須木奈篇 病み男と鼻血女〜肆〜
毎日21時更新します…
「あーと、落ち着きましたですか。佐部さん」
イヤお前が落ち着けよ私。
日本語変になってるし。
「今日は天気良くて。そんな寒くないですね」
「…………」
ノーリアクションじゃん。
相変わらず目も合わせてくんない。
焦るわね。
「ひ日差し! 大丈夫ですか」
「……長く生きてると…………人間に近くなる……」
「あ、吸血鬼ネタ」
ヤバ。口がすべった。
「僕……人の真似が上手」
正直、私のスキルだと対応が難しい。
妄想を誘発してしまった……
もう、何が何だかわかんないよぉぉ!
「……グループホームって…………戦闘禁止?」
「へ?」
「バンパイアは好戦的で……縄張り意識が強い。相手のテリトリーに入ったら即戦闘…………」
何でそう思ったのか不思議だけど。
私にはその時、佐部さんが介入の道筋を示してくれた気がした。
こういう時は『妄想は否定せず、必要な促しはする』だっけか。
「ヤンキーじゃないんだから、ダメですよケンカ。バンパイアはともかく……暴力行為は禁止です絶対!」
「うん………わかった」
上手いコトいった?
彼は外の景色から目線外さないけど。
落ち着いてる感じ。
よし、大丈夫そうだ。
「今朝は気分がいい……」
さっきから何見てんのかな。
コソ〜と近寄って覗き見してみる。
眼下には、ほっぺた前を通る四車線の国道。
「あ」
遠くからサイレンの音が重なり合って近づいて来る。
普段聞くそれらより明らかに多い。
見る見るうちにパトカーや救急車が集まって来た。
ほっぺた東側の交差点、信号を渡った遊歩道にある古い噴水広場に人だかりが出来始めてる。
ほっぺたでは周辺で事件等が起こった場合、入居者さんが巻き込まれないように職員が状況確認する。
私が到着した時には鈴木パイセンが既に現場検証を済ませてました。
ベテランの仕事は早い。
「瀬見くん。交通事故のようだ」
「亡くなったんですか?」
「即死。大型車に飛び込んだらしい」
自殺かぁ。
とりあえず通り魔とかでなくて良かった。
良かないけど。
道路には事故車と思われるダンプカーが停められてて。
左のバンパー付近がメチャクチャだ。
人撥ねたらこんな風になるのかぁ。
下には一面のブルーシート。
噴水前。
運転手とおぼしきオジサンが警官数人相手に足でばんばんタイルを踏みながら
「この辺からすっ飛んで来たんだって!」
道路までを何度も指差す。
そこからだと7〜8メートルの距離があるし、道路にはガードパイプも設置されてるけど。
「頭が……こう、もげた状態で飛んできたんだよーッ」
ふと、ほっぺた物干し場に目をやる私。
佐部さんが無表情で首切りポーズを決めてた。
「鼻血、気合いで止まったのかな瀬見くん」
「へ?」
鈴木さんに言われて。
スマホのミラーアプリで素早くチェック。
うわ、舐められたみたいにキレイになってる!
マイ・アンダー・ザ・ノーズ。
それではまた…