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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第四章 姫様の一日
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今日一日

この章はほとんどレナ・ルクセルが視点になると思っていてください。



 夢の中で綺麗な曲を聞いていると、突然引かれる感覚を覚えながら目を覚ました。


「おはようございます。午前7時10分過ぎですよ?」

「嘘でしょう!?」

「嘘です」

「…………ってリクさん!? どうしてわたくしの家にいま――」


 上半身を起こし、目の前にあったリクの顔を除けながら起き上る。

 すると、自分の家にはないようなソファやテーブルがある事に気がついて、ここはキリの家だと言う事に気がつく。

 脚で立ち、カーテンを開ける。空は明るくなっているが、まだ日が昇っていなかった。それから時計を見るとまだ5時であった。

 リクが言った時間よりも2時間以上も前だった。


「それにしても……どうしてわたくしは仙ちゃんの家にいますの?」

「わかりませんか? 昨日貴方達があまりにも話しを脱線させるので私がピリッとくるぐらいの雷を与えたのですよ? そうしたらあなた達全員気絶してしまって……」


 なんだかリクの口調がおかしいような気がする。

 そういえばリクは意識を失っていて、姫様が体を動かしているのだった。とてもお強い方で、わたくしが到底敵いそうもない力を持っている。

 そこまで考えたら昨日の夜に起こった事が何となく思いだしてきた。そして姫様が言った言葉もどういう事がわかり始めた。

 視線を下に向けると、そこには新体転換魔法で女になっているキリと、カメラと手帳を持っているアキが死んでいるように寝ていた。

 そして、わたくしも死んでいるように寝ていたんだなと考えると、気絶する前に来た強烈な痺れを思いだした。


「ピリッとはしませんでしたわ……。完全に体が動かなくなりましたもの……」

「そうですか? これからはもう少し力を押さえた方がいいですね……」


 しかし、どうしてこの姫様はリクの体を動かしているのだろう?

 一晩たったのにいまだにリクの意識が回復しないとは考えにくいだろう。

 そして、右手にはみた事がない石を持っていて、眺めていた。


「それは、なんですの?」

「この石の事ですか? これは守護石と言って、持ち主が命の危機になった時にこの石から守護十二剣士が出て来て持ち主を守ってくれるのです」


 持ち主とは姫様の事だろうか?

 そう思っていると、「返さなければいけませんね」と言い、アキの来ている制服の胸ポケットへと入れた。

 つまり、持ち主はアキということだが、彼女はいつこんな石を貰ったと言うのか。


「まぁこの石は他の意味もありますけど」

「はぁ……」


 他の意味といわれてもわからない。

 わたくしは曖昧な返事だけをして、自分がどこにカバンを置いたのか探す。すると意外と近くにあったのでわたくしはそのカバンを取り、スマホを取り出す。

 画面を開くと、そこには着信メールが何件もあり、電話も入っていた。

 家に帰ったらタダでは済まなさそうだ。


「それは、なんなのですか?」


 初めてスマホを見るようにして――実際に初めてなのだろう――わたくしを見てきた。


「これはスマートホンと言って、簡単に言えば遠くの人と会話できる通信機のような物ですわ」

「そんな薄い物が通信機なんですか?」


 信じられないと言った様子の姫様に少し笑ってしまう。まさか過去から来た人のような反応を見れるとは思わなかったのだ。


「あと、これは写真も撮る事が出来ますわ。……持ちます?」

「わぁ。ありがとうございます。……すごいですね。今ではこんな物が作られているのですか……」


 スマートホンをいろんな角度から見始める姫様。

 なんと言うか、姫様の外見はリクなので、どうしても少し笑ってしまう。

 すると、何か思いついたのか、リクの表情が生き生きとしながらわたくしを見てくる。


「今日一日、私がこの子の変わりをして生活してもよろしいでしょうか?」

「え? それはどういうことですの?」


 さすがに簡単に頷く事が出来なかった。


「この子には迷惑かも知れませんが、私は今、この時代の背景を見てみたいのです。特にここの国の事を」


 迷惑にもほどがあるのではないだろうか?

 今日は学校がある。それでいて午後ではチームの連係プレーを強化するべく練習するのだ。リク本人が起きていなくては意味が無いではないか。

 すると、むくりと起き上がる二つの影。


「く……。頭、イテェ……」

「ど、同意だよ……」


 頭を押さえながら二人とも起き上がり、辺りを見回す。

 キリの方は自分の家だからいいとして、アキはたくさんのハテナを浮かべていた。

 どういう状況かわからないのだろう。これでまた騒がれてはよくないので、昨日の夜の事を思い出させる。


「仙ちゃん、アキさん。昨日の夜の事はわかりますわね?」

「あ、あぁ……何とか……」

「す、スクープだけど……さすがに私は命が欲しいから言わないよ……」


 一体それぞれ何を思い出したのか。特にアキの方。二人とも気分が完全に沈んでいた。


「あら? ルナさんはどうしたんですの?」


 そういえば、と神様を探し始める。リビングを見回してもいない。一体どこ行ったのかと思う。

 すると、意外にもルナの声がキッチンの方から聞こえてきた。


「なんじゃ? 妾はこっちぞ。朝食を作っておるからそっちに行けんのじゃ」


 よくよく耳を澄ますと何かを焼く音が聞こえてくる。

 鼻を使って匂いを嗅いでみると、いい匂いがキッチンの方からしてくる。お腹の虫が鳴りそうだ。

 それはキリとアキのお腹も刺激したようで――ぐぅ。


「ま、まぁ朝食食べてないから仕方ないよね?」

「まったくだ」


 わたくしは鳴らさなかったが、二人が鳴らした。

 それに姫様がくすくすとまた笑っている。


「そういえば、ルナさんは料理を作れるんですの?」

「大丈夫なんだろ? 厨房に立つってことはよ」

「精霊が料理を作るなんて聞いた事ないよ……これはスクープだよね?」


 確かに精霊が料理を作ることなんて聞いた事ないが、今ここに精霊なんていない。

 ルナは神様だからどちらかというと神霊だと言っていた。


「それより、さすがにそろそろ戻してくんねぇかな?」


 キリが姫様に向かって言うと、姫様は手をポンッと叩いていた。


「あ。忘れていました」

「忘れんなよ!」

「もういっそ女の子のままでいません?」

「嫌だっつぅの!」


 それは最悪の選択だ。もし男の体が死ぬ寸前だと言っても回復する程度の時間を開ければ回復する事が出来るのだ。


「仕方ありません……。〈新体転換〉」


 残念そうな顔をしながら姫様がキリへと魔力を流し込む。

 キリの体は光に包まれていき、しだいに胸とくびれとお尻が平坦になっていき、元に戻る事が出来た。光が納まると、そこには男子制服を着ている男の姿が見えた。

 キリは元の体に戻る事が出来たのだ。瞳も紫から黒に戻ったし、髪も短くなった。

 少しつまらないと思ってしまったが、まぁいいだろう。

 すると、キッチンの奥からルナが顔を出した。その手にはお盆。その上に茶碗やら何やらがのっかっていた。

 みんなお腹が減っていたのか、席にそれぞれつく。


「ねぇねぇ。私まだよくわからないんだけど……とりあえず、なんか話してくれない? まだチンプンカンプンなんだけど……」


 アキが席につきながらそう言う。それも仕方ないと思われる。

 ジーダス攻略戦やマナとは一度も関わっていないのだ。

 神様や悪魔の事を知らないのだから理解する事が出来るはずもない。


「わかりました。それでは、朝食を食べながらでも、貴女にはいろんな事を知って貰いますよ? 守護石を持つということはそういうことなのですから」


 守護石という単語がわからないのか、アキが首を傾げる。

 ルナも席につき、みんなで「いただきます」と言ってから食べ始めた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問の待ってます。

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