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1 (逃亡中の魔法使い)

新作連載です。

なので一話一話の文字数が少なめです。


この作品は前に書き留めていたものです。

七話から新たに書き加えていきます。

なので、不定期更新です。


三話くらいまで順次本日公開します。

「お客さん、本当にここでいいのかい?」

 田舎道を走る乗り合い馬車の馭者(ぎょしゃ)が怪訝そうに私に尋ねる。


「そうだ。こちらに行けばさらに田舎なんだろう?」

 俺は荷物を馬車から下ろし、馭者に教えてもらった森の右手に続く小道を指さした。


「ド田舎だ。この辺りは馬車を捕まえるのも大変だぞ」

 親切な馭者だ。

 俺が別れの挨拶として軽く手を振ると、乗り合い馬車は元の道へと戻っていた。


 俺は教えてもらった通り、馬車が一台通れるほどの荒れた道に向かった。

 道の先はこの大陸の辺境と言われているド田舎の小さな国がある。


 本当に小さな国だ。

 昔職場で聞いた話によると、国王と王妃が大臣職を兼任しているそうだ。


 その話を大先輩から聞いたとき、同僚と俺は思いっきり笑い飛ばした。

 そんな少人数で国が回るわけがない。


「うっ」

 職場を思い出したせいで胃痛が。キリリと痛む胃をおさえる。


 俺の生まれた国はこの大陸で大国と言われる国。

 運よく魔法を使えた俺は、国でエリートと呼ばれる宮廷魔法使いとして働いていた。


 世界は魔力に満ち溢れている。

 その魔力を体内に取り込んで魔法に変換できるものが魔法使いだ。


 俺は勘違いしていたのだ。魔法使いの仕事が研究や国防だけだと。


 宮廷には魑魅魍魎が蠢き(うごめき)、熾烈に派閥争いをする。俺はそれに巻き込まれた。


 権力争いから逃れようとひたすら研究に打ち込んだ。その研究成果のせいで地位が上がると、更に権力闘争に巻き込まれやすくなっていった。


 ストレスから常に胃痛が治まらなくなり、胃薬を手放せなくなった頃。


「魔法には呪術というものがあるらしいね?君は優秀な魔法使いだ。できるよね?」


 とある大貴族にそう囁かれたことがトリガーとなり、俺は辞表を上司に叩きつけた。


 引き留める上司から逃げるように、国を飛び出した。


 人の悪意が恐ろしかった。

 仲良く談笑をしている傍らに、じわじわと毒をその相手に仕込む。


 人を信じられなくなりそうだった。いや、すでに信じられないのかもしれない。


 貴族や王族に関わりたくない。

 人がいないところで、ひっそりと生きていたい。

 こうして辺境の小国へと逃れてきた。




 あまり整理されていない道を黙々と歩く。

 小国といえど、唯一の他国との交易道。(わだち)の跡は一応ある。

 道がデコボコだから馬車は走りづらいだろうな。


 移住のため荷物のカバンは大きめなので、それを引きずって悪路を歩く。なかなか体力を使う。

 事前に聞いた話では国境までこの道で15キロ程歩くらしい。

 しばらく頑張って歩いたが疲れた。


 『人だけ探知(サーチ)

 周りに完全に人気がないことを魔法で確認する。

 普通に探知魔法を使うと森なので動物や獣がひっかかりまくる。だから人だけに絞る。


 『浮遊』

 ふわりと私と荷物を3メートルほど上に浮かせる。

 さらに風魔法を追加して低空飛行で森を移動していく。


 人の気配も探知でアラームをセットしておく。

 俺が力のある魔法使いであることを隠しておきたいからだ。


 隠すなら魔法を使わなければいい。

 だけど人間は楽を覚えるとわざわざ苦労したくなくなる。見つからなければいいだけだ。


 俺は魔法を使って一気に距離を稼ぐ。

 

 しばらく魔法で楽をして進んでいると、探知魔法のアラームが鳴る。

 やっと人と遭遇するようだ。

 魔法を解除し、カバンを引きずりながら歩く。


 ……ん?あれか?遭遇第一号の村人は。


 道の真ん中に寝転んでいる幼女がいた。幼女のそばには小型のポニーがちょこんと座っている。

 幼女は爆睡しているらしく、すぴーすぴーと寝息まで聞こえてくる。


 田舎とは聞いていたが、本当にのんき過ぎる。

 寝るにしても、なぜ道の真ん中で?


 お、ポニーが俺に気が付いた。

 ポニーが幼女の顔に鼻先を押し付けて何度も揺らす。


「ん…ん?ポコ?おやしゅみ……」

 幼女はポニーを見てへにゃりと笑い、ぱたりとまた寝に入った。


 よくよく見るとござが敷かれ、傍らには弁当箱が転がっている。

 完全にピクニックだな。これは。


 しかし通行の邪魔だ。

 狭い道だから、道の中央で寝ている幼女に当たらず迂回するのは難しい。

 

 どうにかならないかとじっと見つめていると、ポニーが俺を見てプルプルと頭を振る。


 違うんです、普段はいい子なんですよ?ダメな子じゃないんです。

 必死に小型のポニーが弁解する。

 

 俺はポニーになんと返していいか分からないため、無言で見守る。

 ポニーの言葉がなんとなくわかるのは、俺が身に着けている魔道具のせいだ。


 俺がいた大国の宝物庫に魔道具『翻訳の指輪』というものがあった。といっても壊れていて、全く動作しないものだった。


 俺はその魔道具の魔法陣を解読し、自分なりに術式を改良したものを、中指にはめている。


 辺境では共通語でない国や、なまりがひどく言葉が通じない国もあるらしい。


 そのサポートのために指につけていたのだが、俺の改造により人の言葉だけではなく、動物と念話が通じるものになってしまったようだ。


 ポニーはなんとか幼女を起こすべく、幼女の顔を必死になめまくる。


 「ん?ん?ポコ、やーなのです!」

 幼女はポニーから顔をそむけると、上半身を起こして逃げる。


 まだどいてくれないのか?

 俺の催促にポニーは少し考えたあと、大きく鳴いた。ようやく幼女は私に気が付く。


 びくりと体を震わせ、寝乱れた髪をいそいそと直し、幼女は立ち上がった。


 キラキラと輝く腰まで伸びた金髪に、大きな翡翠のような瞳の美幼女だ。肌は健康的な小麦色。服装は着古した茶色のチュニックにズボン姿。力強い瞳からは強い生命力を感じた。


 幼女はない胸を張り、びっしと俺を指さした。

「見たことない人なのです。ここから先はミリアです。何しに来たですか?」

「移住希望者だ」


 問いに即答すると幼女はぽかんとした顔で呆けた。


 すみません、この子は難しい言葉はわからないです。ポニーがふるふると頭を振りながらそう伝えてくる。

 

「移住とはな、住むところを移動することだ。

 つまり俺はこの国に家を持ちたいのだ。わかるか?」


「わかってたのです!イリス知らなくないです!」

 仕方なく説明したのだが、幼女は顔を真っ赤にしてなにやら怒っているようだ。


 幼女の扱いは難しい。そもそも小さな子どもあまり接したことはないからな。

 貴族の子息子女は、もう少し大きくなってからでないと宮廷には入れなかったしな。


 

「イリスいろいろ知ってるのです。たまに外から来る人、悪いことした人多いのです。

 おじさんは悪い人ですか?」


 ああ、辺境だと犯罪者が逃げ込むこともあるのか。なるほど。


 しかし、私が本当の犯罪者だったらどうするのだ。危ないだろうが。

 

「おじさんではない。お兄さんだ。それに悪い人ではなく普通の人だ」


 俺は懐から身分証明の木簡をとりだし、幼女に見せた。


 木簡の裏書は大国の要人である知り合いが書いてくれている。十分な身元保証人だ。


 問題はこの身元保証人を、幼女が知ってるとは思えない。だが他に自分の身を保証できるものがないからな……。


「この国知ってるのです。大きな国なのです。でもこの人知らないのです」


 やはり知らないか。でも文字が読めるのか。


 辺境の村の子どもなら文字は読めないはず。だが幼女は普通に文字が読めた。ある程度の教育を受けているようだが、敬語がダメダメだな。なんでも[です]をつければいいわけじゃないぞ。


「知らないのか。まぁそうだろうな。それだと身元保証が難しいな……。って何してるんだ?」


 幼女は俺に近づくと、クンクンと俺の体の匂いを嗅ぎまわる。


 できるだけ身ぎれいにしたつもりだが、長旅で風呂には入っていない。逃げることを優先したからな。


 ポニーにさっと視線を向ける。

 止めてくれないか?

 そうか、無理か。

 

「ん。大丈夫なのです。悪い人でないのです」

 両腕で大きくまるを作る幼女。


 動物的だな。匂いでなにが分かるんだ?

 まぁいい。


「それはよかった」

「ようこそミリアへ。おっさんを歓迎するのです」

 幼女はにっこりと眩しい笑顔で歓迎してくれた。

 だから、だれがおっさんだ。






 歩けど歩けど森が続く。

 ポニーにまたがった幼女に案内されながら、しばらく森を歩いた。もうじき夕方になる。

 幼女と出会ったのは昼前くらいだったから、かれこれ4時間以上は歩いていることになる。


 国境に大きな駐屯地がない国は、だいたい国境の近くに最初の村がある。

 国境を警備する兵が寝泊まりするための場所が必要だからだ。

 

 この国は国境に一兵もいないので、世間の常識とは別なんだろうな……。他国から攻め込まれることを想定していないのか?犯罪者も入りたい放題だ。


 非常識なのはとりあえず、置いておく。問題なのは一番近い村か町にいつ辿り着けるかだ。


 こっそりと探知の魔法を使い、人がいる方向は確認している。

 先導している幼女が向かっている方向に反応がある。

 ただ距離が遠すぎてどのくらいかかるのかが、魔法では全くわからない。


 正直怪しい幼女と早々に別れたいが、初めての土地の道案内要員を手放すのは惜しい。

 わからないなら聞くだけだ。


「森はいつ出るのかな?」

「もう少しなのです」


「一番近い村か町までは?」

「森を出たらすぐに王都なのです」


「王都?国境からすぐに王都だって?」

 驚いた。国境に兵もおらず、道中にも砦もなにもない。一気に王都まで攻め込まれるではないか。

 この国の防衛はどうなっているんだ?


「おっさん、今日はイリスんちに泊まるのです?」

「いや、宿屋に泊まる」


「ないのです、宿屋」

「え?!王都って言ってたよな?」

「王都なのです」


 そんな馬鹿な……。宿屋のない王都なんてあるのか?

 ちょっとした町ですら普通は宿屋あるぞ。


「見ればわかるのです」


 森から出た少し先のひらけた場所に向かって、幼女はポニーを軽く走らせた。

 その後にカバンを引きずって小走りでついていく。


 ひらけた場所は小高い丘だったらしく、眼下に小さな城が見えた。


「……ド田舎の村じゃないか。これが王都?」

 思わずそう呟いてしまうほど、そこは町ですらなかった。


 ぽつぽつと民家があるくらいで、城の周辺にはどこまでも続く畑と大きな牧場があるくらいだ。


 これは、宿屋はないな。それどころか商店すらないのでは?と思わせる町並みだった。


 どうみても他国の辺境の村と変わらない。

 これが王都か……。本当に大丈夫か、この国。


「王都なのです!」

「え?あ、うん。わかった」

 ちょっと涙目の幼女が可哀想になって思わず頷いた。


「とりあえずどこかの土地にテントを建てていいかな?獣は出没するか?」

 一応野宿セットも荷物に詰め込んである。

 魔法を使えば野宿でもそれなりに快適に過ごすことができる。


「獣は滅多にでないのです。でもどうしてイリスんちに来ないのです?」


 なんか面倒そうだから。

 不満そうな顔をする幼女から視線を外して、野営する場所を探す。


 日が落ちてきて、王都が夕焼けに包まれる。暗くなってから場所探しはきつい。


 夕焼けの中、城からカーンカーンと鐘の音が鳴り始めた。


 それは夕方を告げる鐘の音だと思っていた。

 幼女がその鐘の音を聞いて飛び上がるまでは。


「「「「姫さまーーーーーーーーーー!!!」」」」

 城からわらわらと数人が馬に乗って飛び出てくると、バラバラに走り回りながら叫ぶ。


 人馬だけじゃなく、なぜか鶏と牛も出てきた。

 そのうち一人がこちらを見上げ、何かに気が付いたように指さして叫ぶ。


「何、あれ?」

「ちょっとだけ遅刻しただけなのです。イリス頑張って案内したのです」


 不貞腐れた幼女の声にかぶるようにブモーと牛の鳴き声が上がる。

 大きな牛を先頭に馬にのった男女と、鶏がすごい勢いでこちらに向かってくる。


 普通人を探すなら犬じゃ……。あ、犬もいるわ。牛より遅いけど。


「案内ありがとうな、じゃあ!」

「逃げるなです!」

 すぐにポニーに回り込まれる。大荷物を持った私が不利だ。


 身体強化の魔法をかけ、逆方向に逃げようとするが、巨大な牛に回り込まれる。

 なんなの、この牛。すごく顔怖いんだけど。


「ジョセフィーヌ、よくやったのです!」

 幼女は私の行く手を遮った牛の頭を撫でて労う。


「姫さま、夕食前までには必ず戻るとの約束でしたよね?」

 背筋がピンと伸びた中年の男が馬から降り、すっと幼女の前に進み出る。


「わかってるのです。でもあいつ歩くの遅かったのです」

 ちらりと私を見て文句を言う幼女。

 それは仕方ない。荷物が重いからな。


「誰です?」

 きらりとよく磨かれた眼鏡の縁をすいっとつまんで、男が幼女に尋ねる。


「えっと、驚くのです。い?い…移住者です。お家を建てに来たのです」

「……それはびっくりですね」


 ざわっと幼女、いや王女を取り囲んでいた人々が騒いだ。

 いらない注目が私に集まる。逃げ道がない。

 くっ!胃が痛い。


「大丈夫ですか?胃ですか?あとでよく効く薬を差し上げます」

 私は結局城に連行された。

 なお、もらった胃薬の効き目は本当によかった。



投稿前に読み直していても誤記が多い。

誤記が多い私の作品を読んでくださりありがとうございます。

感想、評価、ブックマークよろしくお願いします。

作者のモチベーションが上がります。


特にいつも応援してくださる方々。ありがとうございます。「とある幼児の生活」でブックマークされている方の読んでいる作品は私もよく読むものばかりでした。やっぱり趣味が同じなんですね。


この作品も同じような雰囲気の作品になると思いますので、よろしくお願いします。


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