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元令嬢と男娼のゆるやかな日々  作者: 雨傘 はる


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1/4

日常

よろしくお願いします。


ずうっと慕うその人に、どうしても伝えたいことがあったのです。


『 幸せになって 』


わたしの隣ではない場所で、わたしじゃない人と一緒に。







ハティの夜は長い。

人々が仕事を終え、帰路に着く時間帯からが仕事の始まり。

地味な男装姿で待機するのは、花街の一角。娼館の受付だ。


「おはよう、ハティ。今日も頼んだよ」


「店主様、よろしくお願いします」


平民にしては珍しく、ハティは読み書き計算ができる。

働かせてほしいと訪ねた折、店主の計らいで帳簿などの経理や雑務を担う補佐役を任された。


娼婦として働くつもりだったが、ここは男娼が働く娼館だったことを後で知った。

もちろん望んで身を売りたいわけではなかったので、今の待遇に非常に感謝している。


娼婦より賃金は低めで住み込みでもないが、身元の引受はしてもらえたので、細々とだが生活できていた。

花街の外に家を借りながら、店主に似て気のいい兄さん方と一緒に働いて、ハティはようやく呼吸というものを思い出せた。


「ハティ、お下がりはいるかい?」


「おはようございます、兄さん。有難く頂戴します」


「もし小物ができたら、またおくれよ」


「はい」


優しい兄さん方は、不要になった衣装や端切れを融通してくれる。

サイズを直して着たり、こまごまとした小物に作り替えたりするうち、ハティの作る物を気に入ってくれたようだ。


薬入れでも繕おうと思いつつ、色気を振りまきながら去っていく背中に頭を下げた。


夜の帳が完全に降りる頃、腹が膨れて懐のあたたかい客たちが、ガヤガヤと出入りし始める。

受付した順に案内役を配置し、前払いの会計を行い、帳簿をつけ、片付けの手配をし…と、補佐のハティは息をつく暇もなく動き続けた。


時折り厄介事が起これば、店主や用心棒のところへ走り、必要ならば警邏隊の元へも駆ける。

ここはトラブルありきの場所だ。お陰で、ずいぶん肝が据わったと思う。


「ハティ、警邏隊!」


「はい!」


酔っ払いを抑え込みながらの用心棒の声に、ハティは真っ暗な道を迷うことなく走り抜けた。




日が昇るまで仕事をしたハティは、燦々と太陽の光を浴びながらのんびり歩いて帰宅する。

古びた集合住居の一室、古く狭いが一人で暮らすには充分な広さ。


湯は娼館で借りてきたので、着替えたら適当にパンを水で流し込んで、簡易的に区切った寝室で布団に包まる。

夕方には、また仕事だ。兄さん方にもらったサシェの香りに癒されながら目を閉じると、あっという間に眠りに就いた。


ハティの日常は、あたたかくも賑々しく、ちょっと刺激的なのだ。




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