蒼介篇 野バラ〜壱〜
毎日21時更新します…
東京では梅雨が明けたのが七月末。
その後は台風も多く、各地で土砂災害や川の氾濫など大きな被害が出た。
いろいろと、慌ただしく過ごしている内に十二月。
〝師匠〟は普段外で会う機会が多くなっているから今日は久々にほっぺたを訪問する事にした。
一階ロビーには大きなクリスマスツリー。
テーブルにはモデルみたいな女子と瀬見さんが並んで座っている。
「メリクリー、瀬見さん。元気してた?」
「退院おめでとう沢渡さん」
「うん……」
キレイにシカト決められた。
「昨日は寝れましたか」
瀬見さんの声掛けに首を振る美人さん。
「そう。明日からデイケアだけど行けそうですか」
「わかんない」
「OKです。一個ずつ戻していきましょか。マイペースで大丈夫」
「はい……」
「何してる」
いつの間にか佐部さんが横に立ってる。
「ウス、師匠。彼女も入居者さんですか?」
「うん。九カ月ぶりに退院した」
そんなに入院するんだ、と少し驚くオレ。
それまで目を合わせないようにしていた瀬見さんが、少しだけ彼女を見る。
「今日ってファッション雑誌の発売日じゃない?」
「え? あ、そだね……」
「一緒にコンビニ買いに行かない?」
初めて彼女が瀬見さんの方を見た。
「うん、……行く」
このやり取りを佐部さんは見守っていた。
少し驚く。
他人には全く興味を持たない人なのに。
美人さんと下駄箱で靴を履き替える時、初めて瀬見さんが声を掛けてきてくれた。
「青田さんサングラス。止めたんですか?」
「ハイ。もうお日様に慣れたんで」
「あ、佐部さん。今週ASSHOLEでクリスマス会やるみたいなんで。楽しみにしてて下さいね」
「わかった」
二人が出て行った後、変わりにテーブルに着く佐部さんとオレ。
「さっき北海道から連絡ありました。すべての準備が整ったので儀式は新月の午後、つまり明日行われます」
「そうか」
「明日早朝に迎えに来ます。羽田から北海道の空港まではプライベートジェット飛ばしますんで、昼には着いてますよ」
「うん」
相変わらずのスウェット&パーカーのコンビ。
でも、オレは半年前に比べると明らかに変わった。
自分で言うのも何だけど。
「師匠。ホントにオレでいいんですか」
この半年間、聞きたくて聞けなかった。
「あ……その〝映し〟の相手」
「うん」
「あー、えと。映しでウチらは代々始祖を継承して来ましたけど。世界最強の鬼の力の継承者がオレでいいのかと」
「いいよ」
「ですよね……」
その為に半年間稽古つけてもらった。
もう一度。
「師匠が学んだ世界中の武術や戦術を叩き込んで頂きました…………何でオレだったんです?」
「お前でいい」
あぁこれは答えてくれないパターンだ、と思いつつ。
ふと、彼が少し疲れている事に気付く。
「具合、悪いんですか?」
「今まで取り込んだデータを見直してた」
「え? 膨大な量になるんじゃ……」
「僕との関わりのシーンだけ」
五百五十年間に渡って戦い続けた。
同族殺しと呼ばれた男の記録。
「ラストのハラキリ丸まで。ヤツらが最後に見たのは、どれも返り血を浴びた僕だった」
何て答えればいいか、わからない。
でもこの孤独な力を引き継ぐ覚悟は、ある。
やってみたい事が出来たから。
「……あ! あと、今のうちに挨拶しときたい人とか」
「ない」
「マリアは」
「いい」
「施設の人は」
「いい」
「瀬見さんは」
ここで珍しく少し考える師匠。
「……いい」
それではまた…




