須木奈篇 ソードマンとガンスリンガーガール〜弐〜
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1645年。
オランダの商船で長崎の出島から入国した僕は、強力な商人の伝手を頼って熊本藩に入った。
むせかえるような虫達の鳴き声、闇夜を照らす月。
ある山の西麓にある洞窟。
切り立った絶壁に大口を開けたような洞内には、馬頭観世音菩薩が奉られている。
ここに老人がひとり。
文机を前に書をしたためていた。
木蝋の灯りに照らされたその顔。
まず目につくのが眼力の強さだろう。
人のものとは思えない、対峙しただけで死を予感させる捕食者のそれだ。
また骨太の骨格から推察される体躯は肉が削げて尚、圧倒的。
その膂力で、幾多の肉や骨を引き裂いて来たのか。
そして傍らには大小が二本。
「驚いたな。気配がない」
老人が振り向く。
鉄仮面を被った僕は膝下ブーツに皮のズボン、黒のプールポワンを着ている。
得物はない。
……君はもうすぐ死ぬのか。
「無礼者ッ殺すゾ、名乗れ」
……ヒューゴ。トランシルバニアの生まれだ。
「南蛮人か……何用か」
……国で一番の剣士に剣術を教わりに来た。
「ヒャッヒャッヒャ! 貴様はすでに恐ろしく強いではないか」
……敵がいる。それは人ではなく、強大な力の持ち主だが倒したい。
「鬼の類か。ま、貴様を見なければ信じ難い話であったが。どうだ……わしにそいつは斬れるか」
……無理だ。
「ふん、はっきり言いよる。ブレイモノ」
次の瞬間。
老人の殺気が洞内からはち切れんばかりに膨らんだ。
それは一気に山の麓まで達し、驚いた鳥達が一斉に飛び立つ。
バサバサバサーーーーーッ。
「それではわしにお前は斬れるか」
……無意味だ。
「それはわしが決める」
老人が立ち上がるとその両手には抜き身の二刀が握られていて。
不思議な事にさっきまでの凄まじい気は消え失せ、いつの間にか刀の間合いになっている。
……少し驚いた。斬られたな。
「貴様は強いが只それだけよ。目の運び、体捌き、気の流れ、すべて整っておらん。わしにそれだけの力があればな、貴様より百倍は強いわ!」
……素晴らしい。それ位に強くなりたい。
「その鉄仮面は弱点を隠す為のモノか。貴様……首から上は随分と脆弱だな」
……答えられない。
「ふん、まぁ良い。つまらん」
文机に座り直す老人。
もうこちらに目をやる事もない。
「で、見返りは何だ」
……数百年を生きる力。
「いらん! 戦いはもう直終わる」
老人は暫し無言だったが、それは自身の書いた書を推し量っているかのようにも見えた。
「ただし剣術は教えてやろう」
……ありがたい。
「この剣を兵法書などではなく、数百年後の世界に残してみたくなった」
何やら楽しくなってしまった様子の老人。
「よし、今から廓に参ろうぞ鬼!」
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
思わず唾、飲んじゃった。
よく出来た妄想話だなと思う。
つか、面白くてドキドキした!
臨場感あるっていうか、廓って何? て感じだけど。
佐部さんがムッチャ喋ってくれて嬉しい。
ここからデイケアの話に繋げれたら奇跡だけど私。
「えと、細川の女中って……」
「細川公の世話になってた。そこの女中が君」
「あ、似てるってコト。じゃあ佐部さんのお世話してたんだ私のそっくりさん」
「うん」
おやおや。
「なら馴染みってコトで私に話してくださいよ〜。何でデイケア行きたくないんですかァ」
「今日は朝テンション上がって。昼に少しオチた」
「あー、気分いいと浮き沈みあるみたいですね」
うんうん。
「じゃあ明日は落ち着いてデイケア行けそう?」
「うん」
心の中でガッツポーズする私。
ミッション・コンプリート!
それではまた…