天狗山
今日もまた同じ夢を見た。
「日向くん、早く」
「葵ちゃん、待って」
日向が葵を追いかける。
そして、いつものように葵が泣き出す。
「ねぇ、どうして…」
「葵ちゃん、何?」
何度も同じ夢を見て、毎回同じ場面で目が覚める。
ただ、今日は一つだけいつもと違うことがあった。
天狗山―
葵が言ったのかどうかはわからない。
しかしなぜかこの言葉がハッキリと記憶に残っている。
天狗山って何だ?
この辺りにそんな山などないし、聞いたこともない。
日向はベッドから起き上がると、煙草に火をつけた。
天狗山…
頭の中で繰り返す。
だが、いくら考えてもわからない。
まぁいい。
気にしないでおこう。
日向は煙草の火を消すと、シャワーを浴びた。
日向はシャワーを浴びながら、再び天狗山という言葉を思い起こしていた。
いくら違うことを考えようとしても、なぜか天狗山という言葉が頭から離れない。
天狗山っていったい何だ…
呪文のように何度も繰り返す。
ダメだ。わからない。
何なんだ、いったい…
イライラを打ち消すように、強く目を閉じて頭からシャワーを浴びた。
のんびりしている時間はない。
仕事だ。
日向は急いでシャワーを済ませると、部屋のテレビをつけた。
いつもの情報番組にチャンネルを合わせると、見慣れたCMが流れていた。
パソコンやスマホなど、誰でもインターネットを使うということが当たり前のようになっていることもあるのだろう。最近のCMは、最後に「検索」と案内されるものが多い。
検索…?
そうだ。ネットだ。
日向は髪も乾かさずにパソコンの電源を入れた。
パソコンが立ち上がる時間がいつもより長く感じる。
まだか。
首に掛けたバスタオルで濡れた髪を拭く。
よし。立ち上がった。
天狗山…検索。
あった。
小樽、長野…?
いくつかヒットしたが、この町からは遠すぎてどれもピンとこない。
他にあるのか?
画面をスクロールする。
しかし、出てくるのは遠くの観光地と思われるところばかりだ。
葵の夢とは関係ないのか。
日向はテレビの時計を見た。
ヤバい、仕事に行く時間だ。
スッキリしないまま日向はパソコンの電源を切った。
急いで髪を乾かし、着替える。
部屋の電気を消すときに、何気なくカレンダーに目をやった。
4月17日―
今日は葵が消えた日だ。