蒼介篇 決戦〜肆〜
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ホテルGT正面玄関の左手には川がある。
そこに架かっている長さ二十メートル、幅四メートルの太鼓橋。
ここがBプラン決戦の舞台。
既に林道さん他百人の戦闘部隊が袂の道路に集結中。
皆、私服姿だが異様な光景でかなり目立つ。
羽織袴のシリト様とオレが合流する。
「加藤がやられた! 槍も通らない。凄まじく強いよ林道」
「了解です。シリト様」
オレは持って来た蓮華槍を林道さんに手渡す。
五十キロあるそれを軽々と振り回す小柄な女子。
ワイドパンツにビッグシルエットのニット合わせ。
「何か可愛いッスね」
「うっせーんだよ殺すぞ!」
この人は加藤さんと違って感情を爆発させるタイプだ。
戦闘モード全開。
「みんなー、今から市街戦になる。相手は強力で追われたら終わりだ。ここで倒すよ」
橋の中央に陣を敷くシリト様。
プップー、プーッ。
道路を封鎖された形の車がクラクションを鳴らす。
通行人が動画を撮ったり、通報したりと忙しい。
ホテルの方からハラキリ丸が一人、歩いて出て来た。
本当にノギクと二人で会合に臨んだのかと驚く。
生まれついての長でありながら、一匹狼。
こちらを見て嬉しそうに笑う。
まだ距離のある内に一個小隊が攻撃を仕掛ける。
三十人の手練れが襲いかかるも、目にも止まらない動きで捉えられた瞬間、チリと化す。
ほんの一呼吸で十人程が衣類だけ残して消えた。
「座敷わらしーッ!」
戦いながら吠える魔物。
「俺はな、この八百年で究極の矛と盾を手に入れたぞ。自身の能力を磨きに磨いてな」
よく見ると刃物での攻撃さえ避けずに殺戮を繰り返す無双状態。
蓮華槍での加藤さんの突きも通さなかった肉体だ。
あっと言う間に一個小隊が全滅した。
「ハッハーこれじゃ戦いとは言えんな」
ボロボロになった白いスーツのまま歩を進めて来るハラキリ丸。
正に死神そのもの。
皆の脳裏に死の一文字が浮かんだであろう瞬間。
「出るぞ蒼介ッ!」
林道さんの気合いが入る。
「了解ス! サポート、頼んだ!」
スマホで指示を出すオレ。
受話口から甲高い女の子の声が返ってくる。
「パパに命令されてしょうがなくだからね。でも、やってやるっぺさよ!」
近くのビル屋上から現場を見下ろしている金髪美少女。
佐部さんの一人娘、ルーマニア人のマリアだ。
橋の袂前で散開する二個小隊。
ハラキリ丸と林道さんが三十メートル程の距離を取って対峙する形。
皆、十分に間合いを拡げる。
巻き添えを食らわないように。
「林道……だったな。お前浪士時代の俺を殺しに来たろ」
「アレ、ムカついたから。鬼が人の世界の表舞台に立つんじゃねーっての。目立ちたがりがよ」
「ふん。力も速さも遠く及ばん」
「アタシの能力、暗殺向きじゃないから。使わなかっただけ」
ハラキリ丸が歩を止めた。
「射程範囲がデカくてさ。巻き込み注意なんだわ。アンタとっくに食らってるけど」
「……毒か」
「猛毒。一酸化炭素さ。直径三十メートルの球体の中に発生させてる。普通なら即死だけど」
両手を大きく広げ、ゆっくりと深呼吸してみせる男。
血液を操作しているらしい。
戦いながら、こんな精密作業もこなせるのか。
「フム。効かんな〜」
「やっぱり?」
「つまらん」
口をへの字にしたハラキリ丸。
一歩踏み出す。
いきなり不自然に止まって口を開けて上を向く。
カクカクカク。
まるで時計仕掛けの人形のようだ。
「ずォりゃああああああああッ」
林道さんが物凄いスピードで駆け出した。
だんッ!
真正面からハラキリ丸の両肩にポン、と飛び乗る。
「むおッ……」
そのまま、大口開けてるヤツの口元目掛け蓮華槍を突き下ろす!
ガスんッ……
やったか? 息を呑むオレ達。
「うがーーーーーーーーーーーッ」
玉のような汗を浮かべて唸る林道さん。
ハラキリ丸に槍の穂先をしっかり咥え込まれてびくともしない。
「フム、強力な術者がいるな……このハラキリ丸を縛るとは驚いたぞ」
そのまま彼女を橋の欄干までぶっ飛ばして槍を拾う。
「この槍。術が込められているな」
柄頭を捻ると四角錐状の穂先がパカと四つに割れて円状に広がる。
「成る程! これを口からぶち込んで心臓を狙うのか。ハッハハーこりゃ凄いのう。槍手が強ければ殺られていたなッ」
そう言ってから辺り一帯に気を膨らます。
「チッ」
スマホからマリアの舌打ちが聞こえる。
位置を探られた。
左前方のビル屋上を見上げるハラキリ丸。
「ここを片したら挨拶に向かおうぞ!」
少女の弱々しい声。
「ヤバいっぺ……もう力残ってない」
「と、とりあえず逃げろマリア!」
「あ」
「何? どしたッ?」
「……………………パパだ!」
いつの間にか。
橋の袂に鉄仮面の男が立っていた。
まるで信号待ちでもしているかのような。
この修羅場に相応しくない、普通の感じで。
「始祖の継承について知りたい」
いつもの白スウェット姿の彼がシリト様に問う。
「……同族殺しかい? 望むならいいよ」
無表情でハラキリ丸に向き直る鉄仮面。
「これはこれは! 百五十年ぶりだな有名人」
狼の形相で笑う無双男。
佐部さんは左手に脇差しだけ持っている。
「おいおい、このハラキリ丸と相対するのにエモノはそれだけか? 同族殺し」
「お前は何の為に生きる」
ほんの数秒。
間があってからヤツの顔が憤怒の色に染まっていく。
「誰に物を言うか小僧ッ!」
獣の臭いを撒き散らかしながら叫ぶ。
「敵を征服してその所有物を全て奪う……それこそが男にとって最大の喜び! 生きる意味だろうがああぁあッ」
「そうか」
全ては一瞬だった。
気付くと佐部さんがハラキリ丸の両肩の上。
額を右手で押し込む形で上を向かせ……その手首をハラキリ丸が左手で掴んでいた!
が、ヤツの右腕は既に肩から斬り落とされていて無い。
佐部さんは大根でも切るかのように掴まれた右手をハラキリ丸の左手もろともスパ、と斬り落とす。
両腕のない状態で〝小僧〟を見上げる狼。
口元をキツく噛みしめてニヤリと笑う。
脇差しを手放した佐部さんが、左手を貫手にして口元目掛け魔人の一撃を振り下ろす!
バキバキバッズズズズ……
上下の歯と下顎全てを粉砕した左手。
そのまま食道を突き進み、みぞおちで曲がると心臓を握り潰す!
崩れ落ちて絶命するハラキリ丸。
誰もが息を飲む。
あの堅牢な魔物を紙くずのように引き裂く同族殺し。
伝説は今尚、色褪せる事なくそこにある。
血だらけの佐部さんがぼそりと呟いた。
「やっぱり笑った」
橋の欄干に持たれかる林道さんに 「頭、潰しといて」 と指示出ししてから、鉄仮面を脱いでマリアのいるビルへと向かう。
この場にいる者の中で。
林道さんだけが嬉しそうだった。
それではまた…




