヴェラはちがうのだ。

 だからもっと話をしよう。

 

 そう考えるヴェラであった。


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