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ひなた  作者: zaku
12/25

赤いTシャツ

 6月中旬の日曜日。

 梅雨真っただ中だというのに、今年はあまり雨が降らない。

 昨日も、そして今日も空は青く晴れ渡っている。

 もう梅雨明けでもしたかのように、町も人も少しずつ夏の装いを見せ始めていた。

 天気のいい休日は、こんな小さな町でもさすがに人が多い。

 日向は人込みを避けるように、駅前にある本屋にいた。

 特に欲しい本があるわけではない。

 要はヒマ潰しだ。

 日向は音楽雑誌を手に取った。

 国内外の有名なロックバンドを扱った雑誌だ。

 今年の春、田中に誘われていつもの三人でライブに行った。

 そのライブにはいくつかのバンドが出ていたのだが、中でも、日向は「Deep Red」というバンドにハマった。

 三人組のそのバンドは、女性ボーカルでありながら力強く、シンプルで重厚な音を奏でていた。

 歌詞はすべて英語で、最初は海外のバンドかと思ったほどだ。

 日向の目には、それらすべてがとてもカッコよく映った。

 「DR」の文字がデザインされた、バンドのロゴが入ったTシャツも買った。

 これといった趣味もなく、音楽にもそれほど興味のなかった日向にとって、そのライブはとても新鮮で、そして刺激的だった。


 「こんにちは」

 背後からの声に思わず振り返る。

 えっ?

 桜井ひなただ。

 「あ、昨日はどうも…」

 日向は慌てて雑誌を閉じた。

 昨日はほとんど喋れなかったこともあって、なんだか気まずい。

 それにしてもどうしてここに?

 「お買い物ですか?」

 「あ、いや、別に…」

 「そうなんだ」

 桜井ひなたは、ジーンズにスニーカー、それに赤いTシャツを着ていた。

 Tシャツの袖を二回ほど折り曲げている。

 そして、髪を後ろに束ねたその姿は、昨日の淡いブルーのワンピースとはだいぶ印象が違う。

 「あの、もしよかったら、つき合ってもらえませんか?」

 えっ…?

 日向はうろたえた。

 「ひなた、行きたいところがあるんです」

 あぁ、何だ。そういうことか…

 日向は急に恥ずかしくなった。

 「ダメですか?」

 「あ、いや…大丈夫ですよ」

 「よかった」

 無邪気に笑う桜井ひなたの横顔に、日向はなぜだか葵の面影を重ね合わせていた。

 「行きましょ」

 そう言って前を歩く桜井ひなたの背中を見て、日向はハッとした。

 赤いTシャツの背中には「DR」のバックプリント。

 それは、日向が持っているものと全く同じもので、あの日の朝、部屋で見たものだった。

 桜井ひなたが歩きながら振り返る。

 「お腹空きませんか?」

 そういえばもうそんな時間か。

 日向はケータイを見た。

 午後1時を過ぎている。

 「空きましたね」

 「じゃあ、ご飯にしましょう」

 桜井ひなたのペースに戸惑いながらも、日向はどこか懐かしさを感じていた。


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