蒼介篇 シリトとハラキリ丸〜陸〜
毎日21時更新します…
SOUROUグループ。
1870年創業。
神戸港の開港から港湾荷役の仕事をスタートし、今では各地にコンテナターミナルを保有するに至る。
陸海空のグローバル輸送を展開。
ワールドワイドなんたらかんたら(SNS調べオレ)
それにしても、だ。
一万人収用の大ホールで決起会だなんて、えらく羽振りがいい話だと思う。
「ね、林道さん」
「あ? 何が」
今回の潜入調査において情報収集専門のオレに身辺警護の専門家がつく事になった。
林道あかね。
戦国時代から生き抜くこの国最古の鬼。
ただし本人は「江戸の生まれ」と言い張って認めない。
百歳近くサバを読みたがる身長百四十五センチの見た目今風のショートヘア女子。
「林道さんも加藤さんも何かオレに厳しくないスか?」
「加藤と一緒にすんな!」
ウチで最強の二人だけど仲は最悪。
林道さんは加藤さんがシリト様の警護を任されているのが、どうにも気に食わない。
「あんなヤツ。アタシなら三秒で殺せるわ」
おっかない。
とにかくこの人の能力は激ヤバだ。
そのせいで警護にもつけない。
「なんならこれからハラキリ丸の野郎、アタシがぶっ殺してもいいけど?」
目的のホールを目の前にして血生臭い鬼ギャル。
今日はドレスコードがあってオレも彼女もスーツなんで馬子にも衣装ってヤツ?
小柄で可愛らしいルックスだから、このバーサーカーも新卒のOLさんに見える奇跡。
十七時半、会場入り。
ハウスミュージックが鳴り響く場内は大型ビジョンによる映像とライティングの演出によって、巨大ライブ空間と化していた。
一階アリーナ中央には平たく巨大なステージが設置されていて、数十人のスーツ男女がスタンバってる。
二階席に陣取るシリト組。
「クラブのイベントみたいッスね!」
林道さんの耳元で叫ぶ。
ピアスじゃらじゃら。
会場には一万六千人に及ぶ超満員の参加者達。
老若男女、皆スーツ姿でオールスタンディング。
熱狂的だ!
場内を煽るのはステージ上の一人の女。
しなやかな肢体にピンクスーツを着こなしヘッドセットマイクで進行する。
ハラキリ丸の腹心、ノギクだ。
「ハーイ。港湾運送部門の皆さんお疲れ様でしたー。という事でね。我がSOUROUグループの要とも言うべき彼らにもう一度、盛大な拍手を!」
嵐のような拍手の中、ステージ上の数人の男女が手を振ったりガッツポーズしたりと歓声に応えている。
やがて場内のBGMがフェードアウト。
照明が落ち、参加者達も一斉に静まり返る。
「ハイ、それではいよいよ本日のメイーンイベントォ! SOUROUの理念を実現させるのはこの男。武器調達事業部門部長、江口孝則ーッ」
ピンライトがステージ上の眼鏡男性に当たると頭のバーコードがキラキラ輝く。
武器調達って何だ?
思わず林道さんを見るとあくびしてた。
「我々SOUROUグループが長年に渡って交渉して参りましたァァ」
中年メガネ男が語尾にビブラートをかけながら。
にわかに信じ難い内容の報告を始めた。
「小型核弾頭、並びに短距離弾道ミサイルの取引についてですがァァ」
拳を天に突き上げる。
「この度契約成立致しましたァァァーッ!」
会場が一瞬どよめく。
しかしそれは割れんばかりの歓声とスタンプによって直ぐにかき消された。
オレはパニクってる。
武器調達? 核兵器? 何ソレ?
恐る恐る隣を見ると……今度は寝てた。
やがて場内は「会長」コール一色になる。
ステージ中央にいる四十歳代と思しき男にノギクがマイクを渡した。
「江口くん。グッジョブ」
会長と呼ばれるオールバックの男。
背丈は百七十センチ程だが、その表情を見るだけで別格だとわかるオーラが迸っている。
「我らが悲願でありますね、世界征服。これに向けて着々と準備が整っております」
死の匂いを振り撒きながら、男は叫ぶ。
「武器調達事業部門に、最大限の拍手を!」
あの会長を見た時から、うなじが総毛立つ。
ハラキリ丸。
〝秤〟にかけると『サイのようにデカくて堅牢な狼』が見える。
佐部さん並みの化け物。
能力も……戦闘、殺人に特化。
ヤバい。
これじゃ触れる事も難しい。
近接戦闘。
今回でいうなら蓮華槍をぶち込むタイミングを見誤ると、こっちが殺られる。
ふと、息を感じて横を向く。
林道さんがヤツを凝視していた。
まさか、と思ったが行く気配はない。
何か呟いてる。
唇の動きを読むと
「こりゃムリゲーだ……」
さすがベテランは違う。
秤が無くたって見ただけでわかるらしい。
それではまた…