大丈夫
二人は近くのハンバーガーショップに入った。
やはりこの時間は結構混んでいる。
「俺が並ぶから、先に空いてる席を探しといてください」
桜井ひなたの希望を聞くと、日向は注文カウンターの列に並んだ。
日向は、4月に起こった二つの不可解な出来事を思い出していた。
日向の部屋にいた赤いTシャツの女性、そしていたずらと思われる電話。
赤いTシャツの女性は、夢か日向が寝ぼけていたと思うしかない。
でも、あの電話は事実だ。
それに、あの声は…
「店内でお召し上がりですか?」
店員の声にハッとする。
「あ、はい…」
「ご注文をどうぞ」
「えっと…」
二人分のお金を払うと、トレイにハンバーガーとポテトを二つずつ、コーラとオレンジジュースを乗せて桜井ひなたを探す。
どこだ?
日向は立ち止って店内を見渡す。
いた。
赤いTシャツが手を振っている。
ゆっくり歩いてそこまで行くと、そっとトレイをテーブルに置いた。
「えっと…」
桜井ひなたがバッグから財布を取り出す。
「ここは大丈夫ですよ」
日向は手で制するように言った。
「あ、でも…」
「大丈夫」
日向は二度頷いた。
「それより、お腹空いたでしょ?」
日向はハンバーガーを差し出した。
「ありがとうございます」
桜井ひなたは嬉しそうに笑った。
「神崎さんは何にしたんですか?」
「ハンバーガー」
「一緒だ」
昨日はまったく上手く喋れなかったのに、今日は不思議と自然に会話ができる。
昨日は意識しすぎていたのか。
それとも桜井ひなたが喋りやすい雰囲気を作ってくれているのか。
「そのTシャツって…」
「あ、これですか?」
桜井ひなたは、Tシャツの両肩の部分をつまんで少し持ち上げて見せた。
「これ、今年の春にライブがあったんですけど、行けなくて。でも、どうしてもTシャツが欲しくてネットで買っちゃいました」
そうだったのか。
「それ、俺も同じの持ってますよ」
「え?ライブ行ったんですか?」
「えぇ、まぁ…」
「えー?いいなぁ」
桜井ひなたは少し頬を膨らませると、「お揃いですね」と笑顔を見せた。
店を出ると、桜井ひなたは駅前の商店街の中を駅とは反対の方向へ歩きだした。
ところで、行きたいところとはどこなんだろう。
日向は桜井ひなたの後ろ姿を見ながら何度か聞こうと思ったが、なんだか悪いような気がして、なかなか聞けずにいた。
商店街を抜けると、桜井ひなたは立ち止まって振り返った。
「行きたかったのはここです」
それは、駅の近くにある公園だった。
中央付近に小さな噴水があって、ベンチがいくつかある程度の、丸い形をした小さな公園だ。
ちょっとした休憩や、のんびりと時間を過ごすにはちょうどいい。
冬になるとイルミネーションが綺麗なところだが、今の季節は、特に見どころはないように思えた。
公園の入り口近くまで歩いたところで、再び立ち止まる。
どうした?
日向が近づくと、桜井ひなたは前方を指さした。
「あれ…」
指の先には…
カラス?
餌になるようなものでもあるのだろうか。
地面をつついている。
「こわい…」
桜井ひなたは、日向の背中に隠れるように言った。
日向はカラスに少し近づくと、足で地面を鳴らした。
バサバサと音を立ててカラスは飛び立った。
「もう大丈夫ですよ」
桜井ひなたは駆け寄ってきて、日向の腕にしがみついた。
日向は驚いて桜井ひなたを見た。
「あ、ごめんなさい…」
桜井ひなたは、慌てて手を離した。
そして、恥ずかしそうに下を向いた。




