須木奈篇 ソードマンとガンスリンガーガール〜壱〜
毎日21時更新します…
昼の十一時。
遅番職員の勤務開始だ。
ほっぺたは早・遅番の二勤務制、夜勤無しの八時〜二十時でシフトが回ってる。
業務は早番職員の申し送りからスタート。
サービス管理責任白木千尋様。
まだ三十ちょいなのに現場の責任者で。
お綺麗で。
正しい。
この人が遅番だと申し送りは緊張感に溢れてスリリングになる。
「佐部さんはデイケア行きましたか」
「はい。立て直せたみたいです」
朝の彼の様子を思い出だす私。
『今朝は気分がいい』
凄惨な事故現場を見下ろしながらの首切りポーズ。
サイコパスってヤツなのかな……
「それじゃ瀬見さん。あとで個別支援計画書に署名もらっておいてください」
「あ、はい。わかりました」
小柄だけど胸はある。
空色ポロシャツの上からでもしっかり主張してくる。
貧乳でダイナマイトヒップの私とは標準装備が違う。
大卒で頭もキレて魅力的な独身。
この仕事でなくても、とは思うけど。
ピロピロピロピロピロ……
事務所の電話が鳴る。
職員がロビーに居てもわかる様にデカい音設定。
「はい、ほっぺた瀬見です」
白木さんと先輩方(鈴木、田中)が耳を澄ます。
「はい……あ、はい。わかりました、お疲れ様です」
無言の『何かあった?』がトリプルでキタ。
「佐部さんなんですけど……昼食前にデイケアから居なくなったそうです」
◆
「初日からさぼりですかー」
何故だかわかんないけど。
佐部さんは噴水広場に居ると知ってたから。
ストレートでここに来た。
「……名前」
「私? 瀬見ですよッ。担当なのに覚えてくれてないんだー」
彼は噴水の手前、何かが擦れた跡のあるタイル上に佇んでた。
今朝方の運転手が指差してた場所だな。
まるで余韻を楽しんでるかのよう。
「昔の事……よく覚えてる。君は細川の女中さん」
「女中じゃなくて世話人ですゥ」
彼が私を見ていた。
その緋色の視線に思わずたじろぐ。
「その…………ほら、デイケア。行きたくないんですか」
「うん」
「どして」
「…………」
うつ向いた。
質問ばっかで嫌がられたかな。
「午後から……休む?」
「うん」
何か今、少しだけ通じ合えた気がした。
お乳出たかも。
出ないか。
◆
「利用者さんの言う事を聞くだけではダメ」
白木さんのパンチが飛んで来た。
意気揚々と事務所に帰って報告する素人をプロの連打が襲う。
「何故行けないのかを聞き取りして、その問題点が改善される方向で考えて」
強烈なワン・ツーを食らってKO寸前の私。
止めの一撃が。
「面談してください」
◆
『何話していいのかわからんんん』
今回のミッションは〝デイケアに行きたくない理由を把握し、解決策を考えよ〟だ。
この面談でそこまで自力で辿り着けないと……
白木さんにまた凹られる。
「瀬見」
「な、何です?」
不意をつかれた。
二階の空部屋にテーブルとイスを置いて佐部さんと二人きり。
「ここは落ち着く」
「良かった。イヤホンしてないですもんね」
持てる限りの知識を総動員して恐る恐る分析。
「さっき頓服飲んだ。細川の話だけど」
「あー、私が女中ってヤツですか……」
最初雑談から入って本題に繋ぐプラン、採用決定。
話しやすいように目線は切っておこう。
彼をストレスフリーにする為。
何より私がどぎまぎしない為にね。
「是非聞かせてもらいましょう!」
すると佐部さんは。
私の想像の遥か斜め上を行く、驚愕の妄想話を展開し始めた。
ぼひゅぅぅぅぅ…………
エアコンの送風音だけが鳴り響く。
それではまた…




