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ひなた  作者: zaku
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6/25

電話

 日向は高校を卒業すると、父の大学時代からの親友が経営する小さな会社に就職した。

 子供の頃からよく知っている、気のいいおじさんだ。

 高校三年の冬、特にやりたいこともなく、就職先も決まらないままだった日向に、「ウチに来い」と声をかけてくれた。

 きっと父も頭を下げてくれたのだろう。


 田中と秋吉は同期入社だ。

 いくら同期とはいえ、人見知りの日向にとっては、二人との距離を縮めることは簡単ではなかった。

 地元も違うし、そもそも話す機会がほとんどなかった。

 だが、いつからだろう。きっかけすらよく覚えてないが、いつの間にか仲良くなり、今ではかけがえのない親友となった。

 田中は配送、秋吉は受注、日向は経理と担当は違うが、今の関係を築くにはそれがかえってよかったのかもしれない。

 入社以来、喧嘩らしい喧嘩もしたことがないし、飲みに行くのもいつも一緒だ。


 日向は、就職すると同時に一人暮らしも始めた。

 とはいっても、実家から電車で20分程度の同じ市内だ。

 仕事が終わると、日向は近所のスーパーに立ち寄る。

 夕飯の買い物をするためだ。

 安月給の一人暮らしの身では、いつも外食というわけにはいかない。

 そもそも、一人で外食するのは苦手だ。

 レパートリーは少ないが、料理自体は嫌いではないし、何より食費を抑えることができる。

 安い鶏肉とキャベツともやしを買った。

 もちろんビールも。

 家に帰ると、早速夕飯の準備を始めた。

 鶏肉とキャベツを適当に切ってフライパンに火を入れる。

 フライパンに油を流し、火加減を調整していると、ケータイの振動が部屋のテーブルを鳴らした。

 フライパンの火を消し、部屋に戻る。

 ケータイには知らない番号。

 誰だ?

 わざと二、三度鳴らしてから出る。

 「もしもし…?」

 日向は声のトーンを少し抑えた。

 「あの…私、覚えてますか?」

 聞き覚えのない若い女性の声だ。

 「いえ…あの…」

 「神崎さん…ですよね?」

 ちょっと甘えたような舌足らずな喋り方。

 「えっと…どちらさまですか?」

 「先週の土曜日、一緒に飲んだんですけど…覚えてますか?」

 日向の質問には答えないまま、電話の向こうで勝手に話は進む。

 どういうことだ?

 先週の土曜日といえば、田中と秋吉と三人で飲んだ日だ。

 「たぶん違うと思うんですけど…」

 「三人と三人、六人だったんですけど…」

 そんなはずはない。

 何かの間違いだ。

 「あの…どこで飲みました?」

 「RIZEですけど…」

 「ライズ…?」

 日向は眉間にシワを寄せた。

 「駅前の通りのビルの一階にある…」

 あぁ、あそこか。

 外観だけ見るとちょっと高そうな感じのするバーだ。日向たちがいつも通っている店ではないし、日向自身行ったことはない。

 この人はいったい何を言ってるんだ。

 日向が黙っていると、沈黙を嫌うようにその女性が口を開いた。

 「えっと、確か黒いスーツ、着てましたよね?」

 日向は確信した。

 間違いない。人違いだ。

 日向の会社は上着だけユニフォームがあるため、会社でそれに着替えさえすれば服装は自由だ。

 会社にスーツを着て行くことはないし、その日もジーンズだった。

 「すみません。人違いだと思いますよ」

 日向は自信を持って答えた。

 「そうですか…ごめんなさい…」

 残念そうな声の主は、少し間をおいて電話を切った。

 何なんだよ、いったい。

 日向はケータイをテーブルの上に置いた。

 キッチンに戻って、再びフライパンに火を入れる。

 ちょっと待てよ。

 なんで俺の番号知ってるんだ?

 それに名前も…

 意味がわからない。

 誰かのいたずらだろうか?

 そうだ。

 そうに違いない。

 何一つ納得できる理由は見つからなかったが、日向は無理やりそう思うしかなかった。


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