↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/377

全てを奪った男に頭を下げねばならない

抱かれたあとの寝台で、ユウは端に身を寄せていた。


静かに、涙を流していた。


隣では、あの男のいびきが不快に響いている。


少しでも遠ざかりたくて、掛布の端を握りしめる。


身体は痛み、どれほど拭っても、あの感触が消えなかった。


――私の身体は、汚れてしまった。


母は、この男のもとに下ることを拒み、

爆破した城の中で、自ら命を絶った。


美しく、賢く、毅然としていた母。


金色の髪と青い瞳に、揺るぎない意志を宿していた。


容姿も性格も――母譲りだと言われてきた。


隣で寝ている男――キヨは、母が幼い頃から執着していたと聞く。


やがて叶わぬ想いが狂気へと変わっていった。


ユウは目を閉じ、誓った。


――二度と、この男に心を渡さない。


そして――すべてが始まった日のことを思い出す。


◇


――あれは、四年前の春。


十四歳で、両親を殺した男の庇護に置かれたとき――。


妹たちを連れて、私は馬車でロク城へ向かった。


「姉上、あそこがこれから暮らす城ですか?」

馬車の中で、一つ年下の妹ウイが問いかけてくる。


馬車の窓から、ロク城の姿が現れた。


広大なロク湖のほとりに立つその城は、湖面に浮かぶ要塞のようだった。


切り立つ石垣が水面に影を落とし、外界から隔てられた孤立を思わせる。


城の腹には水門があり、陸路は一本の橋に限られていた。


「そうよ。あの城で暮らすの」

ユウの視線は真っ直ぐにロク城を捉えていた。


ウイの隣に座る末の妹レイは、静かに頷いた。


「知らないところに行くのは……怖いわ」

ウイはドレスの裾を握りしめ、声を震わせる。


「……もう母上は……いない」

レイの呟きに、車内の空気が沈んだ。


私たちは三人姉妹――長女の私、次女のウイ、四つ下のレイ。


昨日、母を失い、今日から新たな居城で暮らさねばならない。


けれど私は、妹たちの前で涙を見せるわけにはいかなかった。


落城寸前、母は最後に私の手を握り、二つの約束を託した。


一つは、「セン家とモザ家の血を繋ぐこと」

それは両親の悲願でもあった。


血を繋ぐ――子を産み、血筋を残すということ。


もう一つは、「妹たちを守ること」

その日から私は、母の代わりに妹たちの母となる。



父も、母も、兄も、祖父母もーー大事な人をすべて、あの男に奪われた。


そしてその男に、これから頭を下げて生きていかねばならない。


馬車が揺れる。


隣でウイとレイが裾を握りしめるのが視界に入る。


――もう二度と、この子たちに悲しい思いをさせない。


唇を噛み締めて、心に刻む。


あの城にはあの男の妻――妃がいる。


いったいどんな女性なのだろう。


あの男と結婚しているのだから、きっと相当強かなはずだ。


妃だけではない。


あの男には数多くの妾がいると聞く。


――気持ち悪い。


けれど、その妻――妃に、私はこれから会わねばならない。


ユウは思わず拳を握りしめた。

爪が手のひらに食い込み、胸の奥から嫌悪がこみ上げる。


その瞬間、馬車の揺れがふっと止まった。

城に到着したのだ。


城門に到着すると、ワスト領の重臣サムが「ようこそ」と頭を下げ、

黒い瞳の家臣イーライが馬車の扉を開けた。


「どうぞ」


妹たちは怯えて降りようとしない。


「私が先におります」

そう告げて、ユウは差し伸べられたイーライの手を取った。


湖風に金の髪を揺らしながら地面に降り立つ。


イーライの視線が、ほんの一瞬ユウの横顔に釘づけになる。

次の瞬間には慌てて逸らし、咳払いをした。


ユウはそれに気づかず、毅然と前を見据えていた。


――その城で、すべてが始まった。


あの夜、私は決めた。


この男を、必ず――壊す。


そのためなら、私は何でもする。


次回ーー本日の20時20分


亡き母のために造られた部屋。

そこに通された娘が、初めて“妃”と相まみえる――。


次回「母のために造られた部屋に閉じ込められる」

初日は3話更新(9:20/12:20/20:20)


◇登場人物メモ(第2話時点)◇

※物語の進行に合わせて更新していきます。


・ユウ → 長女。母の遺志を継ぎ、妹たちを守る決意を胸にロク城へ向かう。

・ウイ →次女。姉を慕う素直な少女。

・レイ →末の妹。幼くして現実を受け止めようとする静かな子。

・キヨ →セン家を滅ぼした王。母を愛し、娘を妾とした男。

・サム → ワスト領の重臣。かつてユウの母に仕えていた家臣。今もその誠実さを失っていない。

・イーライ →若い家臣。ユウに複雑な視線を向ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。